第14話 帰省
「新しい家に引っ越した。魔道具もできた。ということで一度実家に帰るぞ」
マーサが道具を持ってきてから3日後、王城の魔法師団の詰め所に顔を出したブライアン。これから実家のある辺境領に行くと言って王都を出る。肩にはフィルがちょこんと座っていた。収納魔法に必要な物は入れてあるので持っているのは杖だけだ。まるで近くの森にスキル上げにでも行く様な格好だ。
「転移の魔法で戻ったら途中の風景が記憶できないので短い距離の転移を繰り返しながらいくよ」
王都の外に出て街道を歩き出したところでブライアンが肩に乗っているフィルに言った。
『いいわよ。ブライアンがペリカを沢山持ってくれているし、私は時間がかかっても大丈夫』
「食えりゃあいいのかよ」
苦笑するブライアン。
転移の魔法は自分が一度行った場所か視界に入る場所でないと使えない。王都を出たブライアンは街道を歩きながらその先に見える風景の中で目標を見つけるとそこに飛ぶ。そしてしばらく歩いてまた次の目標を見つけてはそこに転移していく。
一度の転移の距離は数キロから見晴らしの良い場所で数十キロだがそれでも普通に歩いていくよりはずっと早いスピードで南の辺境領を目指していった。膨大な魔力量になっているブライアンにとっては日に何度も転移しても問題がない。
王都を出て3日目には彼の目の前に辺境領の領主であるオースティンが住んでいるミンスターの街の城壁が見えてきた。
「色々と大変だな」
辺境領伯であるオースティン・カニングハムの領主の館の一室でブライアンは彼と向かいあっていた。肩に乗っているフィルは暇なのか足をブラブラさせている。
王都に移ってからのことを一通り説明し終えると伯が言った。
「その節はお世話になりました。まぁやっと周囲の動きに自分の理解が追いついてきたところです」
オースティンは目の前に座っている濃い茶系のローブとズボンの若者を見ながら、国王陛下らにここまで気に入られるとは。と思っていた。ただ国王陛下が気に掛けられるのも当然といえば当然だ。
初めて妖精と通じ合った男。その結果膨大な魔力量と強力な魔法を手に入れたが当人は好戦的な性格ではなく人柄も良い。国として彼を切り札として活用したいというのは十分に理解できる。
「それで今回は実家に戻るが、それからはどうするつもりなんだい?」
「陛下よりは命が出ない時は自由にして良いと言われております。このグレースランド各地をうろうろして見聞を広めようかと」
「なるほど。それもよかろう。聞いておるかも知れんが北の国の動きが怪しくなってきておる。数年以内には何かが起こるだろうというのが一般的な見方だ。その時までに各地を回って見聞を広め、鍛錬を続けるのは良いかもしれんな」
『この人もいい人だね。悪い人じゃない。今のは本心からの言葉だよ』
足をブラブラさせて暇そうにしていたフィルが言った。こいつは話を聞いてないなと思ったらしっかりと聞いていたらしい。
「フィルも侯爵のことを気に入っている様です」
ブライアンが言うとそうそうと頷くフィル。オースティンの表情が緩む。
「妖精に好かれたのは自慢できるな」
そう言って声を出して笑った。すぐに真面目な表情になるとブライアンを正面から見る。
「ブライアン、戦争になれば君は望む、望まないに関わらず国王陛下の命の下で人を諌めることをしなければならない。人が人を殺すことを楽しむ人は誰もいないだろう。ただそうしなければより多くの何も知らない人々が殺されるという時には自分の心を鬼にすることが必要となる」
その通りだと聞いているブライアン。
「この世には理不尽な事も多い。ただその理不尽を少しでも正す為になら躊躇なく君の能力を使って欲しいと私は思っている」
「わかりました。肝に銘じておきます」
辺境伯の館を出たブライアンは肩にフィルを乗せたまま市内を歩いて伯が勧める宿に部屋をとった。伯によればここはミンスターでも最上級の宿らしい。まぁ金はあるからいいだろうと思って宿のカウンターで声をかけるとなんと事前に辺境伯から連絡が入っており宿代のみならず飲み食い全ての代金が辺境伯持ちになっていた。
びっくりしたが好意に甘えることにするブライアン。あの人に裏がないのはフィルの見立てで分かっている。ここは素直に受けるべきだ。
「はぁ、戦争か。出来ればやりたくないんだよな」
広い部屋のソファにドスンと座ると声を出すブライアン。フィルは市内で買ったペリカの実を美味しそうに食べている。
「沢山あるんだから仲間達にも分けてやれよ」
『んぐ。分かってるわよ』
お前分かってなかっただろうと言う前にブライアンの言葉を聞いた妖精達が部屋の中で姿を表した。テーブルの上にある皿にペリカの実を山盛り積むと嬉しそうな表情でそれに近づいていく妖精達。妖精が持ってきたペリカをありがとうと言って食べているとフィルがテーブルの上に立ってブライアンを見る。
『ブライアン。妖精達はこの世界の理不尽さも知ってるわ。動物だって同じ。時に捕食し、時に捕食される。人間の殺人行為を全面的に肯定はしないけど全面的に否定もしない。貴方は事の分別が分かる人。その貴方がどうしてもという時には妖精は否とは言わないわよ』
「今まで自分の周りは皆いい人ばかりだったからな。でもそうでない人がいるのも知っている。特に勝手に他の人の庭に入ってきて元からそこにいた人を追い出したり殺したりする人は人じゃない。うん、その時は覚悟を決めるよ」
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