第2章
第1話 2年後
2年後
マーサは執務机の上に積まれていた書類の山との格闘を終えると椅子の背に体を預けて大きく伸びをする。
「1年経ってもまだ慣れないわ。マシュー団長は毎日の様にこれだけの書類と格闘していたのね」
伸びをしながらそう呟いたマーサの言葉を聞いていた師団長付きの秘書をしている魔法師団の女性兵士。
「私もこの書類の束に驚いていますが、前任の秘書に聞くとマシュー前師団長は時々ブライアンさんの家に行ってくると息抜きをされていた様です」
「その気持ちもわかるわ。魔法使いの仕事じゃないもの。じゃあ私もちょっと出かけてくるわね」
「行ってらっしゃい」
1年前魔法師団は師団長をマシューからマーサに代替わりした。これは以前からマシューが言っていたことで事前に関係各位の了承を取り付けていたのですんなりと認められたが驚いたのはマーサだった。まさかマシューが引退して自分がその後に師団長になるとは夢にも思っていなかったからだ。
魔法師団の師団長ともなると国王陛下と直接のパイプを持ちその身分は終身だ。よほどの不祥事がない限りは当人が辞めるというまでその地位に居続けることができる。
ただマシューはそれを良しとしなかった。時代が刻々と変わっていく中いつまでも古い考えを持っている者がトップに居続けると組織として成長が無いと考えていた彼はマーサが自分の後任として全く問題がないと判断できた時点で地位を譲るつもりでいた。
本当はもう少し早く交代する考えだったがそのタイミングでサナンダジュやアヤックの軍事侵攻がありグレースランドとしても背後からサポートをする必要が出てきたために戦争が落ち着くまではと師団長を続けた経緯がある。
2年前に全てが決着した後でマシューはマーサを呼び自分の退任とマーサの昇格を通知した。
最初は恐れ多いと師団長を固辞していたマーサ。自身が平民の出身ということや自分自身そこまでの能力はないと考えていた彼女だが、
「この件については事前に国王陛下、宰相の了承を頂いている。それとマーサはブライアンとの関係も良好だ。陛下もマーサなら仕事もできるしブライアンとも引き続き良い関係を続けられるだろうと仰っている」
そこまで言われると断る事ができないと師団長昇格のオファーを受けたマーサ。
引き継ぎを経てそれから1年が経過し今では有能な魔法師団長という評価を周囲から得ていた。
2年前に起こった大陸での戦争。まずはサナンダジュがキリヤートに侵攻しその間隙をぬって北のアヤックがサナンダジュに侵攻した。グレースランドはこの2つの戦争に直接巻き込まれた訳ではないが大陸の安定のためにブライアンという魔法使いを2つの戦争に派遣し彼の活躍で短期間で大陸のごたごたを落ち着かせた。
その戦争の矢面に経って獅子奮迅の活躍をしたのはブライアンだがマーサやワッツ、そして情報部のアレックスらが背後でしっかりと彼をサポートし戦争の早期解決に貢献したことは魔法師団や騎士団を含む関係者の間では周知の事実となっている。
マーサはキリヤート、サナンダジュとの交渉の矢面に立ってその手腕を披露しグレースランドに多大な利益をもたらせた優秀な魔法使いであると言われているが当人はブライアンが仕事をやりとげた後のフォローをしていたに過ぎないと近しい者には話をしていた。
王城にある魔法師団の執務室を出たマーサは城を出るとそのまま貴族区の一番奥にある一軒の館を目指していく。
屋敷の前で案内を乞うとすぐにお手伝いさんの男性が出てきた。シアンというジャスパーでブライアンの幼少の時からお世話をしていたご夫婦の内の男性だ。
「こんにちは。いらっしゃいませ、マーサ様」
門扉を開けながらそういったシアン。
「こんにちは。います?」
そう言って開かれた門から中に入りながら顔を庭に向けるマーサ。
「いらっしゃいます。今はお庭の方でお休みになられてますよ。どうぞ」
ありがとうと言って中に入っていく。数えきれない程訪れていて勝手知ったるブライアンの家だ。お手伝いさん夫婦ともすっかり馴染みになっている彼女は玄関には向かわずに直接庭に足を向けた。
門からのアプローチを歩いて裏に回るとそこには広い庭に沢山の木々が生えている。芝生のエリアと木々が生えているエリアが半々くらいだが庭自体が広いのでゆったりとしていた。生えている木々の1つの根元にブライアンがいつもの上半身を木の幹にあずけ足を広げた格好座っている。その周囲には妖精達が好きに飛び回ったりブライアンの身体のあちこちに座っては思い思いに過ごしていた。
今日はブライアンは昼寝をしていなかった様だ。マーサが庭に入ってきたのを見るとゆっくりとその場で立ち上がる。
「やあ。マーサ」
「こんにちは。書類仕事が多くてね。やっとひと段落したので息抜きにお邪魔しに来たの。よかったかしら」
「もちろん。いつでも歓迎だよ」
庭にあるテーブルを勧めるとリリィさんがすぐに紅茶と皿にいれたペリカの実を持ってきた。待ってましたとばかりに集まってくる妖精達。マーサは妖精に囲まれながら紅茶を飲むのが大好きなのは皆知っている。
「それにしても妖精さんの数も増えたわね」
目の前は座っている周囲を飛び回ってる妖精達を見ながら言った。
1年ちょっと前、フィルがブライアンの肩に乗っている時突然、
『妖精の仲間を増やしてもいい?』
と言ってきた。どう言う事かと聞けばブライアンと一緒にあちこちを移動していると同じ妖精の仲間に会う事があるらしい。1つの集団は5体や10体とそう多くはない。これはジャスパーの様な大きな森で魔力が豊富にある森ではなないかららしい。その妖精達はフィルと出会ってその魔力をもらうことによって今までよりもずっと動きやすくなったのだという。
『それでね。他の妖精達が私たちと一緒に住んで暮らしたいって言ってるの』
「それならもちろん全然構わないよ」
『ありがと。じゃあ呼んでくるね』
そう言って今までの20体ほどの妖精に加えて更に20体ほどの妖精が新しく仲間になってブライアンの王都の庭に住むことになった。フィルだけは大きさや色合いが他の妖精とは違うの区別がつくがそれ以外はどの妖精が以前からいてどの妖精が新しくやってきたのか見た目ではわからない。
今では40体ほどの妖精がブライアンと一緒に暮らしている。王都の屋敷は結界が貼られており中には常にブライアンの魔力が充満しているのでその中では妖精達も本当に楽しそうに日々暮らしている。ブライアンが外に出ても彼の魔力をもらっているフィルから仲間全員に魔力を渡しているので全く問題がないらしい。
そして数が増えてもフィルが女王様だ。
『そりゃそうよ。私が皆に魔力を与えているのよ。当然じゃない』
「俺からもらってる魔力だけどな」
『ぐぬぬ』
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ご報告ですが新しい小説をアップしました
タイトルは
〜幻の蘇生薬を求めて難攻不落のダンジョンを攻略する〜
URL https://kakuyomu.jp/works/16817330663357501630
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花屋敷
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