第71話 3つ目の街道
グレースランドの北西の要塞で一休みしたブライアンがサナンダジュ北部にある東の要塞に飛ぶと、そこには魔法師団師団長のチャドが待っていた。
「中央と西の街道についてはどちらからも報告が来ている。完全に封鎖したと聞いている。ご苦労様でした」
要塞の会議室に入るとチャドが礼を言う。ブライアンは2つの街道をどうやって封鎖したかを説明したあとで壁に貼られている地図に目を向けた。
説明を聞いていたチャドはじめこの要塞に詰めているサナンダジュ軍の兵士たちは実際にブライアンから説明を聞いてびっくりする。彼の魔法の威力は十分に理解しているチャドでさえ大きな岩を落としたり人工的に土砂崩れを起こさせたりという話を聞くとやはりこの男は敵に回してはいけない男だったのだと再認識する。
地図を見ているブライアンのの視線に気がついたチャドが地図に近づいていくと説明を始めた。
「東のこの街道は中央、西と違って極端に狭くなっている場所がない。どうやるかはブライアン殿に任せるが馬車は通行できず、人がやっと通れる位の道を残して貰えるとありがたい」
チャドの説明を聞きながら地図を見ているブライアン。確かに東の街道は山間にある道とは言え両側から山や崖が迫っている場所はなさそうだ。
「分かりました。今までは自然災害を装ってきましたがここはそれが出来ないかもしれない。その場合には魔法で今おっしゃられた様に人がやっと通れる幅だけ残してあとはそこにある岩や樹木を魔法を使ってバリケードの様にして通行不能にしましょう」
「確かにこれは今までの街道とは違うな」
『ブライアンなら出来るでしょ?なんと言っても妖精から魔法を学んだのよ。できるできる』
ブライアンとフィルは今東の街道を見下ろす山の中にいる。サナンダジュの要塞で見た地図を参考にして山の中に飛んで目的地に着いたところだ。
山あいを街道が南北に蛇行しながら走っているが確かに指揮官のチャドが言っていた様にここは比較的開けた街道になっていた。
「完全に封鎖しなくてもよいからな。とりあえず街道には大きな岩をいくつか置いて左右にも通行できない程度に岩を置くか。それから調整しよう」
方針が決まった。山の中にある大きな岩を切り出しては風魔法で浮かせて運ぶブライアン。フィルは肩に乗ったまま頑張れと応援している。呑気に応援だけしているのはブライアンの魔力ならこの程度は全く問題がない作業だと知っているからだ。
ゆっくりと浮かせた大きな岩、直径が5メートルはあるだろう大岩を街道に卸していく。
『もう少し手前、そうそう、そのまま下ろしたら良いよ』
山の上からの作業で遠近感がつかみにくいが妖精の仲間が姿を隠したまま街道に飛んでおりそこからフィルに伝えられた言葉をフィルがブライアンに伝えている。大岩が無事に街道に鎮座するとよし!と声を出した。
続いて2つ目の岩を同じ様に浮かせると街道の先ほど置いた岩の近くに置く。人1人が通れるだけのスペースを開けて岩を置いていく作業を続けていく。先の2つの街道よりも慎重に行う分時間が掛かっていた。
『北の方から人間が沢山やってくるよ』
4つ目の岩を浮かせている時にフィルが言った。
「アヤック軍かな。もう馬車は通れないから大丈夫だろう。向こうからこっちは見えないよな?」
『それは大丈夫ね。浮かんでる岩は丸見えだけど』
「それは仕方ない。南に行かせないのが仕事だからこのまま続けるよ」
浮かせている岩をそのまま山の中腹から街道の上にまで運ぶとそこからゆっくりと岩を降下させていき街道の脇に置いていく丁度峡谷の左右をダムの様に岩や樹木を並べていき封鎖していった。
「あれは何だ?岩が浮いてるぞ」
街道を南下し自軍の要塞に補給物資を届けるべく移動していた100名程のアヤック軍補給部隊が街道を歩いていると彼らの目の前で大きな岩が浮かんで動いているのが見えた。
思わず進軍を止める指揮官。先頭が停まると後ろに続いている多数の馬車もゆっくりと歩みを止めた。
彼らの目の前では浮かんでいる岩が今度はゆっくりと降下してそのまま地面の上に置かれる。岩の動きに合わせて視線を動かせていた彼らは岩が地面に置かれるとその時になって前方が岩や樹木で通行止めになっているのに気が付く。
「あれじゃあ馬車は進めないかもしれない。すぐに見てこい」
その言葉で数名の兵士が封鎖されている岩が積まれた場所に向かって駆けだした。数分して戻ってきた彼ら。
「街道がほぼ封鎖されています。人1人、せいぜい2人が通れる隙間はありますが馬車は通れそうにはありません」
「なんと!」
報告を聞いて絶句する輸送部隊の指揮官。すぐに魔道具で本国に通信を入れると同時にこの場からどうするか考える。考えると言っても目の前の状況を見れば補給部隊はこれより前に進むことはできない。
補給部隊は南の占拠した要塞まであと少しまで近づきながらそこから進むことが出来なくなった。
「最後の仕上げをして帰ろう」
北からやってきた補給部隊がその場で行軍を止めたのを見たブライアン。街道に下ろした岩や樹木の隙間に周辺の小石を浮かせて隙間をうずめるとそのまま土魔法で固定する。
『うん。これで大丈夫だね』
山の中腹から見ても街道がほぼ通行不能になっているのが確認できた。簡単には開通できないだろう。
「あれは魔法か?」
「信じられませんがその様です。どう見ても自然現象ではありません」
指揮官の隣に立っている副官が答えた。彼は魔法師団から派遣されたアヤック軍所属の魔法使いだ。
その魔法使いも目の前で起こっている事が信じられないという目で見ていた。行軍を停止した彼らの前で次々と岩が運ばれていたかと思うと今度は山裾にある小石や砂が浮き上がると大きな岩の隙間に次々と埋まっていく。
副官が言う様にもしあれば魔法なら何百、いや何千という魔法使いが一糸乱れずに詠唱をして起動させなければならない。そんな事が可能なのか? その前にあんな魔法は見たことがないぞ。周囲を見ても魔法師団がいる様でもない。そもそも険しい山の斜面に多数の魔法使いがいれば分かるし詠唱や魔法使用時の光が見えるはずだがそれもない。
サナンダジュの魔法師団の大軍はどこにいるのだ?隠れているのか?まさか。
そこまで考え着くと気が付いた。ここにいたら魔法師団の攻撃を受けるのではないかと。
「ここで考えても仕方がない。それにこれより先に進めないのは明らかだ。引き返すぞ」
指揮官が声を出すと補給部隊は回れ右をして来た道を戻ってアヤックに帰っていった。
街道を南下していた補給部隊が来た道を戻って北に進んで行くのを山の中腹から見ていたブライアン。
「諦めてくれた様だな」
『そりゃそうでしょう』
ペリカの実を食べながらフィルが言った。
「食べながらしゃべるなっていつも言ってるだろ?」
『大丈夫だって、んぐ、ごほんごほん』
「ほら、言わんこっちゃない」
実をのどに詰まらせたフィルの背中をトントンと叩くブライアン。
『と、とにかく。これで仕事は終わりね?』
落ち着いたフィルが言った。
「その通りだ。戻ろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます