第12話 全てをやりましょう

 ブライアンとフィルの報告を基にして作成された辺境領東部地区開発計画書はアレックス辺境領伯の名前で王家に正式に提出された。


 ブライアンはその話を王都の自宅に来たマーサ魔法師団長とワッツ騎士団長の2人から聞いた。


「あの地区の調査はブライアンと妖精のフィルがしたのでしょう?」


「そう。フィルがばっちり仕事をしてくれたよ」


 王都の庭にあるテーブルに座っている3人。そのテーブルの上には皿に盛られたペリカの実があり妖精達が集まっていた。


『妖精が調べたから間違いないわよ』


 テーブルの上にあるペリカの実を両手で掴んだフィルがいった。そしてそのままブライアンの左肩の上に座ると美味しそうに食べ始める。


「フィルらがやることに間違いはないからな」


 その言葉に頷く2人。聞いているフィルはドヤ顔だ。


「それでだ、ケビン宰相からは開発のやり方について一度ブライアンと相談したいと仰ってる。近々王城に呼ばれると思うのでしばらく外出は控えてくれ」


 わかったとワッツの言葉に頷いたブライアン。

 彼らの言葉通り、それから数日して王城からブライアンに呼び出しが来た。肩にフィルを乗せて久しぶりに登城すると城の入り口にワッツとマーサが待っていて3人とフィルで城に入る。向かった先はいつもの謁見の間ではなくその奥にある打ち合わせの間だった。

 

 ブライアンは過去何度かこの部屋を訪ねている。3人が部屋の中に入って待っているとケビン宰相のみならず国王陛下が入って来られた。思わず立ち上がったブライアンらを見た国王陛下、


「よいよい、ここは謁見の間ではない。気遣いは不要じゃ」

 

 そう言って椅子に腰掛ける陛下。3人が向かいの椅子に座ると陛下はブライアンに顔を向けた。ケビン宰相は陛下の右隣の椅子に腰掛けた。


「久しいの、ブライアン。顔色を見るに健康そうじゃの」


 椅子に座るなり陛下が声をかけてきた。


「ありがとうございます。おかげさまで元気に過ごしております。陛下に置かれてもご健勝で何よりです」


 頭を下げてそう言ったブライアン。挨拶が終わると陛下が宰相に顔を向けた。それに分りましたと答えたケビン宰相がブライアンを見て言った。


「ブライアン、辺境領からの依頼である東部開発の事前調査、ご苦労だった。おかげで完璧な資料が辺境領より上がってきておる。普通なら数ヶ月、いや一年以上かけて行われる調査を短期間で済ませてもらえて大変助かった」


「ありがたきお言葉。フィルはじめ妖精族の助けを借りて無事に調査することができました」


『妖精から見たら簡単な仕事だったよ』


 フィルの言葉を聞いた国王陛下と宰相がうんうんと頷いている。


「それでだ、貴公が行なってくれた事前調査では辺境領の東部にも十分な水源があり農作物の育成に適した場所がいくつか見つかった。次はそれらを開発していかなければならない。そこでお再びお主と妖精の力を借りたいと考えている」


 ケビン宰相はそう言うと彼らが考えているアイデアをこの場でブライアンに説明する。辺境領の領都と呼ばれているミンスターから東に伸びる街道を作り、その街道沿いに地下水脈を利用した大規模な畑を作った上で希望する農民や市民の移住を募るのだという。


「まずはミンスターから近い順に2箇所の開発を行い、その開発および住民の移住具合を見ながら必要となれば更に奥にある2箇所の開発を行う予定だ」


 開発が2段階になるということだ。


『全く問題ないね、ブライアン』


 肩に乗っているフィルが言った。そうだなと答えてからブライアンは向かいに座っている陛下と宰相の顔を見た。


「フィルも問題ないと言っておりますし私も同様です」


 その言葉に頷いたケビン宰相。


「それでどこまでやってくれる?」


「全てを」


「全てか?」


「ええ。道を作り、村を作り、池を作り、そして畑を作りましょう」


 ケビン宰相とブライアンの短いやりとりが続いていた。彼の左右に座っているワッツとマーサはずっと黙ってやりとりを聞いている。そして同じ様に黙ってやりとりを聞いていた国王陛下が口を開いた。


「ブライアン、無理はしておらぬだろうな」


 穏やかな表情でそう聞いてきた国王陛下の口調には労りの気持ちが込められていた。


「もちろんです、陛下。お気遣いありがとうございます。以前より申し上げている様に自分の夢は魔法を使ってこの国をよくすることです。この辺境領東部エリアの開拓はまさしく自分が望んでいた仕事です。宰相からやってくれと言われて正直とても嬉しい気持ちでおります」


 穏やかな顔付きでうんうんと頷きながらブライアンの言葉を聞いていた陛下。


「わかった。ブライアンに任せるので好きにするとよかろう。とは言えいくらブライアンと妖精達でもそれだけじゃちと可哀想だ」


 そう言ってそれまで黙って座っているワッツとマーサを見ると


「騎士団と魔法師団からも人を出してブライアンをサポートしてやるのだ」


「わかりました。辺境領に駐在しております騎士団を出します」


 そう言ったワッツに対してマーサは、


「魔法師団も辺境領にいる部隊の一部を出しますが私自身もブライアンに同行したく」


 マーサによるとブライアンが道を整備したり村や畑を開発する魔法を見ることによって鍛錬になるためだと言う。その話を聞いた陛下は隣の宰相に今のマーサの申し出をどう思うかと聞いた。


「良いかと。魔法師団にとってブライアン以上の講師はおりませぬ。必ずや得るものがあると考えます」


「余もケビンと同じじゃ。マーサもしっかりと見て学んでくるがよい」


「畏まりました」


 その後の打ち合わせで今日のこの話の内容を文書にして辺境領のアレックス辺境領伯に持ち込むこととなった。もちろん手紙を持参するのはブライアンの仕事だ。


 魔法師団のマーサは1週間後に王都を馬で出発しミンスターに向かうこととなる。ブライアンは先に自宅のあるジャスパーに飛んでからミンスターに向かうことにした辺境領伯との面談はマーサとブライアンとで行うこととするなど段取りを決める。


 ワッツはすぐに辺境領にいる騎士団に連絡をとって今回の開発の仕事について説明をし隊員を揃える様にと指示を出した。


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