第14話 辺境領東部開発 その2

「よく来てくれた」


 打ち合わせをする部屋に入るとすぐにアレックス辺境領伯が部屋に入ってきた。この部屋にはすでに辺境領の治政を担当する役人と辺境領に駐在している騎士団と魔法師団の責任者もいる。


 騎士団の責任者はギュンターと言い、魔法師団の責任者はマルコという。2人とも男性だ。


「お久しぶりです」


 マーサ師団長が言うとブライアンも続けて言った。フィルも片手を振って挨拶をしている。相変わらず自由奔放な女王様だ。


「2人とフィル殿の活躍はここまで聞こえて来ているよ」


 恐れ入りますとマーサが話をする。ブライアンは肩にフィルを乗せたまま頭を下げる。


「早速だが今回の辺境領東部地区の開発について話をしよう。草案は以前王家に提出させていただいたものと大筋では変わらない。ブライアンが妖精と調査をしてくれて可能性のある街から近い2箇所を最初開発し、そこで成果が出てきた時点で奥の2箇所の開発に入る」


 そう言った辺境領伯は席に座っていた役人、官僚達に顔を向けると頼むと言った。

 畏まりましたと官僚の1人が資料を見ながら段取りの説明をしていく。


 彼らが現地で指示をした場所をブライアンが整地して街道として作り上げていき、村の予定地にくればまた彼らの指示通りに村を作っていくという流れになる。王都で聞いていた通りだ。


「ただ村の中でどこを水源にするかは妖精殿のアドバイスを聞いてからそこを中心にして村を作ることになります」


『任せておいて!』


 フィルが自分の胸をドンと叩いた。その仕草を見ていた全員が微笑むと同時に安心する。


「魔法師団と騎士団の仕事はブライアン殿が作った街道の最後の整備と村を作る場合には柵の設置や村の中の道の整地などが仕事となります」


「王都からはブライアン及び妖精殿の指示に従えと命を受けておりますので問題ありません」


「魔法師団も同じです。またマーサ師団長もここにおられますし師団長の指示の通りに作業をする所存です」


 ギュンターとマルコが言うと大きく頷く辺境領伯。


「基本はここ辺境領の官僚達が作った図面通りだ。この通りに道を整地してもらう。細かい部分についてはフィル殿のアドバイスで調整をしながら整地して行きたいがそれで構わないかな?」


 全員が頷いた。ブライアンは言われた仕事をきっちりとやるだけだと思っているので今の提案に何の不満もない。


『問題ないわね。任せなさい』


 フィルも問題なさそうだ。


 辺境領東部の開発がスタートした。ミンスター市には街を囲んでいる東西南北に門があるが普段使われるのは王都からの街道と接している北門とブライアンの故郷があるジャスパーに続く西門の2つで東門と南門はほとんど使用されていない。


 ミンスターの宿で疲れを取ったブライアンは翌日朝一番で領主の館に出向くと同じタイミングでマーサ以下魔法師団、騎士団の兵士たちがやってきた。


 頼むぞという辺境領伯の言葉を聞いた一行はミンスターの東門に移動する。事前に話が通っていて彼らが近づくと門番をしている兵士が普段開けない門を左右に開いてくれた。


 門の前から真っ直ぐに道らしきものが伸びているが長きに渡って人の往来がなかったせいか土の道路のあちこちに雑草が生えていた。その道も見える範囲の先で切れており、そこから先は草原が広がっていた。


「早速始めましょう」


 辺境領所属の官僚達が前を歩いてブライアンに整地して欲しい道の場所を指示していく。道幅は馬車が余裕ですれ違いできる幅で出来るだけ地面を固めて馬車の轍ができ難い様にして欲しいという。


 肩にフィルを乗せたブライアンが杖を地面に突き出すと地面が盛り上がり、それから綺麗に整地されていく。初めてブライアンの仕事を見たマーサはじめ兵士や官僚はその魔法の威力に言葉が出ない。10数メートルを整地したところでブライアンが後を振り返って兵士達を見た。


「こんな感じで整地するので細かい調整はお願いできますか?」


「もうほとんど仕上がってるじゃない。これくらいしてくれればあとの調整なら魔法師団の魔法でできるわね。騎士団は最後に確認しながら地面を踏み固めてくれる?」


 マーサが呆れた声で言いながらも指示を出す。わかりましたと魔法師団と騎士団の兵士が頷いたが彼らはびっくりしている表情を崩さない。


「ここまで出来るのであれば予想よりも早く進めます」


 官僚達もブライアンの実力を見て驚きつつも自分たちの段取りを見直すことにした。


『ブライアンとフィルが組めばこんなもんよ。簡単簡単、チョロいわね』


 肩に乗っているフィルはペリカの実を食べながらドヤ顔で言う。


「ブライアンとフィル程じゃないけど私たちも魔法師団のプライドがある。しっかりと仕上げましょう」


 官僚達が先を歩いて街道を作る場所を指示する。ブライアンとフィルがその場所を整地して街道を作る。そのできた街道の仕上げを魔法師団と騎士団で行う。仕事を開始してしばらくするとその分業の効果が出てきて最初よりもさらに整地工事のスピードがアップしていった。


 途中で野営をしながら街道を整地しつつ東に進んでいった数日後、一行は最初の村を作る予定の場所に到達する。フィルが水源があると言った場所だ。ミンスターからは徒歩で3日程の距離にある。


『そうそう、この場所だよ』


 目的地に着くと同時に肩に乗っているフィルが言うと肩から飛んでいった。草原の方に向かうとある地点で浮いたまま止まる。


『ここだよ。ここが池を作るのに一番適してる』


 空中に浮きながら両手をバタバタと振り回して場所をアピールするフィル。

 村の水源の場所が決まった。


 全員が集まって官僚が作った村の図面を見る。800人から最大1,000人程度の人が住める規模の村にするそうだ。建物は建築業者に依頼しているのでブライアン達の仕事は整地と村の周囲の柵、水源となる池を掘ること、そして畑を作ることだ。


 まずはフィルが指定した場所に水源を作ることにした。地面をほって大きな池の形を作る。そしてそこから用水路を作って畑となる場所まで伸ばすと開墾をして畑を作っていく。これはブライアンと魔法師団との共同作業となった。騎士団はその間に別の官僚達と村の周囲、柵を作る場所に印をつけていった。実際に柵というか塀を作るにはブライアンの協力が必要だが目印をつけておけば後で彼が仕事がしやすい。


 池を作り、畑を作り、そして建物を建てる場所を整地し終えるとブライアンは騎士団がいる場所に移動していった。残った魔法師団の兵士たちがブライアンが作った後を綺麗に仕上げていく。


 土の塀を周囲に張り巡らせて外敵の侵入を防ぎつついくつか門を作っていく。大枠をブライアンが作り細かい作業は騎士団の兵士が仕上げていった。


 村の開拓を初めて丸一日で村の形が出来上がった。


 最後に池の底を魔法で掘るとすぐに地下から透明な水が湧き上がってきて池を水で満たしていく。用水路と池とは今は木の板で留めているがこの板を外せばいつでも水が畑の方に流れていくだろう。


「1日でここまでできるとは思っても見ませんでした」


 感心する官僚達。感心し、驚愕しているのは騎士団の兵士とマーサ以外の魔法師団の兵士も同じだった。

 

 国王陛下直属の魔法使い。妖精の力を借りているとはいえその魔力は規格外だ。実際に見てこれほどの力があるのか。


 彼がわが国の魔法使いでよかった。この開拓に参加した全員がそう思っていた。


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