ゴブスラ洞窟3

 サラディンさんがゴブリンの集落を全滅させる算段をつけています。とは言ってもメンバーが少ないですからね……確実に掃討するために逃げ道をふさぐのが主な目的ということで、入り口に待機メンバーを置くのと探索を終えたらミラさんが洞窟内を焼き払うという計画を説明しています。


 残酷なように思われるかもしれませんが、ゴブリンは一匹でも生き残っていると人間側に多大な損害が出てしまいます。特に若い女性にとっては最悪な相手なので、確実に全て倒してしまわないといけません。情けをかけるのは禁物です。


「お宝を回収する前に燃やさないでねー」


 マリーモさんが茶化すように言いますが、ミラさんにはボガード退治で森を燃やした前科があるので笑いごとではありません。


「青筋が立っていますねぇ。怒ると疲れますよぉ」


 あれ、怒りが顔に出てました? モミアーゲさんに指摘されてしまいました。


 そんなわけで、集落の入り口側にミラさんとコウメイさんが見張りとして残り、サラディンさんコタロウさんを前衛、ヨハンさんマリーモさんを後衛として集落に突入するようです。ヨハンさんは突っ走るかと思ったのですが、先程のゴブリン戦で満足したのか大人しく後ろについていきます。


「スライムの臭いがするっす」


「えー、嫌なこと言わないでよー」


 どうやらヨハンさんはスライムの気配を感じて後ろに下がったみたいですね。気合で捕まえていましたが、襲われた記憶が残っているのでしょうか?


「スライムの臭いってどんな臭いです?」


 前を歩いていたコタロウさんが興味を示しました。振り返ってヨハンさんに質問します。


「なんか、水っぽいというかネッチョリしてるっす」


 それ、どんな臭いですか?


 臭いというより感触のような気もしますが、特に感想を述べずにまた前を向くコタロウさん。ピンとこなかったようですね、分かります。


「いたぞ」


 サラディンさんがゴブリンの集落を見つけたようで、短く一言だけ言うとすぐに地面を蹴って走り出しました。コタロウさんがそれに離れないようについていき、ヨハンさんとマリーモさんは少し遅れて追いかけます。マリーモさんが速く走れないのでヨハンさんが置いていかないように速度を合わせているみたいですね。ヨハンさんにもそんな気遣いができるとは、ちょっと感動しました。


 そうこうしているうちに、サラディンさんがゴブリン達を斬り伏せていきます。


「バケモノ! バケモノ!」


 集落のゴブリンは大騒ぎで逃げ惑っています。抵抗の素振りを見せたそばから斬り殺されていくのです。とても反撃に転じられるような状況ではありません。中にはサラディンさんから逃げてコタロウさんに向かっていくゴブリンもいましたが、素早くナイフで首を斬られて地面に倒れました。


 実力差がありすぎましたね。この二人の身体に傷をつけるどころか、武器を構えて対峙することができたゴブリンはほとんどいません。ヨハンさんとマリーモさんはただ後ろから見ているだけですが……おや?


 マリーモさんがオカリナに口をつけました。この状況からオカリナを吹くとどうなるのでしょう?


「しっかり全部処分しないとねー。いくよ、ローリンマリモ!」


 ローリンマリモ? と思っていると、マリーモさんのオカリナに合わせて彼女の周囲に大きな緑色の丸い物体が現れました。毬藻まりもと呼ばれる水中植物ですね、北の帝国領にある湖でよく見られるそうです。その毬藻が大量に地面をコロコロと転がって、逃げ惑うゴブリンにぶつかっていきます。


「ウギャア! イタイ!」


 痛いんですか……。


「やっぱりマリモじゃないっすか」


 ゴブリンをあらかた退治し終えた頃、ヨハンさんが言いました。そうですね、私もそう思います。


「うるさいわねー、ちょっとは働きなさいよポンコツ」


 今回まったく戦っていないヨハンさんに非難の声を投げかけるマリーモさん。さっきはあんなに元気だったのにどうしたのでしょう?


「なんか疲れたっすよ。あの歌のせいじゃないっすか?」


 あー、副作用ありそうな感じでしたからねぇ。


「あんたの体力が足りてないのよー、サラディンさんは平気でしょー?」


 そもそもサラディンさんにあの歌は効いていたのでしょうか? ヨハンさんだけ妙にハッスルしていたみたいですけど。


『ククク……ゴブリンどもを仕留めたか。なかなか骨のある侵入者が来たな』


 突然、洞窟の奥から不気味な声が聞こえてきました。これは洞窟の主みたいなモンスターがいるようですね。こういうことはよくあります。統率するリーダー格がいないと、一つの洞窟に大量のモンスターが暮らしていくのは難しいのです。


「これは、新種ですかね!?」


 異様な速さでサラディンさん達のところまで駆け寄っていったコウメイさんが眼鏡を光らせながら興奮気味に話しています。完全におもちゃを見つけた子供の目をしています。


「とりあえず声の主は放っといて資材を回収しましょ」


 ミラさんが興奮するコウメイさんをなだめて、探索を提案しました。ナイスな判断です。我々の目的は洞窟資源の確保ですからね。ボスに気を取られて探索を忘れてしまったら宰相のクレメンスさんに怒られてしまいます。


「ミラの言う通りだ。まずはこの周辺をくまなく調べよう」


 サラディンさんがミラさんに同調し、探索を指示しました。


 ところで気になったのですが、サラディンさんはミラさんの名前が『ミラ』だと思ってたりするのでしょうか? ミランダという名前なのですが、そういえば私はずっと彼の前で『ミラさん』と呼んでいました。


 それとも実はすごく仲が良かったり?


 ギルドでも無口なサラディンさんと賑やかなミラさんは性格が反対なのに、妙に気が合っているように見えます。ちょっと二人の関係が気になりますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る