第7話 王都

 ホスマー家の館に戻るとマーサ以下4人はワーゲンはじめホスマー家の人たちから歓待を受ける。その席上でマーサがワーゲンとその家族らに今回の目的をもう一度説明した。


「先ほど森の奥でブライアン殿の魔法を拝見しましたが想像以上でした。国王陛下よりは妖精を従えている、いや失礼しました妖精とパートナーとなっているブライアン殿に王都であるイーストシティに来てもらいたいと言われております」


 戦争という具体的な言葉は言わないがただ珍しいというだけで王都には呼ばないだろうとここにいるホスマー家の全員が彼が王都に呼ばれた本当の目的を分かっていた。


「国王陛下の命であれば断ることなどできません。成人の儀を終えたブライアンは1人前の大人としてこの家を出ることが決まっております。是非王都にお連れください」


 陛下の命令に反対する者はここにいないし、そもそも反対すれば反逆の印を押される。ワーゲンの隣に座っている母親のマリアだけが寂しそうな表情をしているが彼女とて陛下の言葉に反対することはできない。


『王都?イーストシティってどこ?フィルも行くからね』


 黙ってやりとりを聞いていたフィルが言った。


「ああ。フィル達が一緒に行くのがこの話の前提になってる」


『じゃあ問題ないわよ。ブライアンが行くところにフィルありよ』


「妖精も王都に行くのは問題ないと申しております」


 フィルの言葉を短く伝えるとマーサが妖精を見て頭を下げた。


「妖精とは御伽話の世界の話だと思っておりました。こうして目の前におるのが今でも信じられません」


「最初は家の者も全員が同じでした。まさか本当に妖精がいるとは。しかもこの家の近くの森にいるとは思いもしませんでした」


 ワーゲンが言った。


 その後はマーサとワーゲンとの話で急ながら明日彼女らと一緒にジャスパーを出て王都に向かうことになる。


「急な話で申し訳ないが旅の準備を急いでお願いしたい」


「わかりました」


 彼らが館から出るとお手伝いさんを含めててんやわんやとなってブライアンの旅立ちの準備をすることになる。幸いに収納魔法を取得しているので生活に最低必要な物だけを次々と収納していくブライアン。


 準備が一通り終わると家族で夕食になった。ワーゲンらは自分の館で食事をして泊まっていってくださいとお願いしたが、マーサらはジャスパーの市内にある宿に泊まると言ってワーゲンの誘いを断って屋敷から出ていっていた。


「王都に行ってお国の為に何をするのかは分からないが国王陛下よりの直接のお話だ。しっかりと職務を果たせよ」


 と父のワーゲンが良い、兄のジャックは、


「家のことは父上と俺に任せてくれ。それとここはお前の家だ王都に行ってもう帰ってこないということはないだろう。いつでも帰ってきてくれていいからな」


「ありがとう兄さん」


 最後に母親のマリア。


「ジャックも言っているけどここは貴方の家よ。いつ帰ってきてもいいから。体には気をつけてね」


 そう言ってから肩に乗っているフィルを見ると、


「ブライアンをよろしく頼みますね」


 と頭を下げる。


『わかった。任せて!』


 と片手で自分の胸を叩きながらマリアに言った。




 翌朝、ホスマー家が用意した馬に乗ったブライアンは家族やお手伝いさんの見送りを受けるとマーサら魔法師団の馬車と一緒にジャスパーを出てミンスター経由で王都を目指して旅立っていった。



 王都であるイーストシティはグレースランド王国の中央部にあり人口数十万人の大都市だ。もちろん王国最大の都市である。外と接している城壁は高く頑丈だ。その城壁の中の広大な土地に国民が住んでいる。中には市民が生活する地区や商業区などがあり、そこから中心部にいくとまた城壁がありその奥が貴族区になっている、貴族区の奥にはさらに城壁があってその奥に王城が聳えていた。

 

 長旅を終えて王都に着いたブライアンら一行は外から王都にはいる城門をフリーパスで抜けるとそのまま貴族区の中に入っていった。後で分かった事だが彼が入った門は一般者用の門ではなく貴族や軍の専用の門だった。


 その日は貴族区の中にある宿で疲れをとったブライアン。

 翌日迎えにきたマーサと共に貴族区から城壁を抜けて王城のあるエリアに入るとその中の一角で止まった。


「ここは魔法師団の詰め所と鍛錬場になっているの。この隣には騎士団の詰め所と鍛錬場があるのよ」


「なるほど」


『王都って広いね。それに立派なお城だよ、ブライアン』


「ああ。俺も初めて見るけど大きくて立派だな」


 田舎から出てきたブライアンはお上りさん状態で周囲を見ながらマーサについて城に入っていった。マーサは途中で離れて行ったがしばらくするとまた戻ってきた。


 立派な城の中を歩き回って階段を登った彼らはとあるドアの前で止まった。


「ここが国王陛下との謁見の間よ。国王陛下は気さくなお方だから聞かれたら思うことを言ってかまわないわよ」


「わかりました」


 相手があまりに大物すぎて実感の沸かないブライアン。まぁどうにかなるだろうと腹を括ってマーサに続いて部屋に入っていった。泰然自若、マイペースが信条だ。


 部屋の中は真っ赤な絨毯が敷かれていてその先には国王陛下の座る王座の椅子が3段ほどある階段の上に置かれている。書物で読むとこう言う部屋には大抵左右に貴族がずらずらと並んでいると書いてあったが誰もいない。


 左右をキョロキョロしているとマーサが


「今日は非公式の謁見みたいね。だから左右には貴族も大臣もいないんだわ」


「なるほど。そう言うことか」


 フィルは肩に乗ったままブライアンと同じ様に左右に顔を振っていたが


『この部屋の主はいい人ね。部屋に邪な気がないわ』


 なるほど。フィルならそこまでわかるのか。

 絨毯を歩き王座の前まで来たところで2人は立ち止まる。


 すると部屋の横にあるブライアンが入ってきた扉とは別の扉が開いてローブを着ている男性が入ってきた。男性は50代の前半に見える。


「私は王国魔法師団の師団長をしておるマシュー・クラークという」


「初めまして。辺境領のジャスパーという街出身のブライアン・ホスマーと申します。そしてこちらが妖精族の女王です。フィルという名前をつけました」


 と言った。


「ほう、確かに妖精だな。しかも懐いてる様に見える」


『当然よ。私のパートナーなんだから』


 フィルがあんた何とぼけた事を言ってるのよと言った口調で言ってるがそれを無視していると、


 次にまた別の扉が開いて1人の男性が入ってきた。

 

「ブライアン殿かな。私はケビンといいこの国で宰相をしておる。今回は急な呼び立てで申し訳ない」


「いえ、こちらは問題ございません」


 再び自己紹介をしたあとにそう言って言葉を返すブライアン。ケビン宰相は左の肩に乗っている妖精に目をやると、


「なるほど確かに妖精だ。こうしてみるのは初めてだが懐いている様だな」


『ブライアン。また言われてるわよ』


「フィル、ちょっと落ち着け」


 小声でフィルに注意していると王座の右奥の扉が開いた。一斉にその場で膝をつく3人。ブライアンも慌てて床の上に膝を着いて頭を下げた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る