第4話 亀水 咫夜の向く先は
亀水 咫夜が相談に来た翌日、三好 京子から怒りの鉄拳を食らった俺はその償いとして、放課後に亀水と宿毛の二人と行動するよう言われた。そして現在、俺はその二人と共に近くのショッピングモールにやって来た。
「何故、俺はこんなところに来ているんだ……」
ショッピングモール。それはありとあらゆる種類の陽キャが集まる陽キャの巣窟。洒落た洋服店には、それに何が入るんだと思ってしまうほど小さなバッグを持ち、癖を付けた髪をいじりながら品の無い笑い声を響かせたり、ファッション用語をこれでもかと使いまくる、まるで背油たっぷりのラーメンの様にキャラの濃い二郎系陽キャ。
ゲーセンエリアには、外出して来たオタクを餌に、そいつらが叫ぶと嫌な顔をして自分は常識人ですよアピールをする常人モドキ。
フードコートに出没する、店の店員より味に詳しくそのフードコート内だけなら無双できる箱庭グルメ陽キャ。
映画館の前で、別に興味も無いのに頭良さそうな映画のポスターを眺めて悩む、さながら考える人の彫刻の様にも見えるロダン陽キャ。
店内だけでなく店外でも、それ何の為の奴? みたいな著名活動や何かしらの募金をキャッチかと疑うレベルで迫ってくる正義の陽キャ、陽キャ関所。
これら以外にも多種多様な陽キャが、このショッピングモールという場所に集まってくる。ここに来れば陽キャ図鑑でも作れそうだ。
「松瀬川君、顔色悪いけど……大丈夫?」
「ん? ああ……人混みに酔っただけだ」
「ごめんね、あたしの買い物に付き合わせちゃって」
「気にする必要は無いわ、亀水さん。その男は気を利かせる振りをして帰るような男よ。遠慮したらそこに漬け込まれるわよ」
「相変わらず口が悪いな。お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「詐欺師」
「迷いが無いな……」
まあ確かに昨日は結果的に嘘をついたことになったが、帰ろうとして帰ったんじゃないぞ? ホントだぞ?
「ま、まあまあ。あたしは松瀬川君が一緒に来てくれただけでも嬉しいから」
「そういや、なんで俺が居ないと駄目なんだ?」
「あれ? 言って無かったっけ?」
「聞いてないなぁ」
「彼女、好きな人にプレゼントを贈りたいそうよ」
「それで男の子の好みとか分かんないから、松瀬川君の意見を聞きたくて……」
「なるほど、それで。だが期待はするなよ? 何せボッチだからな、俺。世の中の流行りとかに疎いからな」
「そこ自慢げに話すとこじゃないと思うんだけど……」
そんなことを話している内に洒落た洋服店に着いた。二人があれこれと探している間、特に力になれそうになかった俺は目的も無くぶらぶらと店内を眺めて回った。途中、店員が話しかけてきたが、見ているだけだと言って追い返した。何故、洒落た服屋の店員は来た客すべてに声を掛けるのだろうか。その店員を追い払うのに一苦労している俺なんかには絶対に出来ないことだ。
独りになっていた俺だが、周りの環境にあてられてか少し疎外感を感じたので、選んでいる二人のもとに帰ることにした。
「なあ、やっぱり俺が居ると、色々と不味くないか?」
「何で?」
「このショッピングモールは、ここ周辺の商業施設の中でも一番規模がでかい。それ故に人が大勢集まる。俺たちのような学生もな」
「即ちあなたが言いたいことは、人気者である彼女のプライデートにあなたという男が居ると学校で噂になるということね?」
「そういうこと」
「なら心配するだけ損でしょう。だってあなたみたいな、くだらない人間が傍に居ても問題になる訳ないじゃない」
「ひでぇな、おい」
「貶しているわけでは無いわ。むしろそれが盾になる。例え噂になってもあなたという人間と相談委員という立場があれば、大した問題にはならないってことよ」
「それは喜んで良いんですかね……」
すると亀水 咫夜が一着の服を取り出し、俺にどうかと尋ねてきた。
「どう?」
「どうって……良いんじゃねぇの? 知らんけど」
「むう。適当だなぁ」
「言ったろ、期待はするなって。それにお前の好きな奴がどんな人間か知らないしな」
「あ、そっか……。えっとね、なんとなく服を送りたくなるような人……かな……」
亀水 咫夜は少し恥ずかしそうに答えた。
何だ? 服を送りたくなるような人って……。見た目がお洒落だという事か? それだったら納得できる。ファッションに気を配っている人間なら、お洒落な服を送るのも良いかもしれない。
お洒落な人間か……。亀水 咫夜の周りにそんな奴いるか?
「亀水さん。これなんてどう?」
そう言って宿毛 鈴が持って来たのはパステルカラーのTシャツだった。これから来る梅雨の時期や夏には色合い的にも良いかもしれない。知らんけど。
「これならそこの木偶の坊にも似合うんじゃないかしら?」
「人形にいくら着飾ってもその人形が綺麗になる訳じゃないぞ?」
「そうね。だったら今のあなたが地味に見えるのも服のせいじゃ無くて、あなた自身から地味さが滲み出ているってことなのね。それならもう一層の事、その着ている服を脱いだらどう? むしろ煌びやかになるんじゃないかしら?」
「うん、確かに煌びやかになるね。主に俺の大事な部分が。なんならその後、警察に連行されて煌びやかでは無い人生を送ることになるね」
「別に良いじゃない。もう既にあなたの人生は煌びやかさの欠片も無いんだから、今更でしょ?」
「諦めるの早すぎだろ……。 俺、人間として生まれてまだ二十年も経ってないんですけど?」
「知ってる? 世の中の人間の大半は、最初の二十数年で人生の半分を過ごしたと感じるらしいわよ? そう考えるとあなたの人生のほとんどは無駄だってことよ。諦めなさい」
「世の中、世知辛いんだな。でも俺はまだまだ生きるぞ?」
「そうなの? しぶといのね。殺虫剤でも撒いておこうかしら」
「俺はゴキブリじゃねぇ」
いやまあ、確かに俺の普段着は黒系で服装を統一しているからゴキブリに見えなくも無いとは思うが、それでも殺虫剤はひでぇな……。
まあそれは置いておいて、亀水 咫夜の好きな人が先ほどの条件だけでは判別しづらい。今更聞くのも何だか失礼な感じだ。
なので俺は彼女から相手の更なる特徴を聞き出し、自分なりに推測しようと考えた。決して探偵を気取っている訳では無い。普段から人間観察をしている俺なら簡単な事だろう。
「なあ。こういうのって単純に相手が好きそうな物をあげれば良いだけじゃないのか?」
「好きな物って言われても……。そういうの悟られないようにしてるってゆーか……分かりづらいってゆーか……」
「そうか。ならそいつは普段、どんな感じな奴なんだ?」
「えっと……楽しそう!」
「楽しそう……。他には?」
「えっと……、周りをよく見ていて、他人のことが分かる人で、他人の為に自分を犠牲に出来る優しい人……かな?」
うーん……。そんな完璧超人のような人間といえば―――。
「松瀬川君。移動するわよ?」
「ん? ああ、今行くよ」
亀水 咫夜から提示されたヒントに対して考え込んでいた俺は、宿毛 鈴の声でその思考を停止してしまった。そのまま答えを導き出したかったと後悔したが、この時の俺は知らなかった。俺が考える必要は無く、答えは自ら歩いて来るのだということを……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます