第10話 辺境領東部

 マイペースで生きているブライアン。最近は戦争もなく彼は地方に飛んでは道を修理し村人の困っていることを魔法を使って解決する日々を送っていた。もちろんブライアンが他国に魔法の指導に出向く事はない。2度の戦闘に出動したブライアン、彼の魔法の威力についてはキリヤートとサナンダジュには知られているが彼はグレースランドの切り札でありしかもまだ彼の本当の力を見せつけていない。


 グレースランドとしてはブライアンを表舞台に出す事は極力控えるという方針を打ち出している。これは国王陛下の意向だ。陛下は律儀にもブライアンとの約束をしっかりと守ってくれている。ただ唯一自分の直属の魔法使いという地位だけは離すことはしなかった。そのかわりに毎月給金が出、王都の貴族の屋敷もブライアンに下賜されている。


 ブライアンは自分が貰いすぎだと思っているがそれについてはマーサやワッツに言わせると、


「お前が2度の戦争でしてくれた仕事の対価としては妥当だよ」


「そうそう。もっと貰ってもよいくらい。それくらいの事をしてきているわよ」


 ということらしい。


『せっかくあげるって言ってくれてるんだから遠慮なく貰っちゃいなよ』


 お気楽なフィルもこんな調子だ。

 そのお気楽フィルの指導よろしくブライアンはさらに魔法の威力を高め魔力量を増やしていた。その増えた魔力で道を直し、村を広げ、新しい水源を見つける。彼がやりたかったことを日々国のあちこちで実践していた。


 多くの国民は目の前にある現実をそのまま受け止め、慎ましやかな日々を送っている。道が悪くてもそれなりに対応をし、水が少なければ仕方がないと最低限の畑だけを耕したり果実の木を植えている。ブライアンはこう言う人たちももっと余裕のある生活を送る権利があると思っている。そしてそのために自分が持っている能力を惜しみなく使っていた。


 彼自身は全く気にしていなかったがブライアンが国内の各地でやっていた事は地方の村を回っては食料や木材を買っていく商人達の口から少しずつ国民に広まっていった。商人が村に行けば前回来た時よりも村への街道が整備されており、村に入れば村が大きくなっていて以前なかった新しい池と畑ができている。どうしたのか?と村人に聞くとどこの村でも皆口を揃えてこう言った。


「肩に妖精を乗せている魔法使いさんがやってきて村や道を綺麗にしてくれました」


 肩に妖精を乗せている魔法使いさんとう言葉がゆっくりとグレースランドの国内に広まっていく。



 ここグレースランドは台地の上にあるが水は豊富だ。北部から中部にかけては北の国境にもなっている万年雪をかぶっている連峰を水源としてグレースランドにも何本も川が流れ出てきて北部から中部を通って最後は東海岸から滝になって海に落ちている。


 王都であるイーストシティと南部との間には台地の南側にある海岸線から少し入ったところに山々が連なっておりそこを水源として南部に川が流れているが北部の万年雪を被った連峰ではないので水量は多くない。


 その代わりに地下水脈が何本も流れていることが今までの調査でわかっていた。


 中部から南部に住んでいる人たちはグレースランドの地質開発部がボーリングをして見つけた地下水脈から水を湧かせてはそれを水源として生活し、畑や果樹園を育てていた。


 グレースランドは国全体が台地にありながら北部、中部、そして南部全てのエリアにおいて水不足とは無縁の生活を送ってきている。


 そして今ブライアンは南部の辺境領内東部のある場所に来ていた。辺境領を治めているアレックス・カニングハム侯爵の依頼で新たに地下水脈を探すためだ。辺境領伯によれば新しい地下水脈が見つかればその周囲に畑や果樹園を作ることが出来て農産物の生産量の増加が見込まれるという。


 この依頼は辺境領伯から王家に出された依頼であったがその依頼書を見たケビン宰相が


「地質開発部よりもブライアンと妖精にやらせてはどうだろうか」


 と言った一言がきっかけとなり国王陛下からブライアンに下された命になっている。ブライアンとしても何もせずに国から給金を貰っているという気がしていたのでこの話が国王陛下から出た時には


「是非やらせていただきたい」


 と自ら手を挙げた。その後辺境領のミンスターに飛んでアレックス辺境領伯と面談をしてから現地に移動してきたブライアン。もちろん相棒のフィルは左肩に乗っている。ミンスターで話をした時に辺境領伯のアレックス・カニングハムは


「ブライアンと妖精が手伝ってくれるのであれば地面を掘らなくても分かるんだろう?」


『もちろん。フィルがばっちり探してあげるわよ』


 フィルの言葉によろしく頼みますと妖精の女王に頭を下げる辺境領伯。そのご辺境伯より地図を預かったブライアン。その地図にはいくつかX印がついている。どの印も辺境領の最大都市ミンスターの東側だ。地図は一般には開示するものではないが彼の目の前にいる魔法使いと妖精は別だ。国王陛下直属の魔法使いと妖精のペアを前にして隠すべき理由は何もない。


 辺境領の西部は開発が進んでおりジャスパーなどの都市があるが東部の水脈調査は遅れていた。西部だけでも十分に人が暮らしていける土地になっていて東部の開発が置き去りにされてきたという歴史がある。


 ただ国の将来を考えた場合には東部も開発していくべきだという辺境領伯の意見をようやく王家が受け入れて重かった腰を上げてくれたがまさかブライアンとフィルがやってくるとは思ってもみなかったアレックス辺境領伯。しかしよく考えれば彼と妖精に仕事をしてもらうのが一番早くしかも確実だ。


「このX印のついているところあるいはその近くに水脈があるかどうかを調べて欲しい。というのはX印のある場所は草原でね。街道や村が作りやすいんだよ」


「であればX印のところで地下水脈が見つかれば私とフィルで道も村も作りますよ。妖精がいれば難しいことではありませんから」


 テーブルに広げられた地図を見るとX印が辺境領東部に5箇所付いている。


『そうそうこのフィルとブライアンに任せておけば大丈夫よ』


 ブライアンが言った後でフィルが続けて言った。


「それは助かる。ではお言葉に甘えさせて貰おう。まずは水脈の場所を確認してきてくれるかな。その場所を見てから道をどの様に作るかを決めよう」


「わかりました。任せてください」


 ブライアンがそう言うと肩に乗っているフィルも自分の胸をトントンと叩いて任せろというポーズをとる。辺境領主の館を出たブライアンとフィルはそのまま東部に飛んだ。


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