【39】あぱぁ
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「ひゃ~~やるねえ最合くん。好き好き大好き超愛してるだって」
「最合の奴、妹って言ってたのは嘘かよ。水臭いな」
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………………………………あぱぁ。
先輩の告白に私の頭はやられました。大事な回路が全部焼き切れた気がします。加えて胸の辺りで火薬の塊が破裂しました。致命傷です。
頭の中で何度も何度も先輩の言葉がリフレインして細胞と癒着していきます。リフレインリフレーンデュフレーン!
何なのあれはなんなんですか一体!
先輩が、私のこと、好き? そんな素振りこれまで一度も見せたことなかったのに。実はずっと好き好き大好き超愛してるとか考えてたということでしょうか。
いきなりそんなカミングアウトをされても私は先輩を異性として見たことなんて…………無くはないですけど、でもだからといってこんなうぎゃあ。
「雨傘ちゃん顔真っ赤じゃん。かわいーなーもう」
「ち、違う」
「素直になりなよ」
「だから違うって」
「返事はいつするんだ?」
「あーーーーーーーーっ!」
私は暴れました。近寄る者すべてを弾き返す覚悟で手足を振り回し、そしてサメの口へ頭から突っ込みます。勢い余って頭を打ちましたが構いません。再び手足をばたつかせ、クッションを念入りにタコ殴ります。サメを食べるタコがいるとかなんとか、つまり私が一番強い!
最強の座に毅然として構えることで私は平静を取り戻しました。
これで落ち着いて咀嚼することが出来ます。
先輩が私のことを好きだと言いました。
「あーーーーーーーーっ!」
全然無理でした! 落ち着くわけがありません!
いやいやいいえ大丈夫、なぜなら私は聡明な子。深呼吸をして無理くり胸のドキンコをドキまで鎮めました。
せ、先輩のことだからあれは冗談に決まっています。私をからかう為に他なりません。悪質極まりない悪戯なのです。
けれども先輩は私がここにいると知っているのでしょうか……知らなければ本心と言うことに。いや、私には分かります。伊達に先輩と一緒に居たわけではありません。
恐らく場の空気に流されて参加することになり、告白の流れを壊さないよう調和を図った結果、あのような告白をでっちあげるに至ったのです。
かーなーりしっくりくるので間違いないでしょう。うんうん、解決。さすが小唄ちゃん。
「ってそんなわけにいくかーー!」
クッションに顔を埋めて私は叫びます。真実がどうであれ、あんなことを言われたら、よりにもよって先輩に言われたら……忘れることなんて不可能です。無かったことになど、出来るはずがありません。
文句を言いつつも結局は私に付き合ってくれて、向こうから誘ってくれることもたくさんありました。
ぼーっとしてるようで色々考えてくれてるし、意外と行動力があって普段私が行かないような場所にも連れて行ってくれる。
すぐ怒って意地悪なことも言うけど、最後には楽しそうに笑うから、私の前では色んな顔をしてくれるから――それが嬉しくって。
私だって先輩のおかげで毎日が楽しくなった。
出会ってから三ヶ月ずっと一緒に居てくれた人。
これからもずっと一緒に居たい、男の人。
あぱぁ。もしかして私、先輩のこと好きなのかなぁ……。
未だ盛りを過ぎない顔の熱を、私はなんとか拭い取ろうと必死でした。中々取れません。ああ、私の心が冷たいばかりに!
身悶え続ける私に、咲沙さんが言いました。
「それじゃ行こっか。今なら居場所分かってるし」
「ま、待って! ダメ! ダメです今は無理! もうほっといて帰りましょう! はい決定!」
匍匐で後退する私の足を誰かが押さえます。町田さんが怪しいです。戻って来たに違いありません。
答え合わせをする間もなく、無情にもサメが動き出しました。
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