第13話 辺境領東部開発 

「魔法師団の師団長が王都を留守にして良いのかい?」


「今は周辺国も落ち着いているし私が王都にいなくても問題無いわ。それよりもブライアンとフィルの魔法を見て教えて貰う方が私にとっても魔法師団にとってもずっと勉強になる。何かあったらワッツから連絡が入るでしょうし」


 王城の会議室を出た3人はその足でマーサの執務室に移動していた。マーサ付きの魔法師団の団員がワッツを含めて3人にお茶を入れたところだ。フィルは例によって左肩に乗ってペリカの実を食べている。


「マーサの言う通りだな。今は比較的落ち着いている時期だ。大きな問題もないだろう。それよりも開発をする土木工事だが騎士団や魔法師団からどれくらいの人を出せば良いのかブライアンにアイデアはあるかい?」


 お茶を一口飲んだワッツが聞いてきた。


「フィル、どうかな?」


 ワッツの話をフィルに振ると、


『そうね。騎士の人たちなら最後の仕上げをお願いするとして10名程、魔法使いもそれくらいいれば十分じゃない?大きなところはブライアンとフィルがしてさ、細かいところを任せればいいわよね』


「そうだな」


 フィルの言葉に基づいて騎士団から10名、魔法師団から10名が参加することになる。辺境領にはどちらの師団もその倍以上の兵士が常駐しているので問題ないということだ。それに加えて辺境領の役人が同行するだろう。それなりの人になるがそれでも普通に開発をするよりはずっと少人数で済む。しかも期間も短くなる。


 これから開発する地域は今の時点では住んでいる人がいない場所だ。それ故に整地など仕事は多いだろう。かと言って大人数で繰り出しても効率が悪くなる。ブライアンとフィルで大抵のことが出来てしまうのだから。


 こうして辺境領東部地区の開発が動き出した。


 辺境領を治めているアレックス・カニングハム侯爵、辺境領領主に指示が飛んできた。指示の出し手はケビン宰相の名前になっていた。


 その指示書を読んだ辺境領伯は直ちに領都のミンスターで仕事をしている官僚を集めると王家からの指示を伝える。


「……今申した様に王都からブライアンと妖精達がやってくる。そしてここ辺境領に駐在している騎士団と魔法師団のそれぞれ10名ずつが開発に協力することになった。彼らは我々が指示を出した通りに道を作り、街を作ってくれる手筈になっている。諸君らの指示が全てを決めるのだ。頼むぞ」


 辺境伯の号令一下、その下で働いている官僚達はすぐに自分たちが作成して王都に出した開発書を元に詳細を詰め始めた。自分たちが作った原案にミスがあれば手伝ってくれるブライアン以下騎士団や魔法師団に迷惑がかかる。何より魔法使いのブライアンは国王陛下直属の魔法使いであり陛下の寵愛を受けているお気に入りの魔法使いであることを役人達が知らない訳はない。


 魔法師団の副師団長のマーサがやってくるまでの2週間の間、彼らは文字通り不眠不休で作業をして開発の最終案をまとめ上げる。



 ブライアンはマーサより先に転移の魔法で自分の故郷であるジャスパーに飛んだ。久しぶりに両親と兄が住んでいる家に顔を出す。


 一通りの挨拶が済んだ後でブライアンが今回の辺境領の開発について家族に話をする。その間フィルは妖精達と一緒に庭でペリカの実を食べ、庭に生えてある木々の間を飛び回っていた。


「やりがいのある仕事だな」


 ブライアンの話を聞き終えると父親のワーゲンが言った。


「まさにブライアンがやりたかった仕事じゃないか、頑張れよ」


 領主代行として実質ジャスパーの街を見ている兄がブライアンの肩を叩きながら言う。


「そうなんだよ。これこそが魔法使いの仕事だと思っているんだ。妖精のフィルもいるししっかり仕事をするつもりだよ」


「身体には気を付けるのよ」


 母親のマリアは仕事のことよりもブライアンの身体を心配して声をかけてくれる。こうして家族といるとブライアンの気持ちも落ち着いてくる。


 やっぱり家族はいいものだ。


 ブライアンは実家とジャスパーの郊外にある自分の家を交互に移動しながら10日ほどの間のんびりと過ごす。昼間はフィルらと一緒に自宅の背後にある森に移動して魔法の鍛錬を続けた。


「では行ってまいります」


 家族を前にして頭を下げるブライアン。


「気をつけてな」


「しっかりとやり遂げるんだぞ」


「体には気を付けるのよ」


 ミンスターに出向く日、ブライアンは館の庭で家族を前にして挨拶をする。


『またねー』


 左肩に乗っているお気楽なフィルがばいばいと手を振って挨拶を終えるとブライアンとフィルの姿が館の庭から消えて次の瞬間にはミンスターの街の外に飛んでいた。


『マーサはまだ来てないね』


「じゃあ城門を入ったところで待っていようか」


 ミンスターに飛んですぐに妖精達が姿を隠して市内の領主の館や主だった場所を探ってくれた。彼女達は皆マーサの魔力の波長を知っている。


 城門から市内に入って領主の館に続く道沿いにある公園のベンチに座るブライアン。フィル以外の妖精は姿を隠している。フィルは例によってブライアンの左肩の上にのって足をぶらぶらとさせていた。ブライアンがペリカの実をあげるとありがとうと言ってその場で口に運ぶ。


 公園に座っていると通りすがりの人たちが肩に妖精を乗せている魔法使いをチラチラと見ていく。特に隠れもせずに肩に乗って足をぶらぶらとさせているフィル。全くこだわりがない様だ。


「皆フィルを見ているがいいのか?」


『ん?悪意のある視線じゃないから平気だよ』


 そうだった。妖精は相手の気配が分かるんだった。フィルが問題ないと言ってるならいいかと公園のベンチに座ってたわいのない話をしているとフィルが言った。


『マーサが着いたよ』


「そうか。じゃあもうすぐこの前に来るな」


 フィルの言葉通りしばらくすると馬を引きながらマーサが公園の前の道にやってきた。こちらから手を振るとそれに気がついたマーサがその場で止まる。ベンチから立ち上がると彼女に近づいていくブライアン。


 挨拶を済ませると、


「早かったの?」


「1時間ほど前かな。そっちはずっと馬に乗ってきたんだろう?」


「でもそれほど飛ばしていないから平気よ。本当は転移の魔法で来たかったんだけど私じゃまだ王都からここまで連続して使えないから無理なの」


 領主の館に通じる通りを並んで歩くブライアンとマーサ。館がある貴族区に近づくと魔法師団の制服を見たのだろう。衛兵がゲートを開けてくれたのでそのままゲートを潜って貴族区に入りその奥にある館を目指す。


 辺境領伯の館の前にも兵士がいたが2人と妖精を見ると門を左右に開ける。ブライアンは流石に魔法師団のマーサだなと思っていたが実は辺境領伯から門やゲートを監督している騎士達には、


「肩に妖精を乗せた魔法使いがやってきたら無条件で通してくれ。彼は国王陛下直属の魔法使いで陛下のお気に入りだ。くれぐれも粗相のない様にな」


 というお達しが出ていた。

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