家で倒れて死んだら警察が来る
実家に帰るも、誰もいなかった。人の気配がしない。一応、誰か留守番してるかもと電話を鳴らすが、ただコール音が暗闇に響いている。
玄関に電話機を置いてるから、夜中にでかい音量が響いている。
妹に電話してみるが、コール音が鳴るばかり。これは病院に行くべきか、と判断する。
病院につき、夜間入り口から入る。受付で、父の名前を言う。
父は確かに運ばれているが、そろそろ警察に遺体が移されるという。
「待合室に行っても、入れ違いになるかもしれませんよ」
どうしようと思っていると、それでも一応確認してくれることになり、電話をかけてくれた。
それを待つ間、弟が廊下の向こうから現れた。
「今から警察の人が家に確認に来るから、俺らも帰らんなあかん」
「そうか」
弟の表情は普段通りで悲しんでるのかどうかわからなかった。私も、この時点では半信半疑なので、まだ悲しんではいない。
「どんな感じやったん」
「いや……部屋におったら急に救急車来て」
母と妹が出てこないが、弟と共に先に家に帰る。
家に帰る。鍵を持ってないので、弟に開けてもらう。弟が先に家に入った。そのとき、懐中電灯を構えた誰かが、家の横を通りすがった。
その人がこちらを見ていたので、玄関の前でそのまま待った。
やはり、その人はここにやってきた。暗くて私がいることに最初気づかなかったのか、玄関まで来てから、おっと小さく驚きの声を上げた。
「夜分遅くに失礼します、○○警察です」
「あ、はい」
倒れた場所などを写真に撮ると言う。
「倒れた時はどんな感じでしたか」
聞かれても、私は答えられない。弟も、又聞きしかしていない。
「居間のこの辺りで倒れたそうです」
「倒れた時はどんな体制でしたか」
「ええと……うつ伏せになる感じで……」
「お風呂から出てから倒れられたんですよね。お父さんはお風呂から自分で歩いて出てこられたんですか」
などと質問が続く。その間、警察官は写真を撮っていく。
「お風呂はどちらですか」
「あ、ここです」
「……すいません、スリッパなどをお借りしても」
「あっ!」
完全にスリッパのことを失念していた。平謝りしながら、スリッパを出す。警察官はスリッパを履いて、風呂場内の写真を撮りに行った。
その後、夕食の残りはどこかなど聞かれる。台所も冷蔵庫内も撮られる。
「財布と通帳を見せてもらえますか」
と言われても、通帳のありかなどわからない。そうこうしているうちに、母と妹が帰ってきた。
母が何事か喚きながら家の中に入ってきたが、警官の存在に気づいて驚いていた。
母実演の元、父が倒れた状況が説明される。
廊下でうずくまりかけ、母に呼ばれて居間に入った。服を着ろと母に言われたのに対し、しんどいからこうしてるんやと反論した直後、父は意識を失った。
その後、通帳を見せて欲しいと言われたのに対し、母が何か言い訳しながら通帳を探しに行った。
その間、父の財布と携帯電話が検分される。
財布の中身がすべて出される。カードが並べられていく。
「キャッシュカードはお父さんは持たれてなかったんですか」
「そうですね」
「お金もあんまり」
「はい」
「お父さん、使っちゃうから」
「はい」
父は金を持つと酒に使ってしまう。ときどき本を買う。酒を飲むか、本を読んでるか、ぼんやりとテレビを見るか。父の生活はそれで全部だった。
母が残高のない通帳が恥ずかしいのか、使ってしまってなどと言い訳している。借金があってなどと説明し出すので、余計なこと言わんでいいよと突っ込んでしまう。
他殺の可能性を消すために、聴取に来られてるのに、怪しまれるようなことを言うんじゃない。
お金がないんだから殺されたとは思われないだろう、と母や妹は言うが、借金がありすぎることも十分殺害理由になると思う。
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