【21】精神性エリクサー

 咲沙さんによるレクチャーを受けながら連絡先の交換を終え、ついでに先輩のスマホから私のスマホへの転送にも成功した折に、一人の男性が大慌てで走って来ました。息を切らしながら咲沙さんの横まで来ると、息を整えようともせずに言いました。


「大変だ咲沙。最合が連れて行かれた」

「は!? どういうこと?」


 見出しから受けた衝撃に背を叩かれ、私は男性に詰め寄ります。


「どういうことですか。先輩が連れて行かれたって」

「あんた……もしかして雨傘って子か」

「そうです! 何があったんですか!」


 男性、梶来さんはカラオケボックスを出てから現在までの経緯を掻い摘んで説明してくださいました。


 先輩を連れ去った悪党の正体は、私を散々振り回したかの恋寺さんなのだそうです。見知らぬ人間でなかった点は幸いと言えますが、しかし一体なんのつもりやら。


 ろくでもないであろう思惑を探るべく、私は京塚さんを見遣ります。


「そんな目をされても私に恋寺の考えていることなんて分からない。あいつは日頃なにも考えていないから読みにくいんだ。危険がないことだけは現時点で保証できるかな」

「京塚さんから連絡してください」

「無理だ。恋寺は機械を持ち歩かない。バカだから使い方が分からないのさ」


 役に立ちそうもないので再び梶来さんに尋ねます。


「どこに行ったか分からないんですか?」

「悪い、途中で見失った。あー……もしかしたら学校かもな、俺達の。言い忘れてたが学校へ向かう途中だったんだよ」


 学校、つまり走れば十分も掛かりません。そんな計算が終わるよりも早く私の足は動き出していました。


 いくら危険が無いとはいえ恋寺さんが何をしでかすか想像も出来ません。万が一にも先輩が恋寺さんに鼻の下を伸ばし邪な感情を抱いては大変です。むしろ恋寺さんを守らねば、という大義が私の体力をもりもり回復させていきました。


 今日はたくさん走って疲れたし、明日の分の学校をこれから済ませてやるんだから!


 意気軒高たる私の肩を何者かが掴みます。京塚さんだったので振り払おうとしたのですが、こんなことを言われ足を止めました。


「まあ待ちなよ雨傘ちゃん。私の車で連れて行ってあげよう。恋寺と違って私は文明を愛しているからね」

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