ハイ・スライム

 攻略チームはしっかり隅々すみずみまでゴブリンの集落を調べて戦利品を確保してから奥に進みました。


 荷物持ちはヨハンさんになったようです。このメンバー編成では彼が適任ですが、文句はないのでしょうか?


「この奥はスライム臭いから後ろで見てるっす!」


 荷物を持って元気よく宣言するヨハンさん。すっかりスライム嫌いになりましたね。都合が良いからか誰からも非難の声は出ませんでした。


『やっと下りてきたか。待ちくたびれたぞ』


 ボスさんは律儀に待っていたようです。ちょっと視点を変えて声の主を見てみましょう。


「そんなことも出来るんですねぇ。凄い魔法だ」


 モミアーゲさんが感心していますね、ふふふ。私も伊達に宮廷魔術師やってませんからね、これはかなり高度な魔法なんですよ?


 さて、奥に目を向けると……いました。


 巨大なスライムですね。人間の平均身長の倍ぐらいの高さがある、丸い半透明な物体。ガラス玉を思わせます。どうやってしゃべっているのでしょう?


「ぎゃー、でっかいスライム!」


 マリーモさんが頭を抱えて嫌そうにしています。


「あれ捕まえられませんかね?」


 コウメイさんは興味深そうに眼鏡をクイッとしています。どうやって持ち帰るつもりでしょうか?


『我をただのスライムと思うなよ。百年の時を生きて手に入れた力、とくと見るがいい!』


 長生きしたスライムのようです。さっきからしゃべる声に合わせて体がプルプルと震えています。どことなく涼しげですね。


「あれを捕獲するのは無理だ。ギフトを使ってくれ」


 冒険者には、特別な技を持つ人がいます。技能スキル紐付ひもづいている技はそのままスキルと呼ばれますが、個人の才能とか努力によって身に付けたその人ならではの技をギフトと呼びます。神に授けられた才能という意味の古代バルトーク語ですが、別に神は関係ありません。


 私の堪忍袋バーストストレージやマリーモさんのローリンマリモみたいな攻撃技は、攻撃という用途が同じなので、その人だけの技でもスキルと呼びます。ギフトと呼ばれるのは本当に特別な使い道のある技だけなのです。


 ただ、技能スキルとスキルが紛らわしいのでこちらも別の名称にしようかと思っているんですよね。冒険者の皆さんからも職業ジョブ技能スキルをよく間違えるという声を頂いてますし。この探索が終わったらミラさんサラディンさんと話し合ってみようと思います。


 それはともかく、ギフト持ちは重宝されるのです。コウメイさんはその名もズバリ【鑑定かんてい】、見ただけで図鑑的な詳細情報が分かってしまう奇跡の力なのです!


 このようにギフトはあまりに便利なので『不正技能チートスキル』と呼んでやっかむ人もいるほどです。不正なことなんてないんですけどね。私もギフト持ちなので、あまりチート呼ばわりされたくないのですが。


「仕方ありませんね。様々な実験をして解明するのが楽しいのですが」


 趣味なんですね。知識面での解明は簡単に済ませて貰いたいのですけど。スライムの魔宝石みたいにノウハウを得るのは【鑑定】では無理ですから、そちらに労力を割いて貰いたいんですよね。とはいえ、ギフト持ちにへそを曲げられては困るので無理強いはできませんが。


「あれはハイ・スライムですね。通常のスライムより強く、魔法も使えます」


 魔法を使うスライムですか。これは手強そうですね、どんな魔法を使ってくるのでしょうか?


「はい、鑑定したから用済みねー」


 あ、マリーモさんがコタロウさんから塩を……。


『ぐわあああ!』


「あー、全部使っちゃった。おにぎり用なのに」


 塩を全部使われたコタロウさんが何やら悲しんでいるようですが、表情が変わらないのでよくわかりません。おにぎりって何でしょう?


 ともあれ、大量の塩を浴びたハイ・スライムは自慢の魔法を使う間もなくしおれてしまいます。


「はい、ファイアーボール」


 ミラさんの魔法でとどめを刺され、何の感慨もなくボス戦が終わってしまいました。もうちょっと苦戦するかと思ったんですけどね、まあ無事に越したことはありません。


「さーて、スライムも退治したし、お宝を探すのよー」


 マリーモさんが意気揚々と辺りの地面を探り始めます。スライムは自分が作った魔宝石を洞窟の隅に集めるんですよね。何のために作っているのでしょうね?


 他のメンバーも周囲を調べ始めますが、荷物持ちのヨハンさんは動きません。


「スライム臭いから早く出たいっす」


 なぜそんなにスライムの臭いに敏感なのでしょう? 謎ですが、これは彼のギフトなのかもしれません。何の役に立つのか分かりませんけど。


――ボトッ。


「ぎにゃああああ!?」


 あっ、天井の隙間に潜んでいたスライムがマリーモさんの上に……。


「やめっ、あ、服に入っちゃだめえええ!」


 スライムがマリーモさんの服の中に入り込みます。そういえば塩は使い切ったんでしたね。ミラさんは上手くスライムだけに火を当てられるでしょうか?


「ちょーっと熱いかもしれないけど我慢してね!」


「だめー! 焼け死ぬううう!」


 うーん、これは大変なことになりましたね。ミラさんは自他ともに認めるノーコンですからねー。スライムがマリーモさんの身体を這いずっています。服がはだけてそろそろお子様には見せられない状態になりそうですよ。


「お困りのようですねぇ」


 そこに、どこからともなく覆面マントの行商人が現れました。


 いやー、こんなにタイミングよく一体どこから現れたんでしょうねー(棒)


「塩の瓶、一つ500デントで売りますよぉ」


 おお、凄いお値段です。ちょうど指令の報酬と同額を設定している辺り、さすがですね。




「ぐぬぬー……」


 結局モミアーゲさんから塩を買って難を逃れたマリーモさんですが、不満そうです。報酬がほとんどなくなってしまいましたからね。スライム捕獲とゴブリンから奪った宝の分、追加報酬が出るからタダ働きにはなりませんが。


「どうぞ、ご贔屓ひいきに」


 そう言って去っていくモミアーゲさんの背中に「二度と利用しないわよー!」と悪態をついていますが、私の勘では彼女はこれから何度も彼のお世話になると思います。


 攻略パーティーはこの後魔宝石を全て回収した後にミラさんの魔法で徹底的に洞窟内を焼き尽くしました。多少のトラブルはありましたが、これで指令達成です!


「お疲れさまでした」


 私はギルドの机で、冒険者管理板に向かって労いの言葉をかけたのでした。

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