第11話 水源を探そう
「さてと、最初のX印は大体この辺りだ」
『本当に人がいないのね』
辺境領東部はほとんど人が住んでいない。草原と山ばかりの長閑な場所だ。地図によるとこのあたりは辺境領最大の都市であるミンスターの街から2日ほど歩いた距離にある場所の様だ。ミンスター自体が辺境領の中心からやや東寄りに位置する所にあるが開発は最初西のキリヤートとの国境に向かってされた。これは隣国と接する場所を無人地帯にしてはいけないという国の方針に則ったものだった。
ただその結果辺境領では西部の開拓は進んだものの海と面している東部の開拓は遅れていると言うか放置されたままの状態になってしまっていた。
「これから開発して人が住みはじめたら賑やかになるだろう。その為にもしっかりと仕事をしないとな」
高い給料をもらいながら特に仕事をしていなかったブライアンは王家や国に負い目があると感じていたので今回のこの仕事はしっかりとやり遂げようと思っている。
X印のついた地点の上空をフィルや他の妖精達が飛び回っている。ブライアンは自分でも地面の土を掴んでみたりして土壌を調べていた。フィルほどの能力はないがそれでもいろんな村を訪ねては水源を探したりしてきたこともあり少しはわかる様になっているブライアン。なんとなくだがこの場所はダメな様な気がすると思っているとフィルが肩の上に戻ってきた。
『ここは良く無いわね。水が少ないから美味しい物が育たない』
自分の見立てと同じだったので嬉しくなるブライアン。
「なるほど。じゃあここは無理ということにして次の場所に移動しようか」
次の地点は辺境領のミンスターから3日ほど歩いた場所。最初のダメだった場所から東に1日ほど歩いたところにある。目的地に着いたとたんにここはいい場所だという気がした。感覚的なものだ。
『ここはすごくいい場所。地下にいっぱい水が流れてる。ここなら作物も沢山育てられるわよ』
「やっぱり。僕もここに来た時にすぐにここはいい場所だって気がしたんだよ」
肩から飛ぶこともせず乗ったままフィルが言った。
『妖精の加護のおかげかな。ブライアンにもわかってきたのならよかったじゃない』
「でもなまだ自信がないからやっぱり妖精頼りなんだよ、頼むよ」
そう言ってその場に座ってペリカの実を収納から取り出すと隠れていた妖精達が姿を表して集まってきた。しっかりと休憩をとるとブライアンは歩いて印をつけた周辺の様子を見て回る。ここに水があるということで畑や果樹園を作るのであれば当然村ができるし道が必要になるだろう。自分が手を挙げて整備をやろうと決めるブライアン。
水がある2つ目のX印の地点をしっかりと調査したブライアンは3つ目の印に向かって移動した。2つ目の地点から徒歩だと約2日程度の距離だ。ミンスターの街からだと5日程東に歩いたところになる。人が1日あるいは2日歩いていける地点に印をつけている様だと認識するブライアン。
『ここも大丈夫ね。土の中にたっぷりと水があるわよ』
国境南部にある連なった山々を水源としている地下水脈は2つ目の印以降全ての地点で見つかった。1週間以上かけて東部を歩いたブライアンとフィル。妖精のフィルに言わせると水があるが一番豊富にあるのはミンスター市から数えて2つ目と3つ目、そして最後の5つ目の場所らしい。
最後のX印を調べてそこの地下にも大量の水があることを確認するとあとはミンスターに戻るだけだがせっかくここまできたのだからとブライアンはさらに東に移動して台地の東の端にある海が見える場所まで移動した。
『久しぶりに海を見たよ。大きいね』
「だろう?ラグーンの街から見る海とここの草原から見る海とじゃまた違うだろう?」
海から心地よい風が吹いてくる草原に座って近くにあった石の上にペリカの実を置くと妖精達が集まってきた。彼ら(彼女ら?)はペリカの実を持ったまま大海原に顔を向けている。
『この海の向こうには何があるんだろうね』
「俺たちの知らない世界があるんだろう」
『行ってみたい?』
ペリカの実を持ったまま左肩に乗ったフィルが聞いてきた。
「どうかな。行くとしてもこの国でお世話になった人にしっかりと恩返しをしてからだな」
海を見ながらフィルと会話をするブライアン。海を見ていると妖精達が羽をパタつかせて彼の前で浮いたまま止まって両手で抱える様に持っているペリカの実を差し出してきた。
『♪』
「いつもありがとう。自分たちもしっかりと食べるんだよ」
『♪♪』
そう言うとパタパタと飛んでペリカの実が置いてある石に向かって飛んでいく。
「妖精も喜んでいるみたいだな」
『もちろんよ。広い海を見る機会なんてまずないからね』
ブライアンと妖精は海を見ながらのんびりと時間を過ごしてから転移の魔法でミンスターの街に戻っていった。
領主の館で調査の報告をするブライアン。向かいのソファに座っている辺境領伯はブライアンの報告を聞きながら地図に目を向けている。
「1つ目のここだけが厳しくて2つ目以降の場所は全て地下に水が流れているということだね」
「その通りです。妖精によりますと2つ目と3つ目、そして最後の5つ目。この場所であれば食物や果物が豊富に採れる様になると言っています」
報告を聞いていた辺境領伯のアレックス・カニングハム侯爵。この仕事をブライアンと妖精に任せてよかったと思っていた。普通であれば地質調査団を送り込んで数ヶ月以上かかる調査が移動の魔法を持っているブライアンと妖精の能力があれば1週間ちょっとで全ての調査が終わる。しかもどのポイントがお勧めなのかまで調べている。
「これで東部の開発が進むだろう。ブライアンに任せて大正解だったよ」
満足した表情で話をする辺境領伯。
「開発の時は是非お手伝いをさせてください。この街から東側に伸びる街道を作ったり村を作る時の地下水を掘り出す仕事など私と妖精のフィルがいれば短時間でできますので」
ブライアンの申し出に驚いた表情になる辺境領伯。
「そこまでお願いして良いのかな?」
「もちろんです。国の為に魔法を使うのが自分の夢ですから問題ありませんね」
『そうそう。ブライアンとこのフィルに任せなさい。希望通りにしっかりと作ってあげるわよ』
フィルが言った言葉を辺境領伯に伝えると是非お願いするよと頭を下げられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます