〈45〉〇七〇二

 カラオケを共にした面子の誰の連絡先も知らない僕はしばらく頭を抱えたが、これと言った解決策も見つからず、忠告通り着替えてから今日は帰宅することにして、日陰者調査団の部室へ向かった。まだ学校を去るのが名残惜しい、という感情もあったように思う。


 窓から中へ入ると勘を頼りに棚からデスクスタンドを取り出し、電源を入れる。幸い充電は残っていた。


 明かりを手に部屋の隅に置かれたプラスチックのケースを漁り、いつのとも誰のとも知れない予備の制服を引っ張り出して着替えを終えると、清々しい気持ちとなった。


 椅子に座ると下着の不快感が主張を増したのですぐに立ち上がる。そこで雨傘の鞄が未だ回収されていないことに気付いた。


 なにをやっているんだあの小娘は。ついには鞄を忘れるほど頭が悪化したのか。


 中身を確認してみたが、やはり雨傘のもので間違いない。検品している内に、底でスマホが眠っているのを見つけた。


 そうだ、これを使えば僕の荷物を確保してくれているであろう誰かと連絡を取れるかもしれない。


 今日は冴えているなと自賛しつつスマホを手に取り、横に付いたボタンを押すと画面が立ち上がった。そこには僕からのメッセージが表示されていて、奇妙に思い開こうとしたが、パスワードを要求される。小癪な真似を。


 最初に浮かんだ数列、一一〇七を入力してみたがにべもなく突っぱねられた。続けて七八三〇、悩みゼロで挑戦するも実りは無い。あいつにも悩みがあるらしい。

 いよいよ手詰まりとなった僕は、ダメ元で〇七〇二と入力する。思いついた数字がそれくらいだから、という理由だったのだが――見事セキュリティを突破した。出来てしまった。これには僕も驚愕を禁じ得ない。


 どうして雨傘がこの数字を?


 この不意打ちは静まっていた雨傘への感情を再び活性化させ僕へ差し向けてきやがる。


 動悸に指が震えたが、なんとか自分の連絡先を選択し、発信することが出来た。無機質なコール音が三度繰り返される。そして、次の音が鳴り終わる直前に、反応があった。


「も、もしもし」

「…………その声は、雨傘か?」


 電話に応じたのは雨傘だった。


 なぜ僕のスマホを持っているのか見当もつかないが、雨傘の声を聞けたことが無性に嬉しくて気にならなくなった。

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