第41話 恋の切れ目は突然に

 俺は今、最高に気分が良い。

 やりたくも無い事を誰かと一緒にやる必要も無く、我儘な陽キャ共のフォローをしなくてもいい。

 俺の今の仕事はただ校内を見回るだけの簡単な仕事。校内の風紀を乱しているかは個人の判断。校内序列二位は伊達じゃない。

 この権威を使えば、校舎裏でイチャコラしているリア充も、手を繋いでキャッキャウフフしているリア充も、風紀を乱している対象として漏れなく爆破させることが出来る。

 風紀委員って最高だ……。最高にハイって奴だーー!


「ちょっと、松瀬川君? 聞いてる?」

「あ、はい」

「見回りは基本ひとりだけど、松瀬川君は臨時だから途中まで私が同行するからね」

「うすっ」


 笹木先輩からの注意事項を聞いていると、校内放送で文化祭開始が告げられる。


「くれぐれも変な事に風紀委員の名前を使わない事。良い?」


 釘を刺された俺は、素直に頷いた。

 確かにさっき変な事を考えたが、結局そんなことは出来ない。俺はそこまで胆の据わった人間じゃ無いのだ。ぎこちなく話しかけて相手から鬱陶しそうに追い払われるのが目に見えている。


「それじゃあ、まずは三年生の階から行こうか」


 笹木先輩に先導されるように校舎の三階へと向かう。

 まあ、仕事の内容が簡単だとは言え、臨時とは言え、名前を背負っている以上はしっかりと働かないといけない。風紀委員としても、相談委員としても。

 そう自分に言い聞かせてやる気を出させていると、俺たちの背後から声を掛けられた。


「やあ、笹木君」


 見回りを一時中断して背後を振り向くと、そこには風紀委員とは違う腕章を付けた人物が立っていた。


「剣崎君!」


 剣崎 流星。我が高校の誇りある生徒会長様だ。その性格はフレンドリー。しかし内に秘めたカリスマ性によって先導力は群を抜いている。

 父親は大企業の社長で、将来が約束されている誰もが羨むような人間だ。


「見回りは順調?」

「まだ始まったばかりだから何とも言えないよ」

「それもそうだね」


 そう笑い飛ばす彼だったが、俺はすぐに異変に気付く。


「それで、彼は?」

「あー、彼は臨時で入ってくれた松瀬川君。今は要領を覚える為に一緒に回ってるの」

「どうも」

「へぇ~……」


 うん。間違いない。この人は笹木先輩の事が好きだ。

 何故、副会長よりも風紀委員長の方が発言権があるなんて噂が出てくるのか疑問だったが、彼の言動、俺に向けるあからさまな警戒の目。察しの良い人間ならすぐに気付く。

 俺は自分の中で組み立てた推理を確実な物にする為、剣崎先輩にとある質問をする。


「あの……剣崎先輩」

「何?」

「剣崎先輩は長生と仲が良いと聞いたんですけど」

「ん? 内斗の事か? そうだな。お互いの父親が仲が良くてな。それでよく会ってるんだ」

「流石、大企業の社長。横の繋がりも広いんだね」

「笹木君にそう言われると照れるなぁ」


 ここで豆知識を一つ。

 我らが聖騎士、長生 内斗。実は彼は中学の時に母親が再婚し、自主的に転校した亀水、その彼女を追うように転校した。その彼の母親の再婚相手が、国内でも有名な長生グループの社長だった。そして長生父は、同じく大企業の社長である剣崎父とも繋がりがあると言う訳だ。


「そこで質問なんですけど、先輩は次の生徒会長を誰にやって欲しいとかあるんですか?」

「それとこれと何か関係があるのか?」

「いやぁ、普段から仲が良いから譲ったりするのかなって」

「うーん……。それについてはコメントを控えよう。なんだ? 君はこの席を狙っているのか?」

「そりゃあ野心の一つや二つありますよ。生徒会長となれば周りからチヤホヤされるでしょ?」

「うむ……。確かにされるが……あまり気持ちが良いものでは無いよ」

「剣崎先輩程の方なら異性からのアプローチも多いでしょ? それについても?」

「ああ。だってあれは自分と言うよりうちの父親や資産に対してがほとんどだからね。そんなものでは靡かないよ」

「剣崎君も大変なんだね……」

「ま、まあ大した事じゃないよ」


 なるほど。優等生とは言っても高校生だ。普通、周りからチヤホヤされれば多少なりとも図に乗るだろう。だが、ああ言う事を話すと言う事は、既に意中の相手が居るか、ただの人間嫌いかの二択だろう。そして生徒会長と言う役職に就いている以上、後者は除外できる。

 剣崎 流星。想い人は笹木 春華でほぼ決定。まあ、こんな回りくどい事をしなくても、あの態度を見れば一目瞭然か……。

 その後、少しだけ談笑をした後、剣崎先輩とは別れた。


「それじゃあ要領も掴んだことだし、私はここで持ち場に戻るね。ここの校舎は任せたよ。それじゃあ」


 持ち場へと戻って行く笹木先輩にお辞儀をした俺は、腕章を付け直して仕事へと戻った。



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