第28話 分断された三人
ローグライアンの血を吐くような恨み言に心励まされた神殿騎士たちは、その意気に当てられたかの様にそれぞれに覚悟を面に表して距離を詰めてくる。だが踏み込めばデュラディウスが届くその数歩手前で立ち止まった。
騎士団の調練では形式的な一対一の打ち合いしか教えないが、騎士の任は平民の
重力水の力を理解していない騎士はしばしば、その威力を超常の
「お、おのれ、小僧!」
「待て、むやみに斬りかかるな。こやつ手練れだが一人であることは違いない。落ち着いて同時に切りかかってしまえば、盾を持っておらぬ以上はどうしようもあるまい」
たった一人、と侮っていた相手に先手を打たれて包囲網を崩された騎士の一人が、己を
改めて剣を構えて、ぐるりと取り囲む騎士達の動きにレオンハルトは思わず歯噛みする。彼らの言う通り、二つの刃を持っていると言っても、一度に二人に切りかかれる訳ではない。まして重力水の力は振るって遠心力を発生させねば発現しないので、受けに回ってしまうと
幸いなことにルーチェやアレンを人質に取ろうとはしていないが、このままレオンハルトが優勢ならば誰かが思い付くかもしれない。
戦えない二人に意識を向けさせないために、レオンハルトは敢えて今包囲されて危機感を覚えている事を強調して、騎士たちの意識を自分に集中させることにする。
「確かに私は盾を持ってはいませんが、この長い刀身ならば中途半端に包囲したところで
「この期に及んでまだそんな強がりを。前と後ろから同時に切り込まれても防げるつもりか」
先ほど一人が先走ろうとしたのを制した騎士がレオンハルトの挑発に応える。兜越しでは見分ける事はできないが、恐らく彼が神殿騎士団の団長を務めるリルビン=サキュレント家のガイラッハだろう。この島で実戦を経験したことのある騎士など居ない
だがその戦術はレオンハルトにとって好都合。誰かの動きに対処している
相手の一斉攻撃に合わせて大きく斜め前に踏み込み、殺到する刃をデュラディウスの力で払って包囲を脱する。進むのは右、ガイラッハの盾側に位置取ってできれば統率者を倒したい。欲張りな案だがこの状況では常に最大の戦果を求めていかねばならない。
言葉でなく仕草で合図を出されることを警戒してガイラッハを注視していると、戦場の騒乱を全く気に留めぬ風情の、ギルベルトの穏やかな
「騎士たちよ、その見習いにばかり気を取られぬ事じゃ。それ、そちらに武器も持たぬそ奴の仲間がおるではないか」
「見たところお主らの内五人ほどしか、その見習いに斬りかかることはできそうにない。残りは従者と先ほどの生意気な小娘を捕らえよ」
「卑怯な、それが騎士たるものの振る舞いか!」
「気にするでないぞ。ガイラッハ卿、セイブラス卿、ミュセル卿、デアボラス卿、ヒースレント卿、五人はそのままその騎士見習いを見張っていよ。その隙に他の者で手分けして二人を捕らえてしまえ」
ギルベルトの指示に頷いて周囲から離れていく神殿騎士たちを見ながら、どうすべきかレオンハルトは思考を巡らす。いっそ思い切って再び先手を取って、薄くなった包囲網を突破すべきか。しかしいくらレオンハルトでも一息で二人以上を
分の悪い賭けに出るか否か迷っているとアレンの声が聞こえてくる。
「若、俺たちの事は気にせずに!最前ルーチェ殿が言ったようにこの場から逃げることも考えるべきです!」
「馬鹿なことを言うな!お前たちを見捨てることなど絶対にしないぞ!」
「正直なところ逃げを打たれたらどうしたものかと思うておったがの。背を向けられぬというのならば
「二人とも、何とかしばらく逃げ回ってくれ。必ず突破して助け出す!」
まだ三人揃って危機を脱する希望は残されている事を大声で叫んで、レオンハルトはアレンとルーチェが追われているだろう後方に振り向きざま大きくデュラディウスを振るう。神殿騎士たちも先に切り伏せられた同胞の様子から、デュラディウスを盾で受け止めてはならない事を既に学んでいるのだろう、標的となった騎士は大きく退いてレオンハルトの刃を
二度、三度と手首を返して更に追うが、なりふり構わずといった様子で後退されて今一歩届かない。だがレオンハルトは焦らない。狙いは飽くまでも二人の下への道を開くこと。狙った騎士だけでなく、大きく振り回された剣身に左右の騎士も腰が引けている。甲冑を身にまとっていない身の軽さを活かして、五人による包囲網から抜け出すと、先にルーチェを追う騎士の動きを封じようとする。ルーチェもレオンハルトが救援に来たことに気付いたようで、三人に囲まれて強張っていた表情が少し緩む。
「レオンハルト!」
ルーチェの呼びかけで後ろからレオンハルトが来たことに気付いた神殿騎士は、一人はそのままルーチェを追い、二人がレオンハルトを押しとどめる事に決めた様子だ。向き直った二人は最初の強襲を繰り返させるまいと、二人で息を合わせて左右から攻め立ててくる。
すぐにルーチェを保護できると思ったレオンハルトは、攻撃を刃で受けるたびに左掌にうずく痛みも
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