第21話 鉱山にて その2
ブライアンの話が終わると向かいのテーブルに座っている3人がお互いに顔を見合わせ、責任者のリベラが正面を向いた。
「ご説明ありがとうございます。何分にもここは王都から遠く離れた田舎でありしかもご覧の通りこの街に住んでいる者は全てが鉱山開発関係者ですので王都の情報が入ってくるのが遅れがちです。まぁそれはともかくこの鉱山について説明いたしましょう」
そう言ってリベラが説明を始めた。ここでは魔銀(ミスリル)が主体となって算出され、ミスリルの産出量は国内最大規模だという。ミスリルの他には魔石も採掘されており、
「ミスリル、魔石ともに王国内では最重要鉱産品として位置づけられておりますので街もこの様に頑丈な城壁で囲み万が一の事態に備えております。ここで算出されたミスリルはこの街の中にある精錬場で一次精錬をしたあとで出荷されそこで様々な製品になって王国内に流通しております。魔石につきましては採掘したままの状態で王都の魔法師団の魔道具研究部隊に出荷され、彼らの手によって魔道具と作られ、国内に流通しております」
この鉱山は王国に複数ある鉱山の中で最も重要な採掘拠点になっている様だ。
責任者であるリベラの説明が終わると鉱山長のジャスがゴホンと咳払いをしてから話だした。
「この鉱山は開発されてから30年近くが経っております。山の裾近くから坑道を掘り、中で坑道を木の枝の様に分岐させて採掘をしています。ご存じかもしれませんがミスリルは鉱脈がありますが魔石については鉱脈がなく点在しておる状況です。そのミスリルですが現在の見立てでは今からむこう3年は問題ないでしょうがその先については採掘している鉱脈を掘りつくす事となりこのままでは将来のミスリルの産出量が大幅に減少する可能性が高いと見ております」
かなりマイルドな表現だが要はこのまま掘り続けたら4年目以降の早い時期に枯渇すると言う事だ。
「幸いにというかここ以外の鉱山でも多少のミスリルが産出されておりますので全くなくなるということではありませんがそれにしても国内の需要を賄うことはできなくなります」
リベラとジャスによればこの予測は既に王国の地質開発部には伝えており、開発部よりは新たな鉱区の開発を開始せよという指示が出ているらしい。
「新しい鉱区の開発はもちろん始めており、地質開発部の専門家たちが東西にそびえているこの山脈を歩いては新しい鉱脈を探しておりますが表土を少し剥いでボーリングをした程度ではなかなか見つけるのが難しい状況でございます」
と2人とも頭を抱えている様だ。
「ここにいる妖精のフィルに頼んでみましょう。妖精なら新しい鉱脈を見つけられるかもしれない」
説明を聞き終えるとブライアンが言った。
『そうそう。いつ私を紹介してくれるのか待ってたのよ。このフィルに任せなさい』
肩に乗っていたフィルが言った言葉を3人に伝える。
『でさ、ブライアン。ミスリルって何?どんなの?』
「お前それも知らなくて大見栄を切ったのかよ?」
ブライアンがあきれた声で言い、ミスリルと魔石の現物を見せてもらえないかというとすぐに現物が用意された。
テーブルの上に置かれた2つの鉱石を見せて
「これを、特にこっちのエメラルドグリーン色したのを探して欲しいんだ」
置かれた2つの鉱石を前にして説明する。
『もう大丈夫。2つの石の魔力の波長を覚えたからばっちりよ』
フィルが大丈夫だと言ってますので早速行ってみましょうとブライアンが言い全員が立ち上がった。打ち合わせをしていた建物を出ると鉱山の入り口に向かって歩いていく。歩きながら聞いたところこの街には800人ほどが住んで働いているらしい。給金が良いので希望者が多いんですよとジャスが言った。ちなみに騎士団は1年任期で今のホールは着任後7か月が経ったところだという。
坑道の入り口は街に続いている中にあった山裾からスロープで上に上がったところにぱっくりと口を開けている。
すぐに坑道に入る予定だったが入り口に近づくとフィルが肩から飛び立って坑道を中心にして山裾の左右を飛び回り始めた。
『さ、中にはいりましょ』
飛び回った結果がどうだったかも言わずにブライアンの肩に戻ってくるとそういったフィル。
坑道の中には壁に魔道具の灯りが規則正しく並んでいて明るい。その中をジャスを先頭にして奥に進んでいく。ジャス、リベラ、ブライアンそして最後尾がホールだ。坑道の中では多くの作業員が採掘や運搬と言った仕事をしていた。
坑道を進んでいくと途中でいくつか坑道が分岐しているのが見えてきた。ほとんどの分岐が左右に伸びており、上や下に伸びている分岐はない。ブライアンは歩きながらポケットからペリカの実を取り出してはフィルに渡していた。女王様のご機嫌をしっかりととっておかないとな。
