第7話 王子の告白
殿下と呼ばれて店に入って来た青年を見てマリーは驚いた。前髪を下して上質な服を着ているが目の前にいるのはまぎれもなくネイサンであった。
「ネイサン……? え、殿下って……どういうこと?」
マリーは目を丸くしてその青年に質問をした。
「僕の本当の名前はネイサンじゃなくカルビンなんだ。この国の第五王子……隠していてごめん」
ネイサンの告白にマリーとマチルダは驚きのあまり言葉を失った。
「魔法大学を出てからは色々な街を周って旅をしていたんだ。この街は王都に近いからよく旅の途中で寄っていてね。公務の一環としてお祭りで挨拶をすることが決まったから、顔がバレてもうこの街にも気軽に来られなくなると思って……最後にお気に入りのこのお店に寄ったんだ。そしたら働くことになってね」
マリーは色々と聞きたいことがあったがネイサンの話を聞いてからにするべきだと考え黙って話を聞いていた。
「マリーにも会えて、マチルダさんは良い人で、凄く楽しかった。今までの人生で一番楽しかったかもしれない。今日ここに寄ったのは二人に感謝の気持ちを伝えるためと、マリーに大切な話があるんだ」
「大切な話……ですか?」
マリーは王族相手に敬語を使っていないことに気が付いた。話の内容を想像もできずに少し不安を感じていた。
「さっき父上に会って話をして来た。僕はきみとこれからの人生を歩んでいきたいんだ。結婚して欲しい」
「え? え……え!? け、けっこん!? 私とですか?」
「ははっ、いきなり敬語はやめてよ。うん、マリーと結婚したいんだ。急な話で驚かせてごめんね。順を追って説明するね」
マリーは黙ってうなずいた。
「僕は魔法の研究や旅ばっかりでふらふらしているから父上が心配したらしくてね。落ち着くためにも、と婚約者を探し始めたんだ。僕はそれに猛反発して、自分で心から好きになった人を連れてくるからそれまで待って欲しいって伝えたんだけど……。父上は一年以内に探して連れてこないと婚約者を決めると言い出してね。いざ探してみると心から好きになる人なんてまったく現れなかったんだ。マリー、きみと出会うまでは」
ネイサンは一旦深く呼吸をし、話を続けた。
「マリーと出会って、一緒に働くうちに段々と好きという言葉の本当の意味がわかってきたんだ。そこで奇跡が起こってね、マリーが貴族だということがわかったんだ。僕は立場なんて気にしないけど王族は平民とは結婚が出来ない。マリーが貴族だとわかって僕がどれだけ喜んだかわかるかい? 後はマリーの気持ちを聞くだけだったんだけどそれは昨日の夜に……ね。だからマリー、僕と結婚して欲しい」
ネイサンは顔を真っ赤にしながらマリーにアイコンタクトをおくった。マリーもつられて顔を真っ赤にした。
「私なんかでいいの?」
「私なんかじゃない。マリーがいいんだよ」
「ありがとう。私もネイサン……カルビン殿下と結婚したい。あなたを愛してます。だから昨日だって……」
マリーは両手で真っ赤になった顔を隠した。
「昨日何があったって言うんだい。とにかくこれはめでたいね」
マチルダがマリーの肩に手を置いて微笑んだ。
三人でしばし談笑した後、マリーとネイサンは店を出た。ネイサンはマリーに公務の間、側にいて待っていて欲しいと伝えていた。
店の前には王子を見ようと人がごった返していた。ネイサンはその中にキャサリンを見つけた。ネイサンはまっすぐキャサリンのもとまで歩いていった。
「で、殿下。お初にお目にかかります、わたくし……」
キャサリンは自分のもとに王子がよってきてくれたことに歓喜し、普段より声が高くなった。しかし、キャサリンの挨拶をネイサンは遮った。
「わざわざ僕みたいな貧乏そうな男に挨拶しなくてもいいんですよ。伝えたいことがあるだけですから。僕はきみのお姉さんと結婚することにしたんです」
キャサリンはその瞬間にすべてを悟り、顔から血の気が引いた。キャサリンは何か弁明をしようと考えたが王子に放った暴言を取り消すことは出来ないことは明白だった。
キャサリンやマリーの友達は王子に手を引かれて歩くマリーの背中をただ見つめることしか出来なかった。
◇◇◇
その後、マリーはネイサンと結婚し、子宝にも恵まれ幸せに暮らした。
対照的に、自分の価値を信じて疑わないキャサリンやマリーの友達は、自分もマリーのように爵位が高い人間との結婚を夢見ていつまでも結婚できないのであった。
【完結】男を知らないと馬鹿にされたので知り合ったばかりの男と一夜を共にしたら実は相手が王子で求婚されてしまいました 新川ねこ @n_e_ko_
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