第118話 かんさつにっき ~その2~

「それじゃあ、行ってくるね。何かあったらキャロルさんが食堂にいるからね」

「はーい」


 ティナおねえちゃんは、おともだちにあいにいくんだって。エイダもあったことあるんだけど……なまえ、わすれちゃった。


 「いっしょにいく?」っていわれたけど、おしろのなかはひとがたくさん。だからエイダはおるすばんすることにした。


「いってらっしゃい」


 おにわからティナおねえちゃんがみえなくなるまでおみおくり。さみしいけど、エイダはいいこ。ちゃんとおるすばんできるもん。


「ん-、なにしよう。……そうだ! みまわり!」


 みまわりはエイダのしごと。へんなことがないがチェックしてるんだ。えらいでしょ?


 よーし、まずはおにわから。


 おにわのまんなか!

 ふんふんふんふん。


 おにわのすみっこ!

 ふんふんふんふん。


 きのした!

 ふんふんふんふん。


 あ、ちょーちょ! とりゃ!


 むぅ、にげられちゃった……。


「……チビ助、さっきから何をしている?」

「う?」


 うえをみあげたら、おおきなとりがいた。


「ルーク!」

「ルークさんと呼ばんか。で、何をしているのかね?」

「エイダ、おるすばん。みまわりしてる」

「今のが見回りだと?」

「えっへん!」

「……遊ぶのはいいが、敷地からは出るんじゃないぞ」


 あ、とんでいっちゃった。むぅ、あそんでるんじゃないのに。しつれないやつめ。


「つぎはなか!」


 そとはいじょうなし。つぎのみまわりはなかだ。


 だけど、いりぐちのだんさが……いつもはだっこしてもらってるんだよね。うーん、だれもいない。


 ふんだ、エイダならこのくらいよゆう─―あれ……うしろあしが……と、とどかない。ふぐぅ……うぐぐぐっ! まえあしがすべる。このっ、このっ……ふぬぬぬぬ!


「のぼれたー!」


 すごい。さすがはエイダ。エイダはやればできる。えらいこ!


 えへへ、ティナおねえちゃんにもみてほしかったな。


 そうだ、はいるまえにすることがあった。いりぐちにあるタオル。これであしをふかないと。つちおとさなきゃ、なかがよごれるんだって。


 ごしごしごし。このくらいでいいかな?


「あら、エイダ」

「ノーラ!」

「珍しいわね。今日は一人?」


 ノーラのなまえはながいからぜんぶいうのがたいへん。だからノーラってよんでるんだ。えっと…サ、サバ? そうだ、サーバルキャットっていうんだって。エイダとおなじネコかなんだ。

 

「ティナおねえちゃん、おともだちのとこ」

「ああ、あの貴族の。エイダは留守番してるってわけね」

「うん。エイダ、みまわりちゅう」

「敷地からは出ちゃダメよ」

「はーい」


 まえあしあげてへんじをしたら、ころんじゃった。むっ、ノーラがわらってる。しつれいなやつめ。


 ノーラはそのままどこかにいっちゃった。エイダはみまわりさいかいだ。


 ふんふんふん。


 ふんふんふん。


 う?


 へんなにおいがする。ドアのすきまからだ。むむむ、なんかあやしいぞ。


──ガチャ


「ぎゃう!」


 いたい! きゅうにドアがあいた。


「あ、なんかいた」

「え? あらぁ。チビトラちゃんじゃない」


 こ、このこえはっ!!?? うぎゃ、つかまった!


「よぉ、ちびっ子。今日はティナと一緒じゃないのか」

「さわるな! おろせ!」

「おー、暴れてる暴れてる。威勢がいいな~」


 くそぅ、このあおいやつ、びくともしない。はーなーせー!


「なぁに? あなた随分嫌われてるわねぇ?」

「ぴぎゃ!」

「オレよりあんたの方が嫌われてない? 動かなくなったぞ、こいつ」


 ちゅうしゃこわい。こいつきらい。

 ちゅうしゃこわい。こいつきらい。


「失礼ねぇ。私、子供には優しいのよぉ。ちょっと貸し──」

「ギャウゥゥゥーー!!」

「あ、逃げた」

「まぁ、失礼しちゃうわぁ」


 うわぁーん! ヘビ、こわいー!

 あそこは「へびのそうくつ」だ。にどとちかづくもんか!