「この辺りが今のメインの採掘エリアになっております」
本道を進んでいくとちょっとした広場になった。そこで立ち止まると後ろを振り返ったジャスが言った。
確かに円形になっている広場の数か所から奥に坑道が伸びており、見ているとその奥の坑道から次々とミスリルを含んだ土砂が運ばれてくる。広場でざっくりと分別し、荷車に乗せては坑道の出口に運んでいる様だ。
「フィル、どうだい?」
『うん。分かった。こっちを掘れば今よりももっと沢山でるよ』
フィルが小さな腕を突き出した。坑道の奥に向かって左側になる。
『さっきみた青緑色したミスリルの魔力の波長がこっち側から凄く感じるの。どうだろう、このまま真っすぐに30メートルも掘れば沢山出るよ』
フィルの言葉を伝えるとおおっとリベラとジャスが声を上げた。
『ミスリルはね、この山の左側に沢山ある。今掘っているこの場所は沢山ある右の端の小さい脈を掘っていたみたい。少し離れたところに今よりもずっと大きな鉱脈があるよ。だから左側を掘ればいくらでも出てくるわね』
「なるほど。小さな鉱脈がこの辺りで一旦切れていて、再び左の奥の方で広がっているんですな。そして左の鉱脈の方が本脈で今まで掘っていたこも鉱脈よりもずっと埋蔵量が多いと」
ブライアンの通訳を聞いたジャスとリベラは興奮が収まらないと言った様子だ。
『魔石は左にもあるけど右の方が沢山あるよ。ここから右の上に向かって掘るといいわよ』
妖精のフィルは今度は右のやや斜め上を指さした。
妖精の言葉でこれからの採掘の方針が出た。すぐに左の坑道と右上の坑道を掘りましょうとリベラが約束した。
採掘現場を見た一行は坑道を出ると最初の建物に戻ってきた。
向かいのテーブルに座った3人の内のリベラとジャスが頭を下げた。
「妖精様のおかげで引き続き安定的にミスリルも魔石も採掘できることになりそうです。ありがとうございました」
『いいって。これくらいお安い御用よ』
頭を下げられてまんざらでもないフィルはドヤ顔で言った。
「突然お邪魔をして失礼しました。お役に立ててよかったです。私はこれから一旦王都に戻りますが何か伝えておきましょうか?」
是非お願いしたいとその場でジャスが手紙を書き、それを読んだリベラがサインをする。
「今日妖精様から伺った話をまとめたものです。王都で地質開発部隊に渡していただけますでしょか?」
ブライアンは手紙を受け取ると収納の中に入れた。
「王都では戦争についてはどう見ておるのかご存じですか?」
これを聞いてきたのは騎士のホールだ。ブライアンはホールに顔を向けた。
「サナンダジュは数年以内に隣国のキリヤートに侵攻するだろうと見ている様です。グレースランドとしては自国の領土が侵略されない限りにおいて前線に兵士は送らずに後方支援に徹するとしていますが、あくまでこれは建前論です。サナンダジュの侵攻具合によってはこちらもキリヤートに派兵することになるでしょうがそのタイミングや戦力については聞いておりません」
ブライアンの言葉に頷いている3人。
「なのでここの鉱山はこれから多忙になると思いますよ」
武器や弾薬、そして戦争用の魔道具の製造がこれから増えるということだ。
「そういう意味からすれば今日妖精様が新しい採掘場所を見つけて頂いたのは僥倖でございます」
『そうでしょ?そうそうもっとフィルを敬っていいのよ』
肩の上で調子のいい事を言っているフィル。ブライアンがペリカの実を渡すとすぐに食べ始めた。
ちょろいなとブライアン。
最後に騎士のホールからも手紙を受け取ったブライアン。肩にフィルを乗せて建物の前を出ると見送りの3人に挨拶を終え、その場で杖でトンと地面を叩くと3人の目の前から消えていった。
「国王陛下直属の魔法使いとはな」
「妖精を初めて見た」
彼が消えた後残された3人はそんな言葉を交わしながら建物の中に戻っていった。
後日王都から責任者のリベラと騎士のホールにそれぞれ手紙が届いた。差出人は
地質開発部ではなく魔法師団のマーサ副師団長であり、ホールにはワッツ師団長が直接返事を送っていた
どちらの手紙にも妖精を連れたブライアンは国王陛下のお気に入りの魔法使いであると同時にこの国最強の魔法使いでもある。妖精と通じているブライアンには陛下はもちろん魔法師団、騎士団共に全幅の信頼を置いている。鉱山についても妖精の指示通りに開発を進めれば間違いないと書かれてあった。
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