第2話 平民街の大衆食堂

 マリーは貴族の生活が特別好きなわけでない。かといって嫌いな訳ではないし、平民の生活に憧れてる訳でもない。

 ただ、平民街を町娘として歩いていると心地が良かった。仲良くなって一緒に遊ぶようになった子供たちもいる。気さくに話しかけてくれるおじさんとおばさんもいる。それがマリーには心地が良かった。


 ある日、マリーはいつものように街へ遊びに行っていた。数日後に開催される教会主催のお祭りの準備で街は活気に溢れていた。


(凄い、今年のお祭りはいつもよりみんな気合が入っているみたい)


 マリーが祭りの準備を眺めながら歩いていると、ちょうど看板を営業中に変えているマチルダが見えた。マリーと仲の良い、大衆食堂をひとりで切り盛りしている年配の女性だ。


「こんにちは、マチルダさん」


 マチルダはマリーに気付くと満面の笑みを浮かべた。


「おぉ、マリー良いところに来たね。あんた今日は暇かい? お店手伝っておくれ。お小遣いはずんじゃうよ」


「ほんと? ちょうど暇っ! マチルダさんのお見せを手伝うの、凄く久しぶりな気がする! お祭りで遊ぶお金稼がせてもらっちゃおう」


 マリーは貴族でありお金は十分に持っていた。しかし、働くということに喜びを感じていた。マリーはマチルダの肩に手を置きながら楽しそうに店内に入った。

 すると、そこには見慣れない少年がテーブルを拭いている姿があった。


「あれ? マチルダさんあの子は?」


「あぁ、マリーは会ったことなかったかい? ネイサンだよ。よくお店に来てくれる子なんだけどね、今日はマリー同様手伝ってもらおうと思ってね。さっき捕まえたのさ。ネイサン! マリーだよ、あんたと一緒に働くから、あいさつしな」


 ネイサンが仕事を中断してマリーたちの側に近付いてきた。


(うわー、女の子みたい。綺麗な顔……。目も青くて綺麗、髪も綺麗な金髪。十五、六歳くらいかな)


 マリーはこちらに向かってくるネイサンから目が離せなくなった。


「はじめまして。ネイサンと言います。マチルダさんのお店でご飯を食べようと思ったら捕まってしまって……」


 そう言ってはにかむように笑った。マリーはそんなネイサンの笑顔に見とれてしまって返事をするのに数秒の沈黙が出来てしまった。


「えっと、はじめまして。私はマリー。同じくマチルダさんに捕まっちゃって……」


 マリーはマチルダの方を向いて笑いながらふざけてみせた。マチルダは怒ったような表情を一瞬見せ、その表情を見てマリーとネイサンは大笑いした。


「ネイサンは何歳なの? 私は二十歳になったばっかり」


 見た目のわりに妙に落ち着いている雰囲気にマリーは思わず年齢を聞いてしまった。


「僕は十八歳です。マリーさんの方が少しお姉さんですね」


 そういってまた、はにかむように笑った。


(お姉さんだなんて……。しかもこの笑顔は駄目だ。可愛すぎる……)


「さぁ、もうあいさつは済んだね? 仕事だよ!」


「はーい」


「はーい」


 二人の返事はピッタリと重なった。その瞬間二人は見つめあって大笑いした。

 マチルダもそんな二人を見て笑顔になっていた。

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