第12話 転移魔法
ブライアンは王都で毎日妖精のフィルを肩に乗せて市内の商業区をブラブラしたり、外に出て魔法の鍛錬をしたりという日々を過ごしている。結構な頻度で市内を歩いているので肩に妖精を乗せているブライアンは市内でも有名になっていた。
最初魔法師団のマシューやマーサはブライアンが市内を歩き回ることに難色を示していたが、
「俺は魔法師団所属でもないし妖精の話は広まっている。王都にいるのに下手に隠れている方が何かあると思われるんじゃないか?それよりも普通に生活している方が却ってバレないと思う。妖精が肩に乗っているだけで俺の魔法の威力まではわからないだろうし」
と言う彼の言葉に最後は渋々ながら納得していた。
マシューとマーサは渋々だったが騎士団のワッツはブライアンの考えに最初から賛成していた。
「コソコソやるから勘繰られるんだ。普通にしとけばいいんだよ。それにブライアンは王都にずっといるわけじゃない。国内をうろうろするって言っている。奴は自由人だという風に思わせておいた方が良いと俺は思う」
そう言っていたとマーサ経由で聞いたブライアン。ワッツとはマーサと同じく週に何度か話をする様になり今では歳の差はあるが友人感覚で付き合っている。
今もブライアンの家にやってきたワッツがリビングでブライアンと向かい合って話をしていた。
「お前さんの能力については貴族連中も注目している。馬鹿な貴族がなんとか取り込めないか画策しているらしいが国王陛下所属になっているお前さんを貴族ごときでどうにか出来るもんじゃない」
ペリカの実をフィルに渡しながらワッツの話を聞いているブライアン。フィルは聞いているのかいないのか肩に乗ったままひたすら口を動かしていた。
「一応俺も泡沫貴族の次男坊なんだが、貴族ってのは本当に頭が悪いのが多いとは思うよ。しきたりとプライドの塊だな。ああ、言っておくがうちの親兄弟は違うぞ。自分の領地を持っていない貴族だからな、名前だけの貴族だよ」
「そうは言うが今回の件で子爵になっておるではないか。領地も陛下から拝領されておるぞ」
「そうだった」
頭を掻くブライアン。すっかり忘れていた。
『ブライアンの家族は皆いい人よ。これは間違いない』
ありがとよとって今のフィルの言葉をワッツに伝えると
「妖精のお墨付きじゃないか」
笑いながら言うワッツ。
「まぁな。それでこれからだけどさっきワッツが言った方法で本当に良いのか?こっちとしては非常に助かるんだけど」
短い付き合いだがワッツは目の前に座っているブライアンの性格、そして能力を高く評価している。自分は騎士で魔法使いではないが人間を見る目はあると信じているワッツ。この男は自由にさせていた方が絶対に国のためになる。貴族なんかの相手をして無駄な時間を取らせるのは国にとって損失になると考えており、ブライアンに対して国王陛下からの直接のご指名がない限り王城への報告は自分が窓口になろうと決めるとその話を魔法師団のマシューとマーサに伝えた。
反対されるかと思ったら意に反して2人とも賛成してきた。ブライアンがしばしば王城に顔を出すのは問題だ。切り札は王城や師団とは無関係の立場を貫きたい。貴族区に住んでいるのは彼の家が貴族であるということから問題はないだろう。
「ブライアンが王城に顔を出さないのは良いとして代わりに我々魔法師団が動くと勘繰られる。この国に他国の間諜はいないと言われているが全くいないとは断言ができない中、ブライアンと魔法師団とは無関係であるという形を取った方が良い。となると彼と王城との連絡役は魔法師団よりも騎士団の方がよかろう」
魔法師団トップ2人の了解を取り付けたワッツは王城にて宰相のケビンにその話をする。ケビンもその意図を理解して国王陛下に話をして陛下の了解を取り付けてきた。
この日はその報告でブライアンの家を訪れていたワッツだった。
「問題ないな。国王陛下、宰相、魔法師団、そして俺の所属している騎士団。全ての了解を取り付けた」
