第16話

ユスティアが王都に戻り、一年と数か月が過ぎようとしていた。

あと少しで、成人となる十六才になる。

そして、ライラがとうとう王都に戻ってきた。


一応、更生の機会を与えるという事でその手の学園に一年ほど在籍していたが、結果から言うとやはり無駄だった。

更生どころか、そのねじ曲がった性格に磨きがかかって戻ってきたのだ。

学園内でも問題ばかり起こし、サジを投げられたというのが現状。

彼女に比べれば、他の生徒達が可愛く見えると教師等の談である。


彼女は変わらず、他人の物を奪ったり陥れる事に喜びを感じているらしい。

それが他人の婚約者だったり恋人だったり、友人という名を持つ者だったり。

そして彼女が王都に戻り、姉であるユスティアからまたも奪おうとしていた。

隣に立つ、エドワルドを。



ライラはやっと戻ってこれた王都の屋敷で、一人不満そうに文句を垂れていた。

口うるさく窮屈な学園から懐かしい我が家に戻ってきたのだが、見るからに誰も歓迎していないのが見て取れたからだ。

母のキャロルがいればこんな事にはならなかったのに・・・とも思うが、高貴な人に対しての不敬罪で戒律の厳しい修道院へと入れられ父とも離縁。

そのとばっちりを受けた形で学園に放り込まれたのだが、母と一緒に修道院に送られては堪ったものではない。

母の犠牲に感謝はするも、結果的に母を断罪した高位貴族には恨みも抱いていた。

やらかしたのはキャロルなのだが、家族のものを欲しがって何が悪いのか。

元々父親はキャロルとライラに積極的にかかわろうとはしなかったので、あまり関心は無かった。

だが、こうなるのであればもっと積極的に父親と交流していればよかったと思う。

だから、母親が楯突いた貴族が誰なのかも教えてもらっていない。

この屋敷に戻ってきても、関係は何ら変わる事がなかったから。

変わった事と言えば、自分が侯爵家の後継者になっていた事。

将来は婿がこの家を運営する事になるが、全くの婿任せではいけないと家庭教師がつけられたのだ。

あくまでもフライアン侯爵家の当主はライラなのだから。


では、姉であるユスティアは何処に嫁に行くのか・・・


婚約しているという話は聞かない。しかも、この屋敷の三階のワンフロアはユスティアの居住区とされ、ライラですら許可なく入る事は許されていない。

しかも、三階へと続くフロアの入り口には常に護衛が立っている。

一度父親に抗議はしてみたが、何か問題があるのか?と返されてしまった。

その父親は月に何度かユスティアと食事はしているようで、それに同行したいとすがってもあっさりと却下された。

だからライラがユスティアに会うためには、唯一共通でもある階段か玄関で待ち伏せしなければならないという事になる。


何で次期侯爵でもある私が、こんなコソコソと出待ちしなきゃいけないのよっ!

昔から気に入らなかったのよ!すました顔してなんでもあっさりとやってのけて。何よりも、いつも見下したようなあの目!

そして、傾国と謳われたおばあさまそっくりの容姿・・・・

まぁ、私もお母様に似て可愛らしいからいいけど、誰も彼もがフライアン侯爵家の名前を聞けば美の女神と謳われるユスティアの名を出す。

なんて忌々しい・・・・


イラつくように爪をガシガシ噛んでいると、階段の奥から声が聞こえた。

そう、今ライラは後継者教育をさぼり、ユスティアを待ち伏せ中だったのだ。

そっと隠れる様に覗き見て、ライラは頭を殴られたかのような衝撃を受けた。

階段を下りるのはライラすら見惚れるほどに美しく成長した姉と、その姉の美貌に霞むことなく輝く貴公子。


青銀のサラサラとした髪を揺らし、ブルーサファイアの瞳を優し気に細めて微笑んでいる。

スマートに姉をエスコートするその姿は、まるで物語の中のワンシーンの様に胸をときめかす。


え?嘘っ!カッコイイっ!誰?ユスティアの恋人?


胸を天使の矢で射抜かれたその瞬間から、彼が欲しくて欲しくてたまらなくなる。


ユスティアの恋人なら、別に私に乗り換えさせてもいいわよね!姉妹なんだし。

継ぐものが無い姉より、次期侯爵に決まってる私が良いに決まってるわ!


近い未来、彼にエスコートされるのが自分なのだと確信しながら、二人の前に飛び出した。

極上の彼を自分のものにする為に。

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