第15話 実家

 次の日の朝ブライアンはミンスターを出て西に向かって歩いていった。普通なら3日かかるところを翌日の朝には久しぶりに故郷のジャスパーの街に入っていった。ジャスパーへの道は森の中を通ることが多く遠くを見ることができないので時間がかかるのだ。


 家に戻ると母上や父上が総出で出迎えてくれた。もちろん兄上もそうだ。


「辺境伯から一応聞いている。王都に行ったと思ったら色々と大変な事になっている様だな」


 挨拶が終わって屋敷の応接に家族全員が揃うと父上が言った。


「まぁ逃げてもいられませんのでそのまま受け入れる事にしています。幸いに妖精のフィルがいろいろとサポートしてくれてますので」


 そう言うと肩に乗っていたフィルがどうだとばかりに小さな体を反らせる。

 その後はブライアンから直接家族全員に王都での出来事を詳細に報告した。


「戦争か。サナンダジュの話はここ辺境の田舎町にまで届いている。幸いにこのあたりは国の南西の端、国境は高い崖になっていてここが攻めてこられることはないだろう。とは言え隣のキリヤートが万が一サナンダジュの手に落ちたらここジャスパーの街も今までの様なのんびりとした生活は送れなくなる。ブライアンの責任は重大だな」


「出番がないのが一番良いのでしょうけど、もし出番が来たら国王陛下のために全力を尽くすつもりです」


 ブライアンがそう言うと父上と兄上は頼むぞと言ってくれたが母上だけは心配そうな顔をして


「無理をしないでね」


 とブライアンを気遣った。


「そうだ、父上」


 ブライアンは父親のワーゲンに話かけた。隣には母親のマリアもいる。


「実は国王陛下が用意してくださった王都の家なんですがその家で働いてくれるお手伝いの件で相談が」


 ブライアンは王家からブライアンの家にお手伝いを派遣しようと言ってくれたがそれを断っているという。ジャスパーのこの屋敷にいるお手伝いさんの中のシアンとリリィさんを当人の同意が得られれば王都に来てもらって自分の屋敷の中にある家に住んでもらって手伝って貰えないかと言った。


 父親のワーゲンはマリアの方を向くと母親のマリアがワーゲンを見返して言った。


「あの2人はブライアンが生まれてからずっと面倒を見てくれていた人たち。今でもブライアンのことを気にかけてくれているの。お二人がOKしたらいいんじゃないかしら。屋敷にはまだ他にもお手伝いさんがいるしお二人がいなくなっても大丈夫よ」


 その言葉を聞いてワーゲンもそれならいいだろうとその場でシアンさんとリリィさんの2人を呼んで話をする。2人とも王都には行ったことはないがブライアンの世話ができるのならと喜んで話を受けてくれた。


「ありがとうございます」


 ブライアンが2人に頭を下げると、


「いえいえ。ブライアンの坊ちゃんは生まれた時から知っております。私らには子供はおりません。坊ちゃんは息子みたいなものでしたから。今はお偉くなられましたがそれでも私らのことを覚えていてくださって家の面倒を見てくれと言われたら私もリリィも喜んでお仕えさせてもらいます」


 隣でシアンさんの奥さんのリリィさんもそうですよ。王都に行くのは楽しみですねと言っている。


 2人にはいつまでというのではなく準備ができたら王都に向かう様にお願いする。これで懸念していた問題の1つは解決した。


「ブライアン、ちょっといいか」


「はい。兄上」


 兄のジャックに呼ばれて2人で広間から庭にでるとそこにある椅子に座る。


「ブライアンが妖精と通じたことによってホスマー家は男爵から子爵になった。おまけに国から領地までいただいた。男爵から子爵になったのが報じられると市民の人たちが喜んでくれてね。それもお前のおかげだ。きちんと礼を言っておこうと思ってね」


 こう言う律儀なところが兄の素晴らしいところだ。人に対して感謝の念を忘れない。今の両親もそうだし兄上も立派な貴族の跡取りとしてやっていくだろう。


「俺はいずれこの小さな街に住んでいる人達を守っていく立場になる。お前は国を守る立場になる。どちらも人を守るという点においては同じだ。お互いに苦労することもあると思うが頑張ろう」


「もちろん」


「それとだ、お前の実家はここだ。いつ帰ってきても俺は歓迎するぞ」


「ありがとう、兄上」


 やり取りを聞いていたフィルが両手で拍手をする。


『お兄さん、本当にいい人』


「そうだろう?自慢の兄なんだよ」


 そう言ってフィルの言葉を兄に伝えるとフィルに向かって一礼する。同じ様にフィルも兄に頭を下げた。




「気をつけてな」


「魔法があるんでしょ。いつでも帰ってきて骨休めしていいのよ。ここは貴方の家なんだから」


「母上の言う通りだ。いつでも帰ってきていいぞ」


「ありがとう」


 ジャスパーの街で1週間過ごしたブライアンは家族の見送りを受けてジャスパーの街を後にする。


『これからどうするの?』


「まず一度王都に戻るよ。それから今度は国内をうろうろする」


『わかったわ』


「じゃあ行こうか」


 ブライアンが持っている杖で地面とトンと叩くとブライアンと肩に乗っていた妖精のフィルの姿が消えた。


 次の瞬間2人は貴族区にある自分の家の広い庭に立っていた。フィルは肩から飛ぶと庭の木々に向かって飛んでいく。そこには同じ様に転移の魔法でここに戻ってきた妖精達が女王様の後に続いて庭の木々の方に飛んでいった。


 妖精が張ってくれた自宅の結界はブライアンや妖精達がいなくとも効果があり家の中は出る前と全く変わっていなかった。

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