第23話 破滅の魔王の改編


ーー気が付くと周りは紅く染まっていた。建物の様相から日本では無いことは分かる。石造りの家が建ち並ぶそれはテレビで観たヨーロッパを思いだされる。


ブゥーン!


一瞬にして、視界が切り変わる。


「ほう!? 我と同じ力を感じおる。お主は何者ぞ!?」


燃え盛る街を見渡すように、高台で酒を飲む男に突然声をかけられる。頭には三本の大きな角、鱗は黒い竜の鱗を纏い、背中には漆黒の翼、臀部から延びる尾は鱗に覆われた竜の尾が揺れていた。そして、顔は非常に整っておりイケメンだった。髪は街の紅い炎に染まったように紅かった。


俺も感じているよ。貴方にも俺と同じ《竜鬼》が宿っていることに。俺の感が言っている。この人が《破滅の魔王》その人だと。


隠していてもしょうがない。だってこの人、さっきまで戦っていた鬼より遥かに強い。俺はこれまでの経緯を話した。目の前にいる男は真剣に俺の話を聞いてくれた。


「すまない…」


話を聞きおえた男はすまなさそうに一言俺に謝った。


我が名は魔王アークライト・クリムゾン


アークライトはこの世界で《魔王》と呼ばれているらしい。そう《破滅の魔王》では無くね。ただ、これから《破滅の魔王》と呼ばれるのだろうと本人は確信をもったように語る。


ーーことの起こりは、禁忌とされていた《竜》と《鬼》の婚姻から始まったそうだ。二人は種族を越えて愛し合い、一人の子を授かった。その子は新種族の『竜鬼人ドラグオーガ』として生まれ《竜》と《鬼》の力を宿していた。


それに激怒したのが、この世界で恐れられている最強の鬼神だった。鬼神は直ぐにその子を殺すように命じた。それに反対した集落を鬼神の配下の鬼達は軍隊を率いて攻め立てた。それに抵抗したのがアークライトの両親だった。子を逃がす為に決死の覚悟で軍に立ち向かった。そして両親の命と引き換えに子は無事に世界の果てに逃げ切り、《魔王》と呼ばれるほどに力をつけた。


それからというもの《魔王》と《鬼神》は幾度も対立を繰り返し、此度ようやく鬼神を屠る事に成功したらしい。


そこまでの力を引き出して呪いの影響は?


えっ!? 呪いはかかって無い?? どういうこと?


呪いは鬼神が死ぬ間際に命をかけて《魔王》に《呪い》をかけた。その《呪い》は非常に強力で《魔王》だけでは無く、《種族》全体にまで影響を与えたのではないかと魔王は言っている。


「ククク…あの鬼神の呪いを喰らって自身の力に変えるとは面白いな。」


俺はここに来る前にユニークスキル『無限竜の胃袋ウロボロス』で、鬼神の呪いを大量に喰らった事を話した。今の現象も呪いの影響で繋がったのでは無いかとアークライトは予測を立てた。それほどに強力な呪いなのだろう。


「それでも全てを喰らうのはまだ無理みたいです。でもいずれは全てを喰らって、この呪いを解いてみせますよ。」


「俺からも頼む。これから生まれるかわからないが、次世代の『竜鬼人ドラグオーガ』が呪いに苦しまないようにして欲しい。」


「必ず!」


俺もこの呪いは許せ無いからな! この先ユニークスキル『無限竜の胃袋ウロボロス』が成長すれば必ず全て喰らい尽くせるだろう。


暫しの間アークライトと酒を酌み交わし、炎が吹き荒れる街を眺めていた。不謹慎かも知れないが、その光景は何処か幻想的で綺麗だと思ってしまった。


「恭介よ。最後に御主と逢えて良かった…次世代の者に希望の光を残すことが出来る。これで歴史に《破滅の魔王》として名を刻むわけにはいかなくなった。」


ゴシュ!


「何をしているんですか!!」


俺は急な出来事に戸惑ってしまった。アークライトは自身の胸を自身の手で貫いた。胸からはおびただしい血が吹き出していた。確実に致命傷だ。そして、アークライトは燃えさかる街に向かって高々しく叫んだ。その声は街全体に響き渡り、人々は戦いを止めて、その声に誰しもが耳を傾けた。


『我は魔王アークライト・クリムゾン。鬼神は我が討ちとった! 両者戦いを止めよ! 長い長い戦いは終わった。これからは平和な世が訪れる。我が配下達よ、今までご苦労であった。後の事はお前達に任せる。この世界に魔王は争いの種にしかならぬ。皆の者さらばだ!!』


アークライトは自身の核を引き抜き、俺の胸に押し込んだ。


「恭介。我は配下や民を傷つけたくわない! このままでは《破滅の魔王》となり、配下もろともこの世界を滅ぼしてしまうだろう。我はそのようなことは望まぬ。配下や民とこの世界の為ならば、この命…惜しくは無い!」


「アークライト…」


俺はアークライトの気持ちが痛いほど良くわかる。俺も狂ってアイリス達を滅ぼすとわかっていたら同じ事をしたと思う。俺のエクストラスキル『羅刹眼』は、アークライトが呪いに蝕まれている事を見抜いていた。だからこそこんな呪いをかけた鬼神を許せないのだ。


「そんな顔をするんじゃない。恭介には最後に希望をもらった。その褒美として我の経験とこの核を恭介に託そう。だから呪いの事は恭介に任せるぞ。」


胸に押し当てられた核が、胸に沈み込み俺の核に溶け込んだ。


魔王は最後まで凛々しく笑いながら消えていった。俺の瞳からは自然に涙が溢れ、俺の存在もこの世界から消えていった。


******


「おい! 魔王様はいらしたか!」


「いえ…やはり魔王様は…」


「・・・この世界を任せると仰っておられた。魔王様がお帰りになるまで私達で守り続ける。良いな! お前達!」


「ハッッ!!」


******


アークライトの思いや経験が流れ込んでくる。やはり…既に限界だったんだな。予想通り鬼神の呪いはアークライトの心を蝕んでいた。あそこに一人で佇んでいたのも仲間を巻き込まないためだった。そこに俺が現れ…そして《破滅の魔王》について話してしまった。


アークライトはこれから起こることを理解してしまった。だから命を絶った。許せないな…こんな呪い。必ず俺が喰らってやる!


(コロセ…ホロボセ…コロセ…コロセ…コロセ…コロセ)


「うるさい! 絶対にお前なんかに呑み込まれてやらない! ウロボロス! 仕事しろ! お前が俺の身体を気にして、制限しているのには気づいていたよ。だけど、この呪いだけは許せない! 全力で喰らえ!!」


俺の意思に答えるようにウロボロスは鬼神の呪いに喰らいついた。


【アークライトから褒美が届いております。[竜鬼法]の継承が行われます……成功しました。エクストラスキル『竜鬼法』を習得しました。エクストラスキル『竜鬼法』がスキル『四属性魔法』を統合しました。】


ありがとう。アークライト。必ず呪いは俺が責任をもってときますので見守って下さい。


【ーー世界の改変が行われました。《破滅の魔王》が《救世の魔王》に書き換えられました。称号『破滅の魔王の再臨』が『救世の魔王を継ぎし者』へ改編しました。。エクストラスキル『破滅の王』がエクストラスキル『救世と破滅の王』】


そして、アークライト・クリムゾンは世界から《救世の魔王》として語り継がれるようになった。

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