葬儀基本プラン(会員価格)165,000円
葬儀社は祖父の時から利用しているところだ。もし、亡くなってから一から葬儀社を探すとなると大変だ。
父は祖父の時に掛け金を掛け終わっていて費用を用意しなくて済んだことを覚えていて、自分用にも掛けていた。
確か、叔父の時には掛け金が足りて、祖母の時には少し足りなかったのだと思う。
父の掛け金は半分ほど掛け終わっていて、葬儀代には足りなかった。
祭壇を一番安いものに変えてもらって、その分を葬儀費用に回す。それでも、足りてない。祖母が亡くなってから時間があまり経ってないのだ。それで、掛け終わるまでに至らなかった。
基本プランの内容は、祭壇、枕飾り一式、祭壇用盛物、平棺、棺覆い、仏衣、白塗り骨壺、遺体用保冷袋、線香ろうそくなどの小物、門口飾り、香典帳や芳名録など、遺影写真、通夜・告別式式進行である。
葬儀をやったことがある人はわかると思うが、これだけで葬儀が事足りるわけではない。
葬儀場から火葬場への霊柩車はオプションだし、納棺の儀もオプションである。
そう言えば、家などから会場へ遺体を運ぶのは霊柩車ではなく寝台車と呼ぶのであった。私には区別がつかない。
正直、霊柩車は基本プランに含めて、その値段を表示して欲しいと思う。大概の人は棺を運べるような車を用意できないと思うのだ。
納棺の儀がオプションなのは、まあわかる。自分達ですることを良しとする風習の地域もあるだろう。
オプションなどを選択するために、パンフレットを眺める。
「へー、霊柩車ってリムジンなんや」
どうでもいいことが気になってしまう。
「末期の儀はやるよな」
「うん。やろう」
末期の儀とは、納棺の儀のことである。祖母の時に立ち会ってやってよかったなと思ったので、これは外せないと思った。
祖母の葬儀の時にHさんにこのことを話すと、儂らはやってないと豪語していた。Hさんの母は、祖母の姉だ。
「ありのままで送り出すのがええんや」
納棺師がせめて口を閉じようとしたのを、やるなと制止したという。
それを聞いて母はドン引きしていた。……あのおっさんと喧嘩して、関わらせないようにしたの、実は良かったのではないかと思い出した。
「遺影用の写真、どれにする」
母が夜通し探していた遺影写真の候補を見せられる。
旅行中に撮ったものが数枚と誰かの披露宴に参加した時の写真だ。
「これでええやん」
「えー。若過ぎひん?」
私は披露宴の写真を推した。ちょうどスーツを着ているし、映りも悪くない。髪はまだ黒染めをしている頃のものだから、真っ黒だ。現在の父と比べると、確かに若過ぎる。
「これ50歳くらいのやつやで」
「でも。映りがええし」
旅行中の写真は、顔色もあまりよくない。歳をとった父は目元もだるんとしていて、あまりイケメンには見えなかったが、披露宴の写真は私の記憶の中の父のイメージに近かった。
遺影の背景をオプションで変えられると言われたが、見本を見ても基本プランとの違いがよくわからなかったので、断った。
叔母に連絡がつかない。叔母とは微妙な関係である。祖母の透析治療開始時や延命治療の有無を確認するときなどにもめたので、我が家からの電話を極力取りたがらないのだ。
「必要な時にしか連絡しとらんやん!」
母は憤慨している。連絡をしないわけにはいかないので、時間を改めて連絡する。
一旦、自宅に帰って喪服と着替えをとりに行く。
「風呂も入って来るわ」
実家にいる犬のことが気になった。
「私らも家帰ったりするで。おばちゃん迎えに行ったりもするし」
ここで母が言っているのは母の姉である伯母のことだ。犬の世話は無事にされるとのことで、一安堵した。
一旦自宅に帰る。この日、夕食をどうやったのか記憶にない。干していた洗濯物を片付けていた時に、目覚まし時計が鳴った。
思わずびくりとしつつ、目覚まし時計がセットされたままだったことに気づいて愕然とした。
と言うことは、今朝も誰もいないこの部屋で鳴り響いていたのだ。やってしまった。近所迷惑になっただろうか。悔恨してももう取り返しがつかない。この時鳴ってくれたおかげで、目覚まし機能をオフにすることができた。
風呂を済ませて、着ていた服を洗濯。その間に、喪服と着替えを出す。
ネット通帳の残高を見た。この普通預金の残高では葬儀費用に足りない。定期預金を解約して普通預金の残高を増やす。こういう時ネット預金にしといて良かったと思った。
パンストはどうするか。収納を漁って、考えて――結局新しいものを買うことにした。
葬儀場へ向かう道中、コンビニに寄る。パンストと一緒にパンを買う。複数個入っているものを二袋。明日の朝食用だ。家族で食べられるようにと複数個入りのを買った。
死んでいくにもお金がいります カフェ千世子 @chocolantan
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