そう言うとブライアンが立ち上がった。
「わかった。ちょっと城に行こうか」
「今から城に?誰かに会うのか?」
急に立ち上がったブライアンを見て慌てて立ったワッツが聞いた。
「いや、そうじゃない。一緒に来てくれれば分かるよ」
『私も行くわよ』
「頼むよ」
自宅を出たブライアンは王城に向かう道すがらワッツに今から城に行く目的を話する。黙って聞いていたワッツ。
「なるほど。それならば魔法師団にも立ち会って貰った方がよいだろう」
城に入ると城の中ではなくその敷地内にある魔法師団の詰め所に顔を出した。幸いにマシューとマーサがいたので呼び出して貰い話をする。
ブライアンの話を聞いてびっくりする2人。
「とにかく見て貰えばわかりますよ」
城の広場の一角。騎士団からも魔法師団からもそう遠くない場所を見つけたブライアン。
「ここなんかどうだろう?邪魔にならないと思うけど」
「ここならいいんではないか。背後は城壁だ。柵で囲えば中に入る人もいないだろう」
マシューが言った。
「じゃあここから取り敢えずあそこに飛ぶよ」
ブライアンが100メートル程前方にある大きな木を指差した。フィルを肩に乗せたまま杖の先で軽く地面を叩くとその場からブライアンが消えて次の瞬間彼が指差していた大きな木のそばに彼が立っていた。肩にフィルが乗っているのが見える。向こうで杖で地面を叩くと最初の場所に戻ってきた。ブライアン以外の3人は言葉が出ない。ようやくマシューが声を絞り出した。
「転移の魔法をマスターしたのか」
「家で時間があったんでフィルに教えて貰いながらこの転移魔法を覚えたんだよ」
肩に乗っているフィルが私が教えたのよとドヤ顔をしている。
「それで転移できる距離はどれくらいなの?」
『ブライアンの魔力だとかなり遠くまで行って帰ってこられるわよ。この国の北の端から南の端くらいの距離なら全然問題ないわね』
聞いてきたマーサにフィルの言葉を言うと3人が驚愕した表情になる。
「ただしこの転移魔法で転移できるのは自分とフィルだけなんだ。フィルによると魔力の波長が少しでも違うとダメらしい」
「なるほど。それでもブライアン1人がそこまで移動できるのなら大きな戦力になる」
「その通り。仮にブライアンが王都にいなくてもすぐに戻って来られるな」
マシューとワッツが言うとそれに関して魔道具が欲しいと言うブライアン。対になっている魔道具を1つをここに、そしてもう1つを自分が持てば遠くにいても呼び出されたらすぐに王都に戻って来られるからだ。
「なるほど。ただ遠距離の通信の魔道具となると魔力を食うな」
「それは大丈夫だと思う。鉱山から出る高品質の魔石が2つあればそれに魔力を通せばできるだろう。魔力は自分がたっぷり注ぎ込んでおくので発動するときは少ない魔力で発動する様にするよ」
魔力が桁違いに多いブライアンだからできる技だ。事前にたっぷりと魔力を注ぎ込んでいれば確かに発動させる時の魔力は少なくて済む。マシューやマーサなら全く問題のない魔力だろう。
ブライアンのアイデアは通信の魔道具の1つは魔法師団の誰かが持ちもう1つは自分が持つが、自分が持つのは出来れば腕輪の形で作れないかということだ。それについては魔法師団としてすぐに検討することにする。
そしてワッツは転移の魔法のことを宰相と国王に伝える役目になる。
「フィルに言わせると他にも魔法はあるみたいなんだけど人間なら今覚えているくらいで十分らしい」
『欲張りはダメよ』
フィルの言葉を言うと全員がそうだなと言った。
「妖精の言う通りだ。欲が出ると碌なことがない」
とマシュー。
「転移の魔法だけでも十分に魅力的よね」
『このおじいさんは無理だけどマーサの魔力量ならできるわよ。頑張って』
これはマシューがいない時にマーサに言おう。マシューが気を悪くしそうだ。
後でマーサにフィルの言葉を伝えた時のマーサは本当に嬉しそうだった。
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