第4話:炎天竜と公女Ⅱ

轟々と燃え上がる炎に包まれていたフレイ。ほんの数秒で気を失うほどの火傷を負ってこの試合は幕を閉じると目論んでいたイリス。


「私は決して負けない!ここにいる人たちを守りたいから。故に私はこの命果てるまでの永遠、人を守るための全てを欲する!」


フレイはそう宣言し、剣を握り直した。


底を着きかけた魔力量が見る見る上昇していくのをイリスは鳥肌を立てて感じていた。


到底6歳児がするとは思えない、獣を狩る狩人の鋭い眼光がイリスを直視する。


イリスはその様に鼻で笑った。

そしてイリスも剣を握り直して構える。


「来い、全力で」


そう言ったイリスは構えた剣を炎で包む。その剣先に映るのは深呼吸をし終え、魔力を練るフレイ。


そんなフレイの周囲はその影響で風が巻き起こる。

目に見えるほどの暴風。それでいて人を守る優しく温かい風だった。


そして練った魔力が限界値に達したのか、彼女の身体を爆発的に急上昇させ、衝撃波を置き去りにイリスに一直線。


イリスも負けずとフレイに向かって飛び込む。


「はああぁぁぁーー」


神聖な場所である聖堂にて荒い雄叫びを響かせ、爆発的に上昇した身体で目で追えない速度で風を纏う剣を振りかぶるフレイ。

それに対して静かに不適な笑みを浮かべて炎の剣を振りかぶるイリス。


そんな二人の剣が交わる。


二種類の魔法が混合し、間を開けてエネルギー反応を起こして爆発した。

爆風と煙に包まれる聖堂。


数秒後、煙の中に二つの影があるのを全員が目視で確認した。

イリスもフレイもまだ剣を握ったまま立っていた。


しかし先にイリスが頬、腕、脇腹から勢いよく血飛沫を上げた。

特に致命傷にもなり得る脇腹をイリスは手で抑え、止血を行う。


たった一撃でこれほどの傷を負うとは・・・・・・。


イリスは悔しくもフレイの実力を認めざる追えない状態だった。


しかしそんな静寂が広がる中、金属音が聖堂に響き渡った。


イリスは振り返ると先までフレイに握られていた剣が床に落ちていた。

金属音はフレイが剣を落とした音だとイリスは確信する。


そしてフレイは崩れるように膝を床に打ち、うつ伏せに倒れ込んでしまう。

イリスは遠目から気絶したことを確認した。


イリスはフレイの元に歩み寄りながら自身の体を修血炎で包み、それからフレイを抱え込み、一緒に炎に包まれる。


炎に包まれた二人はその炎の効果で外傷が癒えていく。


二人が包む炎は消え、イリスが周囲を見渡すと唖然とする聖堂内。


それを見てイリスは大きく息を吸って叫ぶ。


「皆の者、良く聴け!」


全員がその声に鳥肌を立てた。


「この国は間違いなく更なる進化を遂げる。それはきっと彼女の実現させる。圧倒的強者を前に怖気る事なく、果敢に戦い、我に傷まで付けた。彼女が掲げた決意は皆の胸に響いたはずだ。あの言葉に紛れもない本心であり、確固たるものである事を。彼女はきっとそれを実現するために進み続ける」


イリスはそう言いながら気絶し、寝息を立てるフレイの寝顔を見る。


「しかし有言実行は彼女一人で行うものではない。彼女は強者だ。これからもずっと。一人の強者は多くの弱者を守る。これは当然の義務だが逆も然りだ。多くの弱者は一人の強者を守る。鍵となる彼女。その鍵を開けるのは君たちだ」


イリスは今も唖然とする人たちに向かって宣言する。


「──今ここに、フレイ・イリスをイリス国次期王女と成る事を宣言する!」


その宣言に聖堂内は急に騒然とし始める。

そんな事を気にもせずイリスは続けて口をひらく。


「彼女を支えなさい。弱者である事を恥じる事ない。一人の強者を支える誇りある弱者でありなさい。さすれば彼女の言葉は必ず実現する。我からの言葉は以上だ」


こうして炎天竜・イリスのは挨拶の言葉は締められた。


少しの間を開けて一人の拍手が聖堂内に響き渡る。それはリーナスの拍手だった。それに続けて次々と拍手をする人は増え、聖堂内に盛大な拍手が見舞われた。


イリスはその拍手を背にフレイを両親であるフィーロスとシーラに渡す。


寝ているフレイを強く抱きしめ涙するシーラ。そんな二人をさらに大き被るように抱くフィーロス。


「本当に、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


シーラとフィーロスはイリスに頭を下げて言った。


「気にするな。子供は元気なくらいが丁度いい。それよりも我はお主らが立派な親をやっており安心した。良い子を授かったな。これから忙しなく成長していくぞ」


「・・・・・・はい」

「本当にありがとうございます」


シーラとフィーロスがそう返事をしてイリスは聖堂を出ていき、竜の姿に戻ってどこかに飛翔して行った。



──深い暗闇に沈んでいたフレイに誰かが呼んでいる事に気が付く。


暗闇の中でフレイは見上げる。そこには一筋の光が差し込んでいた。

フレイは重い鉛のような体を動かしてその光に手を伸ばす。


徐々に光は強くなり、その眩しさにフレイは思わず目を閉じてしまう。


そしてゆっくりと瞼を開く。


見慣れた天井がそこあり、状況すら理解できず、周囲を見渡した。


「フレイ!」


フレイの意識が戻った事にいち早く気がついた母親のシーラ。

フレイはシーラが握っている手が自分の手であることにすぐには気付けなかった。


「お母様・・・・・・」


フレイはそうシーラを呼びながら体を起こした。

シーラはそっとフレイの背中を支える。


「ここは、私の部屋?」


「そうよ、貴女がイリス様に勝負を申し込んだのは覚えてる?」


シーラの質問にフレイは頷きながら握られている手とは反対の手に何か物を握っている事に気が付いた。


それは風属性の魔法石だった。


そしてそれを見てフレイは全てを思い出した。


「お母様、私は負けてしまったのですか?」


「えぇ、そうよ。でも貴女の力を認めていたわ」


フレイは相手が炎天竜・イリスとはいえど負けた事に酷い悔しさに苛まれた。


「フレイ様、おめでとうございます」


唐突にリーナスの言葉にフレイは唖然とする。


「え?」


「イリス様が、貴女をイリス国次期王女となる事をお認めになりました」


「次期王女?」


「イリス様は貴女の力と思いを認めたのです。試合には負けてしまいましたが勝負では勝ったのです」


「そっか……全部負けてないんだ」


完全敗北ではないことにフレイは微笑みをこぼした。


「でも!」


シーラが急に大きな声を出す。


「大事な式の途中で、それもイリス様に模擬試合を申し込むなど、馬鹿なのですか?」


急に始まった説教にフレイは思わず正座をして大人しく叱られる事を選択した。

この場から逃げるのは不調というのもあるが相手が悪いすぎるからだ。


「本当に心配だったんですよ、本当に……」


そう言ってシーラは正座するフレイを抱きしめた。


「もうあんな無理はしないでください。約束ですよ?」


フレイは自分を抱きしめるシーラに腕を回して抱き返しながら返事をする。


「はい……心配を、かけッて、ごめんな゛さ゛い゛」


シーラの母親の温もりに思わず涙するフレイ。

シーラはそんなフレイを強く抱きしめ、頭を優しく撫でた。

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