第20話 鉱山にて その1

 怠け者の貴族。なんか素の自分でいけそうな気がして怖い。

 自宅にいるシアンさんとリリィさんにはこれから3日に1度外に出ることを伝え、後2日はいつも通り朝は鍛錬、午後からのんびりすると伝える。


 その3日に1度の外出だが今ブライアンは北の国境になっている山脈の麓を西に進んでいた。いくつか小さな街があるがそれらは遠目に見ているだけでそれ以外の小さな村には顔を出して困っていることがあれば手助けをするという事をしている。


 手助けと言っても井戸を掘ったり土を掘りかえしたりするのがほとんどなのだがそれでも村人から感謝されるとやってよかったなと思っているブライアン。フィルも積極的に手伝ってくれるので短時間で村の困りごとを解決できる。


 国境になっている北の山脈の麓に沿って西に向かっていたブライアンの視界の先に城壁で囲まれている街が見えてきた。


 近づいて見てわかった。そこは鉱山で採掘した鉱産品を一次加工する工場だと。鉱山で働く人やそれを加工する工場で働く人たちが集まって街になっている様だ。人が集まればそこに街ができる。家や宿、食堂ほかにも生活品を扱っている店があるんだろう。城壁の中にある煙突からは煙が出ているのが見えている。


 鉱産品については国が管理していることもありしっかりとした城壁で守られており国軍の兵士が常駐していると事前に聞いていたブライアン。草原から遠目に町の城壁を見ていると肩に乗っているフィルがブライアンと同じ方角を見ながら、


『あそこの街は見ていくの?』


「見ていこう。ひょっとしたら役に立てるかもしれない。フィルの出番があるかもだな」


『その時は任せなさい』


 肩にフィルを乗せて工場の街に近づいていくと城壁の門の左右にいた騎士が近づいてきたブラインをを見て止まれと命じる。


「ここに何か用か?」


「いや、歩いていたら城壁が見えたんでね。中に入らせてもらおうかと思って」


 騎士1人が質問をし、もう1人は少し離れたところで槍を持って構えている。門兵としたらしっかり教育を受けている様だ。ただ槍を持っている男はブライアンよりもその肩にのっているフィルに向けられていた様だが。


「ここは王国直轄の場所だ。部外者の立ち入りは禁止されている」


「それは知っているがこれがあると入れると聞いているんでね」


 収納から取り出した王家の紋章がはいったメダルを見せると2人の表情、態度が急変し2人とも直立不動になる。


「失礼しました」


「いや、これを出すまでの対応は完璧でしたよ。王都に戻ったらワッツ師団長に言っておきますよ。騎士団はしっかりと教育されているって」


「ありがとうございます。どうぞ」


 2人の門兵が左右に離れた間を抜ける様に歩いてブライアンは城壁の中に足を踏み入れた。城壁の中は一見普通の街に見えた。規模こそ小さいが通りには商店もあり2階建の住居が並んでいる。背後にいた騎士の1人が小走りで詰め所に走っていった。


 門を入ったところにある詰め所に近づいていくと中から鎧を着ている騎士が出てきた。


「騎士団所属のホールと申します。この街の護衛の責任者です」


「王都から来たブライアンと言います。魔法使いです、それで肩に乗っているのは妖精のフィル」


『フィルだよ。よろしく』


 ブライアンの肩に乗って足をぶらぶらさせたまま言う。


 妖精と聞いてその男の表情が変わった。そうして肩に乗っているのを見ると間違いなく妖精だ。


 ブライアンは門のところで見せた王家のメダルをもう一度見せ、


「鉱山の責任者の方とお会いしたいのですが」


 メダルを見て直立不動の姿になった騎士が私がご案内しましょうとブライアンを先導する様にして町の中に入って言った。ブライアンの背後には2名の騎士が同行している。護衛というよりもこの街に来た目的を知ろうとしているのか。

 

 気にせずに左右を見ながら街の中を歩いていく。街の作りから見てここには7-800人程度は住んでいそうだ。ただこの時間は皆仕事中なのだろう。街の中に人の姿はちらほらとしか見えない。


 それにしても王家のメダルの効果は想像以上だったなと感心するブライアン。当たり前と言えば当たり前の話だが王家のメダルを偽造する輩はこの国にはいない。と同時にこのメダルが王家にとってVIPに当たる人物にのみ渡されるということを騎士ならば当然知っているだろう。


 見事に態度が変わったなとその時の事を思い出しながら歩いていると街の中心部にある比較的大きな一軒家の前で立ち止まる。


「ここです」


 中に入り会議室の様な殺風景部屋で待たされていると男性が2人入ってきた。一人は40代後半から50代、もう一人は30代後半に見える。


「この鉱山の責任者をしておりますリベラと申します。こちらは鉱山長のジャス。同じ王国の地質開発部所属です」


 事前に王家のメダルの話をしていたのだろう。2人とも丁重な態度で接してくる。


「忙しいところすみません。私はブライアン・ホスマー。国王陛下直属の魔法使いとして今は国中を周っております。それとこちらが妖精族の女王のフィル。まぁ私のパートナーです」


『フィルだよ。よろしく』

 

 例によって軽い挨拶の後肩の上で立ち上がると優雅に頭を下げた。

 びっくりするリベラとジャス。


 挨拶が終わって全員が席についた。ブライアンの向かいにリベラ、ジャス、そしてホールの3人が座り、護衛としてついてきた騎士2人は会議室の入り口の扉の前に立っている。


 ブライアンは収納から王家の紋章が入った封書を取り出して中の手紙を3人に見せた。


ー ブライアン・ホスマーは国王陛下直属の魔法使いである。王国内に於いては彼の行動にはいかなる制約もない。彼の依頼は国王陛下よりの依頼と同様であることを理解した上で対処せよ ー



 手紙を読んだ3人は驚いた表情のまま丁寧な仕草で封書をブライアンに戻した。


「私は辺境領の田舎町で育った魔法使いだったのですが近くの森で妖精と知り合いまして」


 と簡単にフィルと知り合った経緯から王都に移動し国王陛下と謁見もし、今は王都で生活しているという話をする。


「騎士団のワッツ団長、魔法師団のミュラー師団長、マーサ副師団長にはお世話になっています。今ここにいらっしゃる皆様には今回の私の訪問の目的をお伝えします」


 北のサナンダジュの南侵に備えキリヤートや自分の国が準備を始めている中、自分は遊軍として有事の際にはフィルと共に戦闘に参加する様に言われている事。そのために事前に国中を周って地理を覚えながら困っている人を助けているのだと説明した。


「国内を好きに周らせてもらっておりますがあまり目立たない様にと普通の街には顔を出しておりません。訪れているのは小さな村ばかりです。村は老人が多く困りごとが多いですからね。幸いに転移の魔法が使えますので夕刻になると王都に戻って家で休んではまた翌日に転移の魔法で飛んでウロウロするという事を繰り返しています。ただこの鉱山の街は普通の街じゃない。ならば何かお手伝いができるかと思い伺った次第です」


 その後は魔法使いとしての自分の能力などを説明したあとで、


「妖精族の女王であるフィルは見えないものを見ることができます。鉱山の開発でお困りのことがあればお手伝いできるのではないかと思い国境に沿って歩いている時に目に入ってきたこの街にやってきたという事です」


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