第2話 フィル
女王様の話が終わると分かったと言い、自分はブライアンだと名乗った。
『私にも名前を付けてもらえる?名前を付けるとブライアンとの結びつきがさらに強くなって魔力量が増えるのよ。貴方の魔力量と魔法の威力も当然増えるわよ』
そう言われ、妖精の名前かと考えるブライアン。妖精はフェアリーだったな。
「フィル。フィルなんてどうだい?」
『フィル。うん、気に入った』
そう言ったフィルの身体が光はじめ、その光はブライアンをも包み込んでしばらくすると消えた。
「今のは何だい?」
『妖精族の加護を掛けたの。これでブライアンは普通の人間では得られない能力を身につけたわ』
「加護?普通じゃ得られないって?」
『そのうちわかるわよ。魔法の威力が桁違いに強くなってる以外にも色々あるの。今は内緒よ。さぁ行きましょう。森の出口、街はこっちの方角よ』
「内緒?」
『そう。追々説明してあげる。それよりこっちよ』
うまくはぐらかされた気もするが、とにかく魔力量と魔法の威力が増えた事はいい話だ。妖精が嘘をつくこともないだろう。ブライアンは前を飛ぶフィルに続いて森の中を進んでいく。歩き始めて気がついた他の妖精達は姿を消しているのか見えない。
『普段は姿を消しているからその方が楽なのよ』
「それでフィルは森から出ても姿を消さないのかい?」
フィルはそれまでブライアンの少し前を飛んでいたが振り返るとブライアンの左肩の上にストンと腰を下ろした。
『姿を隠さない方がブライアンの魔力をそのまま貰えるみたい。それに肩に乗っているとブライアンの体の周りに漂っている魔力を体内に取り込みやすいの』
そういうものかと気にせずに肩に乗せた、と言っても全く重さを感じないんだが、とにかくフィルを肩に乗せてフィルが小さな腕を伸ばしてあっちだこっちだと言われるままに森の中に歩いていると森の出口が見えてきた。
「おおっ、さすがに妖精だ」
『これくらい簡単よ。もっと敬ってくれていいのよ』
森を出て自宅の屋敷に戻ると大変な騒ぎになった。ブライアンが肩に妖精を乗せて帰ってきたのだ。両親のワーゲンとマリア、兄のジャックが居間でブライアンの肩に乗っているフィルを見ている。
「森で知り合った妖精。名前はフィル。なんでも妖精族の女王様らしい」
『フィルよ。よろしく』
そう言ってブライアンの肩の上で立ち上がると優雅に頭を下げて挨拶する。
ブライアンが森の中で迷っていたところからの話を聞き終えた家族。
「それで妖精様はブライアンと魔力の波長が全く一緒で、そうなるとブライアンから大量の魔力を受け取ることができて森から出てきたってことなのかい?」
父親のワーゲンがブライアンの話を聞いたあとでまとめる様に言った。
「そうです。ちなみにフィル以外の妖精も来ていますよ」
ブライアンが窓を開けるとフィルが庭に向かって何か言った。すると20体ほどの妖精が姿を現した。彼らは屋敷の中にある木々の周りを飛び回っている。それを見て再びびっくりする家族。
飛び回っている妖精達を見て母親のマリアは驚いた表情のまま
「妖精は幸せを持ってくるって言われているわ。ブライアンは妖精さんに認められたのね」
『そう。ブライアンは妖精が初めて認めた人間だよ』
妖精の言葉はブライアンしか分からないので彼がフィルの言葉を訳して皆に伝える。
「食事はいいのか?何が好きなんだろう」
兄のジャックが聞いてきた。
『ブライアンの魔力があれば食べなくても大丈夫。でも森にある赤い実は妖精の大好物だよ』
「赤い実、ペリカの実の事かしら」
フィルの言葉を伝えるとマリアがお手伝いさんに頼んで皿にペリカの実を乗せて持ってきたのを見たフィル。
『これよ、これ』
今にも皿に飛び掛からんとしようとしているフィルを止めると
「ペリカの実の様です」
「これならいくらでもあるわよ。庭のテーブルの上に置くので他の妖精さん達にも食べて貰いましょう」
