第3話 労働の達成感
お店は今までに経験がないほど大賑わいとなっていた。
まだ店じまいをするには時間が早かったが、仕込みをしていた食材がなくなったので早めに店を閉めることとなった。
「マチルダさん今日は凄い繁盛してたね。やっぱりお祭りの準備で街に人が多いから?」
「そうだねぇ。あくまでも噂だけど今回のお祭りには王子様が来るらしいんだよ。魔法の才能がとにかく凄い人らしくて飛び級で他国の魔法大学に行ってた王子様だってさ。今まで公の場に出てなかったけど卒業してこっちに戻ってきたらしくてね。去年から公務をこなしているらしいよ」
「魔法!? 王子様なのにさらに凄い人なんだね」
「その王子様ってのが来るから数日前から憲兵団が視察に来ていたり遠くの街から商人が来たりとね、とにかくいつもより人が多いんだ。私たち商売人にとっては人が増えるのは大歓迎だけどね、街の人たちにとってはせっかくのお祭りに色々制約が出来て迷惑な話だね。若い娘たちは王子様に気に入られようと気合が入ってるみたいだけど」
「えー、それは大変だね。だから兵隊さんが多かったんだね。でも王子様に気に入られて側室になれたとしても窮屈な生活になりそうで私は嫌だな。ネイサンはどう思う?」
「え、僕に聞くの? どうなんだろう? 僕は男だからよくわからないけど……確かに窮屈そうだね。僕なら王宮を抜け出して街まで遊びに行っちゃうな」
ネイサンは急に話を聞かれて驚いたのか歯切れが悪そうに答えた。
「王族の一員になったら王宮を抜け出すなんて無理に決まってるじゃない。それこそ憲兵団が何人も護衛に付いて大変なお出かけになるわよ」
ネイサンにそう言ったが、そう言いながらマリー自身が屋敷を抜け出して街に遊びに来ていることを棚に上げていることに気が付いた。しかし、王族とただの貴族では立場が違うのだからと一人で勝手に納得した。
「んーそんなことはないと思うけど、だって……」
ネイサンが反論をしようとしたがマチルダが話を遮るように入ってきた。
「はい、お二人さん。今日のお小遣いだよ。たーっぷり色を付けておいたからね」
そう言って小銀貨五枚をそれぞれに手渡しした。
「わーい、これでお祭りの日に美味しい物たくさん食べちゃおう」
マリーは素直に喜んでいた。父親に頼めばその倍ものお金を簡単にくれるだろうが、労働の達成感と自分で稼いだという事実が嬉しかった。
「僕は初めて仕事をして初めてお金をもらいました。なんだか嬉しいな」
ネイサンもマリーと同様に労働の達成感と自分の力でお金を稼いだという事実に喜んでいた。
「なんだいあんた、まるで貴族のお坊ちゃまみたいなこと言って」
マチルダが不思議そうにネイサンを見つめる。
「まぁいいや、あんたたち明日も暇かい? お祭りまであと三日、今日みたいに二人働かないかい? お祭り当日は人を雇えたんだけど数日前からこんなに繁盛するとは思ってなくてね。私ひとりじゃ腰も痛いし無理なのさ」
「私はいいよ! ネイサンは?」
マリーは即答し、ネイサンを見つめた。ネイサンにはその目が良い返事を催促しているようにみえた。
「僕もたぶん大丈夫です」
「よし、じゃあ二人とも頼んだよ!」
マリーとネイサンは翌日も翌々日も一生懸命働いた。二人は互いに協力し合い、とても楽しみながら働くことが出来ていた。お祭りの前日、店にマリーの妹キャサリンが現れるまでは。
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