第1話  禁断の地

「ん……」


 目が覚めたらうつ伏せで寝てた。


「どこだここ」


 ガバッ。

 起き上がった。


 その瞬間に目に入ってきたのはベッド型の石の台座。

 その上に乗せられた寝かされた少女。


 それからさらにその奥には


 広大な草原が広がってた。


 それを見て俺は頭に手を当ててみた。


「VRでも付けたか?」


 この光景だとまずひとつしかない。


 【カインとドラゴン】だこれ。


「ん?」


 しばらく顔の周りをペタペタ触ってみたが、VR機器をつけてる感じはしない。


 てか、そこで気づいた。


「おいおい、なんで一人称視点?」


 【カインとドラゴン】は三人称視点だ。


 だいぶ手前の方にカメラがあったはず。


 ありえないことが起きてる。


 てか


「土のにおいがする」


 俺の部屋に土なんてものはない。

 ていうか、吹き抜けてくる風がやけに心地いい。


 夢の中で風なんて感じたことがない俺はひとつ思ってしまった。


「なに、これ?ドッキリ?」


 そう思いながらとりあえず立ち上がってキョロキョロ周りを見てみた。

 右には8体のドラゴンの石像。


 そしてうしろを振り返るとそこにも8体のドラゴンの石像。


「うそだろ……?まじかよ」


 ここまで確認して俺は思った。


(俺の部屋じゃないぞここ)


 なんだ、これドッキリか?

 いや、ありえないだろ。


 俺なんかドッキリしても意味なんてない。

 ってかドッキリにしてももっと金のかからない方法があるだろ……。


「もしかしてゲーム世界にきちゃったかんじ?」


 そんなことを思いながら俺は一体の石像の前に移動してみた。

 その石像を触ってみる。


 ゴツゴツしてておうとつがある。


「材質は石だな。あきらかに」


 そう思いながらとりあえず視線を下げて自分の姿を見てみた。


 着ていた服は原作の主人公が着ていた服。

 それから腰には剣が装備してあった。


 ゴクリ。

 息を飲みながら次に俺は剣を抜いて、その刀身に映る自分の顔を見てみた。


 そこに映ってたのはやはり原作主人公の顔。

 ちなみにけっこうイケメンだ。


「転生?転移?」


 分からないけど。


「憑依っていうニュアンスが1番しっくりくるか」


 どうやら俺の魂はこの世界の主人公に憑依しているらしい。


「さて、どうするか」


 とりあえずこの世界が本物かどうかもうすこし、確認してみよう。


 そう思って俺は台座に寝かされた女の子に目をやって近付いてみる。


 寝ているようにしか見えない女の子。

 だがたしか


(魂が抜けてるんだったよな?)


 そう思いながら俺は女の子の手を触ってみた。


 起きる様子は無い。

 次の工程に進んでみよう。


(これはさぁ。確認だからな?)


 そう思いながら俺は手から指を離して今度は胸に目をやった。柔らかそうなおっぱい。


「ツンツン」


 突っついてみたけど。

 起きる様子は無い。


(ここまでやられて起きないならゲーム世界に来たって考えた方がいいか)


 そう思ったそのときだった。俺の横に立っていた馬が首を横に振る。


「ブルン」


 そっちに目をやる。


「アンナか」


 原作でも主人公と一緒にこの広大な土地をかけ回った馬でいるアンナがいた。


 どうやら俺がおっぱいツンツンしたことに対して怒ってるのかもしれない。


 だがこれはここが本当にゲーム世界なのかどうかを確認するための大事な確認作業なのだ。

 分かってくれ。


 そのときだった。


 背後から物音。


 後ろを振り返ると石でできた神殿の床から黒いなにかが上半身だけ姿を覗かせていた。

 下半身は床の部分に埋まってる。


 それで確信した。


(やっぱ地球じゃないなここ)


 そう思って俺は腰に装備していた剣を引き抜いた。

 そして黒いなにかに剣の切っ先を向けた。


 すると剣は光を放ち白い光で黒いなにかを焼き尽くす。


 それから神殿の上から声が聞こえてきた。


「古代王の剣か」


 それは男にも女にも聞こえるような声だった。

 あきらかにこれもまた日本語じゃなかったが、俺は何故か言葉の意味を理解できた。


 俺は問いかける。


「あなたが死者を蘇生させることもできるというイルミナか」


 俺の口から出てきた言葉もまたとうぜん日本語ではなくこの世界の言語だった。


 しかし、スラスラと言葉が出てきた。


  これはおそらくだが俺が乗り移る前、カインが学んできた知識を使えてる、ということではないだろうか。


 そんなことを分析しているとまた天井から声。


「ワシがイルミナだ」


 ここまで原作通り、というわけか。


 まだチュートリアル段階だ。

 確認の意味も込めて原作通りいちおう進めていこう。


「台座に寝かされた女の子の魂を取り戻して欲しい」


「ふむ。そこに石像があるだろう?16個。それを壊してみせよ。だが、この石像は人間の手では破壊できない」


「どうしたら壊せる?」


「この地のどこかに石像と対となるドラゴンがいる。そのドラゴンを殺せば石像も壊れる」


 なるほど。原作通りだな。


 16匹殺せば16個石像は壊れる。


 そして少女を生き返らせてくれる。

 それがイルミナとの約束。


「よし、では行け」


 そう言って声は聞こえなくなった。


 俺は馬のアンナに目を向けてから、もう一度台座の少女に目を向けた。


「言っちゃ悪いけど、どうでもいいよな」


 原作でもそうなんだけどさ。


 俺にとってこの子って割とどうでもいいんだよな。


 だって原作にしてもこの子のセリフひとっつもないんだぜ?

 どんな子かもまったく分からない。


 もしかしたらくそウザイ女かもしれない。


 そんな子のために今から16匹ドラゴン探して倒してこいだって?冗談じゃない。


 俺はただおっぱいをツンツンしただけだ。


 それだけの関係でドラゴンを16匹は重すぎるだろ。


 というわけで、どうしようかと考えてとりあえずイルミナに声をかけてみることにした。


「イルミナ」


「なんだ?」


 原作では禁断の地の時空は歪んでいて外の世界と比較して時間の流れも異常にゆっくりだったはずだが、この世界でもそうなのだろうか?


「魔力が切れたらどうしたらいい?」


「この大地はワシの魔力で満ちている。その空気を吸っていれば魔力切れにはならんし、疲れることもないだろう。睡眠も必要はない」


「そうか」


 それきりまたイルミナは黙りこんだ。


「さてと、とりあえず」


 アンナに目をやった。


「この神殿から出てみますか」

「ブルン」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る