居間の扉を開けて庭にあるテーブルの上にお皿に盛ったペリカの実を置くと妖精達が集まってきた。よく見るとフィルも1つ掴むと美味しそうに食べている。
「まだ信じられないが、間違いなく妖精達だな」
ワーゲンが目の前でペリカの実を食べている妖精達を見て言った。
「ブライアンのおかげで見ることができない妖精を見られてるのね」
母親のマリアが言った。家族以外でもこの屋敷で働いているお手伝いさん達も庭にいる妖精達に見入っている。
フィルじゃない他の妖精がペリカの実を両手で掴むとブライアンの所に持ってきて両手を伸ばして差し出してきた。
『♪』
どうぞと差し出してくる仕草が可愛い。
「うん、美味しいよ」
受け取って一口食べてそういうと持ってきた妖精が嬉しそうな表情になる。
「妖精に好かれているな」
「そうかもね」
ジャックの言葉に答えるブライアン。
フィルが言った通り翌日森に行ったブライアンは森の中で魔法を使ってびっくりする。昨日までと威力が全然違うのだしかも魔法を連続して使っても魔力が減ったという感じがしない。
『魔法の威力も魔力量も凄くなっているでしょ?』
どや顔のフィル。朝ブライアンが森に魔法の鍛錬に行くと言うと当然の様にブライアンの肩に乗って付いてきた。いつもの場所から大きな木に風の魔法を撃つと昨日までとは違って幹に大きな傷がついた。
『魔法の鍛錬を続ければもっと威力が増し、魔力量もずっと増えるわよ』
「それは鍛錬のし甲斐があるな」
真面目に鍛錬を続けるブライアン。毎日森に行っては魔法の鍛錬を続けていた。
妖精を肩に乗せているブライアンはジャスパーの街では有名になっていった。特に自慢した訳ではないが特に隠している訳でもない。たまに街に出るときも肩に妖精を乗せているブライアン。
市民は最初は何かと見ていたが市民の1人が恐る恐る聞いてきた。
「肩に乗っておるのは妖精に見えるのですがそうなのでしょうか?」
「そう。妖精さんだよ。名前はフィル」
ブライアンが答えると、
『フィルだよ。よろしく!』
そう言って小さな手を振るフィル。サービス精神旺盛だ。
「よろしくと言ってる」
と言ったやり取りがありそれからは妖精を肩に乗せたブライアンという名前は急速に広まっていった。
妖精を従えているという言い方をしている市民もいたがブライアンはフィルとは対等のパートナーと言った認識だ。フィルもその関係の方が良いと言う。
妖精は魔力を体内に取り込むと言いながらそれとは別に果実の実を食べるのが大好きだ。特にペリカの実が大好物だと分かると、屋敷で働いている人たちは森からペリカの実を取ってきてはフィルをはじめ全員に渡している。庭にはそのその木も植えた。
ブライアンにだけには時々妖精達が手に持って食べろと勧めてくれた。フィルによると妖精から受け取った果実の実は普通に食べるよりも妖精の加護がついているので能力アップになるらしい。
「ありがたい話だな。でもどの能力かは教えてくれないんだよな」
今ももらった果実の実を口に運んだブライアンが肩に乗っているフィルにいう。
『だーかーら。お楽しみって言ってるでしょ?大丈夫よブライアンに取って決して悪いことじゃないから』
「そればっかりだよ」
『いいじゃない。楽しみは後にとっておいておけっていうでしょ』
「いろんな言葉を知っているんだな」
妖精が家に来てからもブライアンの生活は大きな変化は無かった。最初こそ驚いていた家族だがそれが数日続くと慣れたのか普段の生活に戻っている。母親のマリアだけは毎日ブライアンの肩に乗っているフィルの近くに来ては
「今日も元気そうね」
とか
「何か必要なものがあるかどうか聞いて」
と気にかけてくれていた。
『お母さんって本当にいい人ね』
「母上だけじゃないぞ。父上も兄上もいい人だよ」
『わかってるって。ブライアンって本当に家族思いなんだから』
「当然だろう?」
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