第43話

「青王様がバナナを持ってきてくれたの。あと、トマトも」

「それじゃあ、バナナのタルトとチョコバナナのアイスを作りますね」

「アイスを作るならわたしもお手伝いするわ!」

瑠璃がアイスと言ったのを聞き逃さなかった茜様が、わたしの出番とばかりに瑠璃の隣へ駆け寄っていった。

「あ、ありがとうございます。先にタルト生地を作ってしまうので、しばらく待っていてください」

茜様は「準備ができたら声をかけてね」と言って椅子に座り直し、おかわりした紅茶を飲み始めた。

私は、アイス用のチョコレートを用意し、ついでにチョコバナナを作ることにした。縁日えんにちにあるような一本まるごと串に刺さった形だと食べにくいので、輪切りにして串団子のような形にしようと思う。それと、コーティング用のチョコはミルクとビター、ホワイトの三種類。

バナナをカットしていると、左側からものすごく熱い視線を感じる。

その視線を送っているのはもちろん青王様。しっかり割烹着を着て準備万端だ。

「青王様...お手伝い、お願いします。バナナをこうして串に刺してチョコでコーティングしてください」

一本に四切れのバナナを刺して作って見せると、青王様はにこにこしながら「わかった」と言ってすぐに同じように作り始めた。

「なんだか物足りないな。少し飾りつけをしたらどうだろう」

「そうですね...ちょっと待っててください」

青王様からの意見を聞いて、私はカラフルなチョコペンやアラザンなどを用意した。

「これで、まずは一つだけ青王様の好きなように飾り付けしてみてください」

しばらく串に刺したバナナとチョコペンを眺めて考え込んでいた青王様は、新しい串に三切れのバナナを刺してチョコでコーティングしていく。真剣な顔で黙々と作業しているので声をかけずにいると、しばらくして「できた!これは穂香に」とうれしそうに渡してきた。

「えっと...」

どう反応していいものかわからず、少しのあいだ固まってしまった。青王様が手にしているチョコバナナには、チョコペンで小さな花柄と「ほのか」の文字が書かれていたから。

「ありがとうございます。こんなに細かい柄が描けるなんて青王様は器用ですね。でも、商品に文字は書かないでくださいね」

「穂香の分しか書かないから大丈夫だよ」

「はい。あっ、その花柄はすごくいいと思いますよ。かわいい柄のほうが喜ばれるので」

青王様は頬を赤くしながら笑顔でうなずいてチョコペンを手に取った。

私も同じように「青王様」と書いたチョコバナナをこっそり作って、青王様からもらったチョコバナナと一緒に隠しておいた。休憩の時に一緒に出したらきっと喜んでくれるだろう。


そうこうしているあいだに、茜様と瑠璃はできあがったアイスを試食するところだった。

瑠璃が「茜様のおかげでアイスがあっという間にできちゃうんです!」と喜んでいる。

ビターチョコチップ入りのミルクチョコアイスとバナナアイスのマーブル、それとトマトのシャーベット。私も両方試食させてもらうとどちらもとてもおいしい。今は藤でしかアイスを扱っていないけど、せっかくこうして短時間で作れるようになったのだから Lupinus でも販売できるようにしよう、と考えながらなんとなく青王様のほうを振り向くと、青王様は作りかけのチョコバナナを片手にこちらを向いて口を開けて待っている。すると、そんな青王様に気づいた茜様がトマトのシャーベットを食べさせにいった。少し不満そうにしながらも一口食べると「おいしい」と笑顔を見せる。そこへ今度は瑠璃がチョコバナナアイスを持っていった。

やっぱり不満そうにしながらも瑠璃からアイスを食べさせてもらった青王様は「これもおいしい」とうれしそうにしている。「でもやっぱり穂香に食べさせてほしい...」とつぶやいたのは聞こえなかったことにする。


バタバタと準備をし、開店してからも追加のお菓子を作り、今日も大盛況のうちに閉店した。

チョコバナナは、縁日以外ではあまり見かけないことと片手で簡単に食べられる手軽さが好評で、作るそばからどんどん売れていき、予約まで入った。



「穂香、私の部屋で話をしよう。瑠璃にお茶を持ってきてくれるよう頼んだから」

「わかりました」

私は、忙しくて出すタイミングがなかった名前入りのバナナチョコを持って、青王様のお部屋へ一緒に移動した。

すぐに瑠璃がお茶を持ってきて「夕食の準備ができたら呼びに来ますね」と言って戻っていった。

「チョコバナナ持ってきましたよ。これは青王様に」

青王様に名前入りのバナナチョコを渡すと、とてもよろこんで「ありがとう」と頭をなでてくれた。

紅茶とチョコバナナで一息つくと、青王様は真面目な顔をして私のほうへ向き直り目を見つめてきた。

「穂香、わたしは穂香のことをとても愛しているし大切に思っている。これからずっとそばにいてほしい。わたしと結婚してくれるかい?」

「はい。ずっと青王様のそばにいます」

「ありがとう。店は今まで通りに営業するといい。母上は穂香と料理やお菓子作りをするのを楽しみにしていて、従業員として頑張ると意気込んでいるからこれからも手伝わせてやってほしい。それに、わたしも穂香の手伝いができることが幸せなんだ」

青王様は「大切にする」と言ってギュッと抱きしめてくれた。

「次の休みの日、なにか予定はあるかい?」

「いえ、なにもありませんよ」

「では買い物にでかけよう。二人で過ごすための部屋を作ろうと思うから、家具類を一緒に選ぼう。ほかにも必要な物があれば購入するといい。あ!あとあれも選ぼう。うんそうしよう」

青王様は一人でなにか納得して楽しそうにしている。私は青王様がなにを考えているのか気になったけれど、あえて聞くことはせず青王様の横顔を眺めていた。

「そうだ穂香。穂香の実家はどこだろう。ご両親に挨拶をしたいと思うから予定を聞いておいてもらえるかい」

「あの...実家はありません。両親は私が小さい頃に亡くなりました。育ててくれた祖父母も...」

「すまない、きちんと調べるべきだった...わたしは穂香を見つけて一緒にいられることに浮かれてしまって...穂香のことをなにも知らないんだな...少しずつでいいから、君のことを教えてほしい」

「...はい」

「では、せめてお墓参りをさせてほしい」


お墓参りかぁ...就職をして以来、もう何年もいっていない。法事にも参加できなかった。久しぶりに来たと思ったら結婚の報告だったなんて、お父さんたちはビックリするだろうな。


「両親のお墓は山梨にあります。普通にいったら日帰りはちょっと難しいかも。懐中時計を使っていきますか?」

「せっかくだから旅行を兼ねて一泊してこよう。店のこともあるし、日程は穂香に任せるよ。それと宿の予約も穂香に任せてもいいかい?」

「わかりました。ちょっと調べてみて予約しておきますね」

今夜、電車の時間や宿、それにおいしいご飯とお土産の情報も調べてみようと思う。


「夕食の準備ができましたよ」

瑠璃が呼びに来てくれたので、食後にもう少しお話をしようと青王様と約束をしダイニングへ向かった。

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