「……う?」


 いっしょうけんめいはしってたら、いつのまにか2かいまできちゃった。


 ここは……えっと……「しつむしつ」だ。


 そうだ! ここには、レナがいる。レナ、いちばんえらい。あのヘビたちがおいかけてきてもあんぜん。


「レナ! レーナー!」


 おおきなこえでレナをよぶ。ドアはすぐあいた。


「エイダ? どうかしたのですか?」

「ひなん! かくまって!」


 いそいで「しつむしつ」のなかにひなんする。ソファのした。ここにかくれればあんぜんだ。


「何かの遊びですか?」

「わるいやつらにあった」

「悪い奴ら?」

「ヘビのそうくつにつれてかれるとこだった」

「ヘビの巣窟? ああ、今日はフィズがルドラに引き継ぎをしていましたね。いいですよ。しばらく、ここにいなさい」


 レナ、おしごとはじめちゃった。ときどきあそんでくれるけど、きょうはいそがしいみたい。


 ……ふわぁ、なんだかねむくなってきた。いっぱいはしったから、ちょっときゅうけい……。





「…だ。めず…しい」

「…ようです」


 う? このこえは……。


 そ~っとかおをだしてみる。やっぱり、クライヴだ。


「おや、起こしてしまいましたか」

「エイダ、お前いびきかいてたぞ」

「う?」


 もそもそソファのしたからでる。


 まえあしグー。つぎはうしろあしグー。んんー、よくねた。


「エイダが来ないって、キャロルが心配してたぞ」

「ああ、そういえばおやつの時間を過ぎてしまいましたね」


 ハッ、わすれてた。おやつ。


「おやつ、たべる!」

「ちゃんと取ってあるだろうから行ってこい」

「……クライヴ、ちょっと」


 う? レナとクライヴ、ひそひそしてる。


「ぶっ……へ、へびの巣窟……」

「クライヴ、笑うんじゃありません」

「大丈夫だ。聞こえてない」

「そういう問題ではありません。とにかく、お前が付き添ってあげなさい」

「隊長、エイダに甘くないか?」


 なんのはなししてるんだろ。あ、こっちきた。


「あー……俺も休憩だから一緒行くぞ」

「う?」


 ひとりでもいけるのに。わわっ。だっこされちゃった。しかたない、いっしょにいってやるか。


「エイダ、またいつでも遊びにいらっしゃい」

「うん。またね」


 レナにバイバイしたら、バイバイってしてくれた。こんどはいそがしくないときにあそびにこよう。


 クライヴにだっこされてしょくどうにむかう。かいだんもらくちん。


 むむっ…なんだかいいにおいがしてきた!


「あっ! エイダ!」

「キャロ」


 キャロのつくるごはんはおいしい。ちちうえもははうえもおいしいっていってた。


「キャロ、おやつ」

「もちろんあるよ。今日はホットケーキだよ」

「ほっとけーき! すき!」

「時間になっても来ないから心配してたんだよ~。どこ行ってたのさ」

「隊長のとこで昼寝してたらしい。夕食までそんなにないから量は控えめで頼む」

「そっか。二枚焼こうかと思ったけど、いち──」

「2まいたべる!!」


 おやつたべてもごはんたべれるもん。


「分かった、分かった。2枚焼くから座って待ってな」

「キャロル……」

「大丈夫。一枚の量の生地で、二枚焼くから」


 う? クライヴとキャロ、ひそひそしてる。エイダのほっとけーきはあげないんだから。


 クライヴにイスにおろしてもらって、おすわりしてまつ。たのしみでしっぽがかってにゆらゆらしちゃう。


「ったく、お前の食事への執念はどうにかならないのか」

「たべるこ、そだつ」

「お前、最近丸くなってきてるぞ」

「ふわふわ、かわいい」

「丸くなるのと、ふわふわは違うからな」

「う?」


 ティナおねえちゃんはかわいいっていってくれたよ?


「お待たせ~。ホットケーキだよ」

「わぁ!」


 ほっとけーき。ちゃんと2まいある。はちみつ、キラキラ!


「……おい、よだれ垂れてるぞ」

「いただきます! はぐっ……むぐむぐ……おいしい!」

「そう、よかった。あ、副隊長にはこれね」

「濡れタオル? よだれ拭き用か?」

「食後に必要になるだろうからね。ほら」


 う? キャロ、こっちをゆびさしてる? クライヴもこっちみてる。あげないよ。これ、エイダのほっとけーきだもん。


「はちみつまみれのトラ……」

「まぁまぁ。子育てなんてこんなもんだよ」

「実の両親はどこへ行った」

「トラ夫婦なら今日も出かけてるよ」


 もちゃもちゃもちゃ。あまい。

 もちゃもちゃもちゃ。おいしーい。


「ごちそーさま!」

「はぁ……エイダ、待て」


 う? 


 うぷっ……むむ……。おくち、ふきふき。


「ほら、終わったぞ」

「ありがと」

「お、ちょうどティナが帰ってきたみたいだな」


 ほんとだ! ティナおねえちゃんのあしおとだ!


「エイダちゃん。ここにいたんだ。クライヴ様とおやつ食べてたの?」

「ティナおねえちゃーん、おかえり!」

「ぐふっ!」


 ん? いま、なんかけったかも? クライヴがおなかおさえてる。ま、いいか。


 ティナおねえちゃんがしゃがんでまっててくれるんだもん。ティナおねえちゃんのおひざにまえあしをのせて……はなとはなをチョン。


「ただいま。ふふ、はちみつの匂いがするね」

「おやつ、ほっとけーき」

「エイダちゃんの好きなおやつだね。おいしかった?」

「うん!」

「そっか、よかったね」


 ティナおねえちゃんがニコニコわらってあたまをなでてくれる。むふふ、なでなですき。


 エイダ、ほんとはヒト、すきじゃない。ヒト、わるいやつがいっぱい。でも、ここにきていいヒトもいるってわかった。


「ティナおねえちゃん、だっこ」

「いいよ。おいで」


 むふふふ、いいにおい。やっぱりティナおねえちゃんがいちばんすき!

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