【35】声が降る
だだっ広い敷地内を遮二無二逃げ回り、さしもの私にもパンダさんを心配する気持ちが芽生え休憩を兼ねて物陰に潜んでいたところ、奇妙な光景を目にしました。
たこ焼き星人が女性とサメ人間の大群に追われていたのです。やや距離があった為か、咲沙さんの呼びかけにも止まらず通り過ぎて行きました。
サメの先頭に居るあの女性は、さっきもたこ焼き星人を追っていたような。梶来さんは本当に一体全体何をしでかして、あのような運命を辿っているのでしょうか。
咲沙さんは心から愉快そうに笑っていました。これぞギャルだと感心する私でしたが、すぐに誤解を解いてあげようと言われ目玉がたこ焼き星まで吹っ飛びそうになりました。
「誤解もなにも自業自得という可能性は?」
「かもねー。でもあたしくらいあいつを信じてやらないとさ、なんか可哀想じゃん」
自分の物差しに従う考え方は非常に共感できますので、私も頷いて、梶来さんの救出へ向かうことにしました。
不気味な尾を引くたこ焼き星人がグラウンドへ入っていくのを見て、私達はおおよそのルートを読んで先回りを仕掛けます。碁盤目状に設置されているテントの間を進んでいくと、運動部が精を出して作り上げたアトラクションのスペースに出ました。「人生風味」という名の迷路や飛ばない気球などやりたい放題がとっちらかった空間です。野球部の練習場へ続く案内板には「甲子園体験できるよ!」と書き殴られており、ちょっとだけ気になりました。何をするつもりなのでしょう。
たこ焼き星人がいるであろう位置を目指しつつ、他方に興味を散らしていた時のことでした。テントの隙間から飛び出してきたたこ焼き星人が、迫り来る我々シャーク愚連隊に気付くも時すでに遅し、見事に衝突してしまいました。たこやきの被り物が宙を舞い、梶来さんを人間へ戻します。
私は自分が跨っているサメが持つ人喰いの本性を恐ろしく思いながら降りました。
「ちょっと大丈夫⁉」
口から出てきた咲沙さんに続いて私も横たわる梶来さんの側へ駆け寄りました。
「散々だ……もう休ませてくれ」しみじみ言う梶来さんを見て、咲沙さんが苦笑いをします。
「そうだ雨傘。見つけたぜ最合。話せる状況じゃなかったから別れたけど」
「え、どこでですか!」
詳細を聞こうとするも、答えが返ってくる前に遮られました。
梶来さんを追っていた女性がサメ人間を引き連れテントの間から出てきたのです。女性は私達を視線でなぞっていき、梶来さんで止めて言いました。
「
「最悪だ…………」
両手で顔を覆う梶来さん。この女性とお知り合いのようです。
「なによ絶対来ないとか言ってたくせに。そんなに私のこと好きか」
「もしやこの人は……梶来さんの彼女さん」
「うわっ、気味悪いこと言うな雨傘! こいつは俺の姉貴だよ! 最悪なことにな!」
お姉さん。ははあ、なるほど言われてみると目元が似ているような。姉弟揃って美形とは、実在するものですねえ。
「だから逃げてたの? 思春期してるね弟よ。ほら、さっさとスマホ返せ」
梶来さん(姉)が意地悪い顔をして梶来さん(弟)のお腹をつま先でつつきます。
「なんでこんなことしたの。最合くんが変なこと言ってたけど――」
アネキさんがそう言いかけた時でした。
「三年四組
グラウンドの隅まで届くような大声が頭上より降ってきたのです。
声の方を見上げると、屋上に人が立っていました。
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