〈50〉最合晴斗のエピローグ

 ふわりと零れ落ちる月の灯かりの下を雨傘と並び歩きながら、こやつはいま何を思っているのだろう、と考えた。


 鞄を忘れかける程のお散歩とやらに関しては一切を語ろうとしない。どういった経緯で恋寺さんや、愛すべき僕のクラスメイトと時間を共にすることになったのか気になる限りだ。


 梶来くん達にも謝らなければいけないし、明日話を聞いてみるとしよう。


 隣を歩く雨傘は何も言わない。僕の失言に対して無反応を決めてくれたようで助かる限りだ。厳しく追及されたらここまで平然に努めてきた仮初を全て剥ぎ落されていただろう。


 今日は大変な一日だった。そこに雨傘はほとんどいなかったというのに、目まぐるしく訪れた変化の影響を最も受けたのが雨傘への感情だというのはおかしな話だ。離れてから初めて気付く、というやつだろうか。


 この小娘の頭の中は「友達できた!」とか「帰ったら何をしようかな」やらで一杯なのだろう。能天気な奴である。


 僕は油断するとお前のことばかり考えてしまうというのに。なにかの間違いで僕のこと好きになってくれないかな。


 しかしまあ、急ぐ必要も無い。寝て起きた頃には熱も引いて、また元通りに接することが出来るだろう。しばらくはこのままでいい。月並みではあるが今の関係を失うのは御免だ。かといって現状維持に甘んじて、雨傘を失うのはもっと御免である。何かしら手を打たなければならない。


 雨傘が歯を噛み合わせて音を鳴らした。獰猛な奴だ。


 この行動も僕からすればあざとく見えるもので、実際に可愛いと思ったのだが、首を傾げて知らんふりをした。


 部室を出る時に見た二頭のサメの頭を思い出す。


 今年の文化祭はなにをやろうか。もしかするともう一度雨傘に告白することになるかもしれないが……今考えるには早すぎる。


 まずは夏を満喫しよう。これまで通り雨傘と過ごす日々を楽しみながら、あれこれ画策してやるのだ。成功と失敗を積み重ね、落ち込んだり笑ったりを繰り返しながら、雨傘にとって僕は、男として掛け替えのない存在なのだと意識させてみせよう。難しそうだが、望むところだ。


 酸いも甘いも飲み干して、終わってしまえば笑い話。

 雨傘と一緒に、笑ってみせよう。

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ラブコメはまだ始まらない 鳩紙けい @hatohata

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