第3話 恵の大地

 フィルと仲良くなってというか妖精の加護を受けたブライアンの魔法はその前とは比較にならない位に威力が増し、同時に魔力量もものすごく増えていた。


 最初は戸惑っていたが最近ではうまく魔力をコントロールできる様になっている。毎日の様に森に出かけているが妖精達も森に入ると我が家に戻ってきたかの様にあちこちに飛んで行っては遊んでいる。


 フィルもこの森では楽しそうだ。他の妖精たちと森の木々の間を飛び回って遊んでいる。まぁフィルがご機嫌なら自分としては何も言うことはない。


 森の中で岩に向かって土魔法で作った弾を撃つと今までとは全然違う威力の魔法飛び出していき岩にぶつかってその表面を削った。


「また魔法の威力が強くなってる」


 ここ数回森で魔法を撃つ度にその威力が増していた。妖精の加護なんだろうとは理解するもそれだけでここまで威力が増すものかどうか。


『どうしたの?悩んでる顔して』


 森の中を飛び回っていたフィルがやってきた。


「ああ、妖精の加護だけでここまで魔法が強くなるものなのかと考えてたんだよ」


『それはね、私たちの加護っていうのはそれがかけられた人、この場合はブライアンね。その潜在能力を顕在化させることができるのよ。つまりブライアンは今まで自分の気が付かなかった魔力を開花させたって訳』


「なるほど。ということはだ。俺がもっと鍛錬したらこれよりも強い魔法が撃てる様になるってことかい?」


 ブライアンがそういうと彼の顔の前、空中で浮いているフィルがパチパチと拍手した。


『その通り。えらいえらい』


「まぁ、誰でもわかるだろう? そういう事なら俺はもっと魔法の鍛錬をする」


『魔法を強くしてどうするの?』


「ああ。それはな、俺には夢があるんだよ」


 森の中にある切り株に座るブライアン。彼が座るとフィルも左の肩に座った。ブライアンの周りには妖精たちが飛び回っている。


 ブライアンはこの国の貴族のしきたりをフィル話したあとで、


「父上の後継者は兄上。俺は成人の儀を終えると家を出る。そこでだ、俺は来年家を出たら国中を回ろうと思っているんだよ。この国は豊かだけどもっと豊かになれると思うんだ。その為に魔法を使って土地を開拓したり水を引いたりして国をもっと豊かにする手助けをしたいんだ」


 フィルは肩に乗ったままブライアンの話を聞いていた。

 うん、この人に加護を与えてよかったわ。


『なるほど、いいじゃない。ブライアンが国中を巡るのならもちろん私もついていくわよ』


「嬉しいけどいいのか?」


 フィルはブライアンの左肩に座って足をブラブラさせながら、


『当然よ。ブライアンと一緒ならどこにでも行けるしさ。私達もあちこち見て回りたいの』


「なるほど。じゃあこれからもよろしくな」


 ブライアンと妖精のフィルは軽くグータッチをする。




 この大陸には4つの国がある。最北部を治めているのはアヤック帝国。彼らは厳しい北の大地をその領地としており。他の国との国交や交易はほとんどない。噂では南下する時期を見ており鎖国状態の国の中で軍備を整えているのではないかと言われている。大陸の人達はアヤック帝国のことを”北の狐”と呼んでいて潜在的な脅威と考えている。


 そして大陸中央部を支配しているのがサナンダジュ王国。国の面積から見れば大陸最大の国家だ。国名こそ王国だが実際は帝王と呼ばれる国王が国を支配している。代々交戦的な王は北と南を我が物とすることを考えており。国家予算の多くを軍備費に回して軍拡を進めていた。そのせいで国民はそれほど裕福ではないと言われている。


 そのサナンダジュ王国の南部、大陸南部には2つの国家がある南部の東側にはグレースランド王国、南部の西側にはキリヤート国。


 アヤック帝国とサナンダジュ王国との間には高い山々が聳えている。そしてサナンダジュ王国の南部には大河が流れておりこれがサナンダジュとキリヤート国との国境になっていた。


 キリヤート国はこの大陸唯一の共和国でありこの国には貴族はいない。かわりに国民から選ばれた者たちが国政を動かしておりその頂点にいるのは首相と呼ばれている。民主主義の様に見えるが首相が変わる度に国の方針が変わること、そして全てが合議制の為に即断即決ができないというデメリットがあり、ここ数年サナンダジュ王国がギリーヤートにちょっかいを出しはじめてからはその決定の遅さが致命傷になりつつあった。


 最後にグレースランド王国はこの大陸の南東部を治めているがこの国は国全体が巨大な台地の上にある。大陸が盛り上がって台地になっている場所。それがグレースランドだ。国全体が大陸の他の地よりも高い場所にありその高さは低いところで50メートル、高いところは300メートルもありその崖が天然の要塞となって国を守っている。高地にある国家。それがグレースランド王国だ。気候は国土の北部から中部は年中常春で南部は常夏だ。緑が絶えない国でもある。


 ブライアンもここグレースランドの国民だ。

 グレースランド、ここに住んでいる国民は自分の国のことをこう言っている。


 恵の大地 と。


 ブライアンが住んでいる国家はこのグレースランド王国で国王陛下はアーネスト・ホランダー四世。


 グレースランドは建国して100年以上が経っているが建国以来この恵の大地の恩恵を最大限に受けてきていた。台地の北、サナンダジュとの国境は万年雪をかぶる高い山々が連峰になって東西に走っておりその山裾からは金、銀、鉄、銅、魔銀(ミスリル)と言った軍事や生活に必要な鉱石が算出される。そしてそれ以外に魔石と呼ばれる特殊な石が豊富に算出される山々が連なっている。


 魔石とは魔力を含んだ石のことでこれを使って魔道具と呼ばれる物を作り国家が国民に提供している。食料を冷やす為だったり火を使う調理器具だったりと魔石の用途は多岐に渡っており今では魔石無しでは生活が成り立たないほどになっていた。


 国の西側は森になっておりその森の中に100メートルから200メートル程の崖が南北にずっと走っていてそれがお隣のキリヤート国との国境線になっている。国の東側と南側も高い崖になっていてその崖の下に海がある。


 建国した当初は海に面していても海に出ることが叶わなかったが何年にも渡った大事業の結果東海岸の一部に崖を削って道を作って下に降りられる様にし、そしてその降りた先に土や岩を埋め立てて港を造り上げた。


 今でもそこがグレースランド唯一の港であり、そこには漁船が停泊し、たまに他国の船が停泊することもある。港ができたことによりグレースランドの人々は海の幸を口にすることができる様になった。


 この国の王都はイーストシティと呼ばれ台地にある国家のほぼ中心部にある。国王がいる首都、王都には王城をはじめ政府機能が集まっており当然王国最大の街になっている。


 天然の要塞に囲まれた恵の大地。それがグレースランド王国だ。

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