第13話 魔道具と王家のコイン

 2週間後、マーサが家にやってきた。ブライアンが頼んでいた通信用の魔道具ができたので持参してきたという。


 テーブルの上に置かれた魔道具。1つは魔石を綺麗な球体に削ったものでもう1つは魔石を腕輪の形に加工したものだ。腕輪は太さが調整できる様に少し隙間を開けて完全に繋がってはいない。かなり高級な魔石を使って作られたものだというのは一目見てわかる。


「魔法師団の魔道具製造部隊によるとこれを動かす為には最初に両方の道具に同じ人間が大量の魔力を注ぎ込む事が必要なので最終的なテストはできないの。でも理論上は全く問題なく作動するって言ってるわ」


 マーサに言わせると最初に単一の魔力。つまり1人の魔力を対になっている2つの魔道具に大量に注ぎ込む必要があるという。


「じゃあ早速俺が魔力を流し込んでみよう」


『もしブライアンが魔力切れになりそうだったら私たちも手伝うわよ。多分大丈夫だとは思うけどね』


「もしもの時は頼むよ」


 フィルとのやりとりをブライアンから聞いたマーサが緊張した表情になっている中最初に水晶の様な球体の上に手のひらを当てて魔力を注ぎこんでいく。


『しっかりと中に入っていっているのが見えてるわ。そのまま続けて』


 ブライアンにも自分の魔力が水晶に注ぎ込まれている感覚があった。

 肩に座って水晶を覗き込んでいるフィルの声を聞きながら魔力を注ぎ込んでいく。


『それくらいで十分よ』


 という声がした。ゆっくりと手を離すブライアン。


「魔力は?大丈夫?」


 心配した表情になっているマーサが聞いてきた。


「まだいけるな」


 今度は自分の腕輪を手に握ると同じ様に魔力を注ぎ込んでいく。流石に2つ目になると自分の魔力がどんどん減っていくのが分かる程だ。それでもまだいけるなと魔力を注ぎ込んでいく。


『そこでいいわよ』


 そう言われて手を離した時にはまだブライアンの中には魔力が残っていた。


「本当に凄い魔力量ね。桁違いだわ」


 感心するマーサ。


『妖精のペリカを食べるからよ。かなり増えてるしまだまだ増えるわよ』


 妖精達が時々ペリカを手に持ってきて渡してくれるが彼らが手に持ったペリカを食べると魔力が増えるらしい。ただこれも魔力の波長の関係で効果があるのはブライアンだけだそうだというとマーサの表情がちょっと落ち込んだ。


「実験してみよう。マーサ、そっちに魔力を通してくれるかな」


 マーサが水晶に手を当てて魔力を注ぐとすぐに腕輪が光り出した。


「少しの魔力で効果があるのね」


「最初が一番魔力を使うからね。あとは適宜魔力を補充するだけだからマーサなら問題ないだろう。王都にいるときは定期的に俺の魔力も注ぐよ」


 そう言って今度はブライアンが腕輪に魔力を注ぐと水晶が光り出した。


「かなりの魔力を注ぎ込んだから遠距離でも問題ないとフィルのお墨付きだよ」


 ドヤ顔をするフィルに頭を下げるマーサ。


「これで連絡が楽になるわ」


 その後はこの使い方の打ち合わせをした。ブライアンに戻ってきて欲しい時には水晶に魔力を注ぐ。腕輪が光るとブライアンは王城の中のこの前決めたポイントに転移してくることにする。

 

 そしてもし水晶が光り出した時、すなわちブライアンから通信を送った時はブライアンがこれから帰る、すなわち急ぎ報告する必要があるという事前の連絡になり魔法師団あるいは騎士団のいずれかが王城のポイントで待機しておいて欲しいということにする。


 フィルに言わせるとブライアンの持つ腕輪は常に腕に装備しておくと彼の魔力が勝手に腕輪の魔力の補充をするので実質常に満タンになっているということだ。


 通信の魔道具のテストが無事終わるとマーサがまだ渡す物があるのよと言って彼女の収納魔法から封書とメダルの様なものを取り出してテーブルの上に置いた。魔法使いの上位クラスになると容量の大小は別にして収納魔法が使える。


「ケビン宰相から頼まれて持ってきたの」

 

 そう言ってブライアンに大きめのメダルと封書の説明をする。


「これは王家の紋章の入ったメダル。表と裏に王家の紋章が入っているの。検問や身分を聞かれた時にこれを見せるとよほどの事がない限り大丈夫よ。王家の紋章が入っているということはこのメダルの所持者が王家から認められているという証になるの」


 なるほどと聞いているブライアン。マーサは次に丁重に包まれている封書に視線を移した。表面には王家の紋章が印字されている。


「こちらの封書の中には王家としてブライアンの行動の自由を完全に保証すると言った内容の書面が入っている。もしメダルを見せても相手が納得しない際にはこれを見せれば良いらしいの。このメダルと封書で国内ではブライアンが行く事ができない場所はないわ。無くさない様にしてね」


「至れり尽くせりだな」


 そう言って封書とメダルを収納魔法でしっかりと収納する。重要品を渡したマーサはようやく落ち着いたのかソファに腰を落とすとテーブルの上にある紅茶を美味しそうに一口飲んでから言った。


「切り札だからでしょうね。普通はここまでしないわよ」


「切り札の出番がない方がいいんだけどね」


「それは期待しない方がいいわ。大きな流れはもう止められないみたいだから。妖精は幸せをもたらすものと言われている。陛下も宰相もブラインと妖精に期待されているのよ。もちろん私たち魔法師団も騎士団も同じよ」


 魔法師団の副師団長として普段から報告を受ける立場にある彼女がそこまで言い切るのなら戦争は避けられない流れになっているのだとブライアンも理解する。


『当然ね。期待していいわよ。フィルがブライアンと一緒にこの国を守ってあげるわよ』


 肩に乗っていたフィルが言い、ブライアン経由でその言葉を聞いたマーサはお願いしますねと言った。


 マーサは帰り際に王都を出る時は魔法師団か騎士団のどちらかに声をかけて欲しいと言って新しい家を出ていった。

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