【47】三人のエピローグ
終話と同時にスマホをプールに放り投げてやろうかと手を振り上げましたが、私の中の天使が「あなたは賢い子よ」とバイノーラルに囁いてきたので取り止めました。
もはや私に先輩と会うことへの緊張はありません。と思った矢先に新たな緊張が込み上げてきました。
あの口ぶりでは私が居たことなど知りもしないのでしょう。
私の気も知らないで呑気なものです。知っていることを知られるよりいいですけど。
そんな私に咲沙さんが言いました。
「良かったねー雨傘ちゃん。よかったね~~」
「な、なにがですか」
悪戯っぽい笑みが近付いてきて、私は咄嗟に顔を逸らしました。その先にはニヤつく町田さんがいました。
「早く行ってあげたら? 私達は帰るから」
「それは困ります! ま、待っててください! みんなで一緒に帰りましょう!」
いま先輩と二人きりで帰ることになったら私は死んでしまうでしょう。そうなったらどう責任を取るつもりなのか!
私は目線で梶来さんに縋り付きます。
「た、たこ焼き星人……」
「誰がたこ焼き星人だ。いいから行って来いって」
こうなったら京塚さんと音矢くんにも責任を取って貰おうと決めたのですが、いつの間にか二人の姿が消えていました。暗闇に目を凝らすも、あの妙に存在感のある黒スーツが見当たりません。
「京塚さん達は……?」
「ん? あれ、おかしいな。今まで話してたんだけどよ……これ俺らの荷物だ」
梶来さんが声に困惑を滲ませ、さっきまで二人の居た場所を見つめながら言いました。近付いてみると、鞄とライトがぽつんと地面に置かれているだけで二人の痕跡はありません。
「どゆこと? こわ」
「ほんとに出鱈目な奴等だよな。次会ったら文句の一つでも言ってやる。よりにもよって姉貴と会わせやがって」
「いいお姉ちゃんじゃん」
「まあな」
そうして各々荷物を手にすると、いよいよ解散のムードが漂い始めました。三人は私を急かします。それはもうとんでもないくらい急かすのです。なんとせからしいのでしょう。
「話聞かせてよねー。自分だけのにしたいっていうなら別にいいけどさ」
「正門で待ってるから。ゆっくりでいいよ」
「変なことすんなよ」
私は何度も振り返りながらちょっとずつ進んでいきます。
「絶対ですよ! 約束ですからね! いなかったら枕元に立って耳からもう片方の耳を突っ込みますからね!! ほんとですよ! 私はやる時はやるんですからね! 返事は!」
恥も外聞も投げ捨て残ったわずかなプライドを守る為に何度も繰り返してから、私はようやく部室へ向かうのでした。
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