第8話 謁見
「頭を上げよ」
その声で頭を上げると王座には男性が座っていた。
この人こそがこのグレースランド王国の現国王であるアーネスト・ホランダー四世だ。
10年ほど前に先代の国王から地位を譲り受けて以来常に国民のことを考えた治政を行っており国民から絶大な人気がある。まだ40代の半ばだ。
国王が座ると宰相のケビンが王座の斜め後ろに立った。
「マーサ。大義であった」
「ありがたきお言葉でございます」
「さて、そこにおるのが余が呼び寄せた者でよいのか?」
「はい。辺境領ジャスパー市に住んでおりますホスマー家の次男、ブライアン・ホスマーと申します」
頭を下げたまま今日何度目かの自己紹介をするブライアン。
「うむ。皆顔を上げてよいぞ。今日は公式の謁見ではないからな。皆も楽にせい」
顔を上げると国王陛下と目が会った。
「ブライアンの肩に乗っておるのが妖精か」
「左様でございます」
『妖精族の女王のフィルだよ』
「ん?今何か言ったのか?」
「はい。私は妖精族の女王のフィルだと。ちなみにフィルという名前は私が命名いたしました」
「なるほど。実はブライアンをここまで呼んだのはその妖精の件でな。名前だけは多くの者が知っているがその姿を見たことがないと言われていた妖精を仲間にした者がおるときいての。是非会ってみたいと思ったのだ。遠路はるばるご苦労だった」
黙って頭を下げるブライアン。
「よければその妖精と知り合った時の話をしてくれぬか」
「畏まりました」
それからブライアンは森の中で迷ったところから話始めた。国王陛下はもちろん、宰相や魔法師団の2人も黙ってブライアンの話を聞いている。
ブライアンが話し終えると、
「なるほど。その妖精の女王のフィルとお主の魔力の波長が完全に一致したことによって妖精がブライアンに懐いたということか」
「いかにも」
「ときにマシューにマーサ。お主らにはその魔力の波長とやらが見えるのか?」
話を振られた2人。まず師団長のマシューが言った。
「恐れながら私に見えますのはそこのブライアンの魔力のみで妖精の魔力を見ることはできませぬ」
マーサはどうだと聞かれたが
「私にも妖精の魔力は見えません」
『妖精の魔力を人間が見ることはできないよ。それができたら妖精がどこにいるのかが分かっちゃうじゃない』
フィルが身振り手振りで何かを言っているのは周囲もわかった様だ。何を言っておるのだと国王陛下が聞いてきた。ブライアンはフィルが言ったそのままを伝える。
「なるほど。確かに妖精の女王の言う通りだ。それにしてもブライアンは本当に妖精の言葉を理解しておる様だの。マシュー、妖精と通じておる人は初めてだろう」
「いかにも。妖精を見ることができない理由も今伺いましたが、納得でございます。そんな中妖精をパートナーにした人間は初めてではないでしょうか」
マシュー師団長の言葉に頷く国王陛下。
「ときにブライアン。お主はもう成人の儀を終えたと聞いておる」
「その通りでございます」
「しかも次男なら家を継ぐことは無い。お主は17歳になってどうするつもりだったのだ?」
ブライアンは自分の夢、魔法使いとして国中を回って土地を開墾したり水のない場所に川から水を引いたりとこの国がもっと良くなる手助けをするつもりだったという。
その話を聞いた陛下は破顔されて言った。
「見事だ。自ら国中を回って民の生活をよくするために魔法を使おうと考えておるとは大したものだ。なぁケビン」
「まさに陛下の仰る通り。逆に耳が痛い話ですな」
宰相の言葉に声を出して笑う国王。
「ブライアン。先ほども言ったが妖精を友にした人間はおそらくお主が初めてだろう。本来であればお主の希望通りに好きに国内を回らせてやりたいところだが、聞いておるかもしれんが最近我が国の周辺がきな臭くなってきておる。まだどうなるかわ分からぬが我が国も色々と準備をせねばならない様だ。妖精と仲が良いお主も我に協力してはくれぬかの?」
「仰せのままに」
