霊柩車にもお金がかかる
その後。翌日に控えて寝る。私は居間に寝たのだが、母は寝ずにずっと何かを探していた。独り言の内容から、父の遺影に使えるような写真を探しているらしい。一回寝てからにして欲しいと思いつつ、ウトウトしていた。
あまり寝れないまま迎えた翌日。父は警察にいる。検死をするのだが、それができる先生は神戸にいて、神戸からやって来るので検死が終わるのが昼過ぎになるのだ。
親戚のおじさんがやってきた。相変わらずいきなり家の中に入ってくる。せめて呼び鈴を鳴らして欲しい。家の方もきちんと戸締りをして欲しい。
この人は父の従兄である。近所に住んでいる。
父の遊び相手でもあるが、大体何か用事を押し付けてくることが多かった。
どっかりと居間のソファに座り込んで、父の話をし出す。父を悼む気持ちなのかとそれを聞く。正直、こちら側に余裕がないので相手をするのもしんどかったが、気を遣って話してくれてるんだろうと話を聞いていた。
「ヒデオは自分に都合が悪い話になるとむっつりと黙るんや」
父が何度注意されても酒を控えないことについて話しているときにそう言っていた。確かにとうなずく。
「Aよ。家に帰って来い。お母さんを助けてやらんか」
「……」
思わずむっつりと黙ってしまった。私と父はやはり親子である。
母はあっちへ行き、こっちへ行きしている。正直、何をすることがあるのか私にはわからない。母と弟の喪服を探しているのだろうか。
二階から居間に降りてきて、おじさんの姿にはっと驚いていた。
二人で一緒にこの人の相手をすることになる。
おじさんは一人でしゃべり続けていて、ワタシらは相づちをただうち続けていた。
葬式の話になった。
「ヒデオを家に一回連れて帰ってこんか」
警察にある遺体を一度家に戻せと言う。母は、そんなに遺体をあっちへやりこっちへやりするのはかわいそうと返す。
それを、いやいやちゃんと弔うには一度家に戻せと返してくる。母とおじさんの話は平行線である。
遺体はこの後、葬儀場へ運ぶという話になっていた。
おじさんは自分の体験談を話し出す。己の父親の葬儀の時、親戚に口出しされて自分の思うように葬儀が進められなくて不愉快だったと。
母親の葬儀の時には、己の思うままに進められて本当に良かったと。
何が言いたいのか、と思うと。今回の父の葬儀も、己の思う通りに進めたいのだ。
あんたの話に出てきた口出しする親戚がまさにあんたと同じじゃないか。
そう思うと、つい口が滑って言ってしまったのだ。
「文句言いに来たんですか」
それを聞いた瞬間、このおじさんは激昂した。
「お前! いい歳にもなってなんちゅう言い草や!」
この段階では、少し言い過ぎたと謝る気でいたが、段々と腹が立ってきた。
「お前ら、誰が面倒見てやると思ってるんや! お前らが死んだとき、誰が葬式の面倒見たると思ってるんや!」
……何歳まで生きる気なんや。この時点で80過ぎの爺さんである。父より10歳も年上なのだ。
120くらいまで生きる気なのか? バケモンか。
大声を上げて息巻くおっさんを見ていると、腹が立ってしまったのだ。
「あんたのヒデオじゃないんですよ。私らのヒデオです。私の父なんです」
おっさんは、結局言いたい放題言った後、去っていった。
母には言い方を考えろと言われる。しかし、母も断る気でいたのだ。
「じゃあ、どうやって断る気やったん」
「だから、遺体を動かし続けるんはかわいそうやって言って」
ひたすら平行線を続けて、相手を根負けさせる気でいたらしい。不毛だ。
霊柩車を呼ぶにも金がかかる。母はそれを気にしている。私だってそれは気になる。
警察から遺体を運ぶ段階でまず一回分の金がかかる。葬儀場から火葬場へ運ぶのでまた一回分の金がかかる。
そこへ、警察から家に運ぶとなるとさらに一回分のお金がかかるのだ。
誰がその金を出すのか、って話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます