第6話:騎士となる公女Ⅱ
フレイとカリムは互いに剣を構える。
二人の準備が整ったことを確認したルアベルトは模擬戦開始の合図をする。
「始め!」
合図と共にカリムが正面からフレイとの距離を詰めた。
一方でフレイは冷静にカリムに初手を譲り、防御の姿勢で剣を構え直す。
正真正銘の正面から剣を振るうカリムに、正面からカリムの剣を受け止めるフレイ。
甲高い金属音が響き渡る。
両者引かず火花を散らす鍔迫り合いを行う。
鍔迫り合いは純粋な力や技量によって展開は決まる。
体格差がある中、フレイが正面から受けるメリットは無かったのだ。
それでもフレイが正面から剣を受ける訳はきっと、カリムを知りたという純粋な気持ちからだろう。
力押しされそうになるフレイは鍔迫り合いをすぐにやめて、剣を捌きフレイが鋭く素早い連撃を繰り出す。
その連撃は間一髪のところで剣で防がれてしまった。
それどころからカリムからの反撃の一振りがフレイを襲ってきた。
フレイはもう一度彼の剣を受け止める。
その重さはフレイの身体では到底耐えることが難しい剣だった。
けれどフレイはそんな重さすら忘れてしまいそうな程、カリムの瞳に宿る熱意を感じたのだ。
貴方のは剣はまるで・・・・・・まるで、一人のための剣だ。
騎士というのは多くの民を守るために己の命を賭して戦うのだ。
しかしカリムの剣はただ一人を守る為の強固たる意志と強さを感じさせる。
その純粋な思いが彼の熱意として瞳に宿り、フレイは思わず「綺麗」と溢してしまう。
フレイはカリムに押されている事を思い出し、すぐにカリムの剣を捌き、距離を取った。
息を整え、乱れ始めた集中力を取り戻す。
時間稼ぎと同時に疑問をカリムに問いかける。
「カリム、貴方の剣は一人の子を守る為にあるのですね?」
「・・・・・・そうです」
カリムは静かに頷いた。
「なぜ、その子のためだけに剣を振るうのですか?」
フレイは気になっているのだ。彼をここまで奮い立たせている者が一体誰なのか。
「僕よりも何十倍も強いからです」
フレイは疑問に思った。
カリムより何十倍も強いなら守るために剣を磨く必要はないのでは、と。
「強いくせに、自分を犠牲にする。民を守るためならどんな傷も負う。だから僕は守るための剣を磨き、十二士になるのです」
その瞬間、フレイはカリムの雰囲気が急激に変化した事を肌で感じ取る。
それと同時にカリムの背後に
雰囲気が変わった。それに背後に人影のような靄が・・・・・・私の幻覚か?
自分の目を疑うほどの超常現象を目の当たりにして臆してしまうフレイ。
しかしフレイはその臆した心も燃やし尽くす程の闘志を抱いた。
これは私に対する挑戦だ。彼はこれ以上私を背後に踏み込ませないつもりでいる。私が背後を取る、それすなわち彼が守りたい人の「死」であるから。
けれど私はその靄を切り、あなたに勝利する。勝利してあなたも私が全ての人を守る国の子である事を証明する。
そう心の中で意気込んだフレイの闘志は爆発を起こし、魔力の質を高め、風を纏った。
フレイに負けずカリムも魔力の質を高め、身体能力の向上と剣に冷気を纏わせた。
「二人とも魔法の使用を許可する。ただし半端な魔法は許さない。やるなら互いに本気をぶつけろ」
何を思ったのかルアベルトは二人のブレーキのネジを取り外した。
フレイを纏う風は彼女の全力の質力に応え、彼女の髪を巻き上げる程の強風と強化を施し、一方のカリムも冷気を纏わせていた剣を完全に凍てつかせ、その剣を握る彼の手まで侵食し、青白く霜が出来ていた。
模擬戦は仕切り直しで再開した。
氷属性魔法「
詠唱を唱えるカリムの背後に3本の氷の剣が出来上がり、彼の制御の元、フレイに剣先を向けて勢いよく放たれた。
風属性魔法・魔法スキル・
無詠唱で唱えられた魔法はカリムが放った氷の剣を風の斬撃によって粉々に破壊された。
仕切り直しから先手を取られてしまったフレイだが、機会を逃さず、すぐさま前方に跳躍する。
そして剣を肘から引いて溜め込み、自身の
カリムは迫る剣に対して、避ける事なくその剣を捌いた。
氷属性魔法「
完全に攻めの体制であるフレイに対してカリムはフレイに距離を取らせるためにも氷の針山をフレイとカリムの間に生やす。
風属性魔法「風圧剣!」
そう詠唱したフレイは迫る氷の針山を風を纏う剣で一突きした。剣と衝突した針山は勿論、その後に続いて迫る針山までも衝撃はで粉々にした。
二人の間には氷の破片と冷気によって両者視界が遮られている。
フレイは風を巻き起こして冷気の霧を掻き消した。
両者譲らぬ本気の衝突。互いに剣を深く構え、掻き乱れる事ない集中力を維持している。
再度仕切り直し、次に初動を行ったのはフレイだった。
全力でカリムとの距離を詰めると同時に風を纏う剣にありったけの魔力を込めて鮮緑に輝かせる。
氷属性魔法「氷剣・乱舞!」
またしてもカリムの背後に氷の剣が浮かび上がる。しかし今回は魔力の質力を上げたのだろう、先よりも強固で鋭利な氷の剣が5本も生成された。
その内の2本を迫るフレイに放つ。
風属性魔法・魔法スキル・風斬
風の斬撃を生み出し、氷剣の破壊を試みるフレイ。しかし先よりも氷剣が強固になっている故、傷一つつけることが出来なかった。
風属性魔法「暴風斬」
フレイは詠唱を唱え、2本の氷剣に向かって細剣を振い、斬撃を生み出す。
先の空間を操作した斬撃よりもより鋭利に威力を上げた、剣圧による風の斬撃。
カリムは2本の氷剣が破壊される前に、残り3本の氷剣も剣先をフレイに向けて自身の突撃に合わせて撃ち放つ。
2本の氷剣の破壊を済ませたフレイ。しかしカリムはすでに勝負を決める攻撃体制に入っていた。
そして同時にフレイに反撃の隙を与えないための3本の氷剣が三方向から剣先を向けていた。
完全に囲まれたフレイ。
このまま押し切って、僕が君を守るためにふさわしい人である事を証明する!
そんなカリムの強い意志に答えるように手に握る剣は凍て付き、
風属性魔法「暴風斬圧」
フレイの周囲に領域型、斬撃攻撃が展開された。
その領域に躊躇なく、フレイを串刺しにしようとする氷剣は木っ端微塵になる。
あまりの事態にカリムは驚愕で剣筋にブレが生じた。
それでもフレイよりも余裕があるカリムはすぐに建て直し、白縹に輝く剣を振るった。
そしてフレイは大きく踏み込み鮮緑に輝く剣を突き刺した。
2本の剣が衝突する。二種の魔力が衝突、混合し爆発を引き起こした。
そして数秒後、煙は徐々に晴れ、決着の瞬間をルアベルトが目にして模擬戦終了の合図をした。
剣先が喉元で寸止めされていた。
両者ともに、相手の剣を喉元に突きつけられているのだ。
模擬戦は引き分けで幕を閉じた。
フレイ・レコード 慶田陽山 @yozan-yoshida
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