その言葉を聞いた国王陛下は大きく頷いた後で声を出した。
「ブライアンに貴族区で家を準備せよ。彼の立ち位置についてはもう一度検討した上で決めることにする」
そう言ったあとでブライアンに、
「しばらくは王都でのんびりしてくれてかまわないぞ。何か困ったことがあればケビンに言うが良い。妖精と通じておる者を無下にはせん」
と言った。
国王陛下が部屋を出た後で謁見の間を出たブライアンは師団長のマシューとマーサについて城の中にあるマシューの執務室に入っていった。さっきマーサが消えたのはこの部屋に顔を出していた様だ。
執務室は不要な装飾もなくすっきりと落ち着いている。部屋にあるソファを勧められて座るとマシュー師団長が切り出した。
「さっきマーサがここに来て簡単な報告は受けておる。妖精の加護を得て相当威力のある魔法を撃ち、膨大な魔力量を持っておるそうだな」
ブライアンはマシューの顔を見て答える。
「あまり他の人と比べた事がないのでわかりませんが自分自身の事で言えば妖精と知り合ってからはかなり威力が増し、魔力量も増えたと認識しています」
「なるほど。マーサに言わせると魔法師団でもブライアン程の魔法を撃てる者はいないだろうと言っておる。よければこれから鍛錬場で魔法を見せてくれないか?」
構いませんよというと部屋から出た3人は城を出るとそのまま魔法師団の鍛錬場に場所を移動する。
魔法師団長と副師団長の2人に続いて鍛錬場に入ったブライアン。鍛錬場には100名近い団員が並んで立っていて入ってきたブライアンとその肩に載っている妖精のフィルに視線を送っていた。そしてよく見れば鍛錬場の周りには魔法師団以外、鎧を着ている騎士連中も多くいる。
「ブライアンが今日城に来るのは騎士団の連中も知っておるからの」
マシューの言葉に納得するブライアン。田舎者が妖精を連れてやってきた。どれくらいの力がるのか見てやろうという事かと。力が弱ければこれからここでの生活にいろいろ不自由がありそうだ。ちょっと本気でやるかと考えていると、
『ブライアン、最初が肝心よ。本気でいくのよ』
どうやらフィルも同じ考えだ。フィルの言葉に頷いて返事をして鍛錬場の中央に歩いていった。
ブライアンが立っている先には壁沿いにミスリルの人形数体と的が置かれている。
魔法師団員と騎士団達の全員の視線が鍛錬場の中央にいるブライアンに注がれる。
「最初は精霊魔法を撃ちます」
そう言いうと杖を持っている右手を突き出した。と同時に壁沿いのミスリルの人形1体がいきなり爆発して破片が四散する。
誰も声を発しない。
「……今のはブライアンが撃った精霊魔法だな?」
しばらくしてからマシューが声を絞り出した。
「その通りです。雷の精霊魔法を撃ちました。次は火の精霊魔法を撃ちます」
そう言ったブライアンが再び杖を持っている右手を突き出すと同時にミスリル1体が大きな炎に包まれる。
ここにきてブライアン以外の全員が彼の魔法の威力を目の当たりにしたと実感する。
その魔法の威力たるや魔法師団長のマシューが最大級の魔力を注ぎ込んで発動した魔法の何倍、いや何十倍と強力な魔法だ。しかも無詠唱で魔法の起動が見えない程のスピード。
「今の火の精霊魔法は少し威力を落としました。爆発させるより燃えている方が魔法が見やすいだろうと思いまして」
「……」
声がでない師団長。隣でマーサも改めてびっくりした表情になっている。
「次に強化魔法をかけます」
杖の先で地面をトンと叩くと直ぐに立っているブライアンの周囲に強力な強化魔法が張られる。
「何という強化魔法だ」
ブライアンの強化魔法をみたマシューが再びびっくりする。
「かなり固いので騎士の方が複数でかかっても大丈夫です」
魔法を張ったブライアンが言った。
「なら試させてもらおう」
鍛錬場の外から大きな声がした。
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