第20話 なんか引っかかるな
季節は巡り、冬になった。
ひよりは声を失ったままだ。〈ロックミュージック研究会〉の会長になったというのに、ひよりの声が元に戻る気配は全くなかった。
なぜなのか、その理由は見当も付かない。〈ロックミュージック研究会〉の会長は、どんな願いでも叶えることができるのではなかったのか。それとも、会長になる以外にも何か満たすべき条件が必要で、俺はそれを満たしていないということなのだろうか。
もしかしたら、〈ロックミュージック研究会〉の会長には不思議な力なんてないのかもしれない。そんなことすら思い始める。
だいたい、『どんな願いでも叶えることができる』なんてことあるはずないのだ。あるはずがないのだから、ただ単に〈ロックミュージック研究会〉の会長になったというだけで、ひよりの声が元に戻るわけもない。
普通に考えたらそれだけのことなのだ。けれど、俺は〈ロックミュージック研究会〉の会長に宿るという力を信じたかった。その力そのものもそうだが、アオの言葉を信じたかった。
相変わらず医者は治療らしい治療を施していないし、ひよりは元気をなくしたままだ。いや、日に日に元気をなくしていっている。もう、昔の天真爛漫なひよりの面影はほとんどなくなってしまった。そんなひよりを見ているのは辛かった。
どうしようもなくなった俺は、そんなやり場のない怒りと疑問を
悠治は俺の不満と疑問をひとしきり聞いた後でゆっくりと口を開いた。
「〈ロックミュージック研究会〉には、まだ解明できてない謎があるってことなのかもしれないな」
悠治は相変わらず悠治だった。〈ロックミュージック研究会〉の会長に不思議な力が宿るなんてことがそもそもないのではないか。そんな風には微塵も考えない。真正面から噂を信じている。
悠治のことを何も知らない人が見たら、ふざけていると思うかもしれないが、悠治は本気だ。都市伝説の存在を心の底から信じるスタンスはブレることがない。
そんな悠治を今は心強く感じる。
「どんな願いがでも叶うはずなんだよな? 俺はひよりの声を元に戻したい。ずっとそう願ってるんだ。それなのに──。もう半年だぞ?」
「分かってる。とりあえず、深呼吸でもして落ち着け。そしたら、一緒に状況を整理しよう」
ともすれば取り乱しそうになる俺を、悠治は冷静に
悠治の言うとおりに深呼吸をして気分を落ち着ける。
「よし、落ち着いたな? それじゃあ、状況を整理していこう。〈ロックミュージック研究会〉の会長になったこの半年で変わったことは何かないか?」
「ない……と思う。強いて言えば、ひよりの元気がなくなっていってることくらいか」
「ふむ。お前は今、〈ロックミュージック研究会〉の会長なわけだが、毎日部室で何をしてるんだ? 何か活動はしているのか? 一応、部室には行ってるんだろ?」
何をしているかと問われると、実際のところ何かしていると言えるようなことが何もない。
ほぼ毎日部室に行ってはいるが、することといえば本を読んだり、翌日の授業の予習をしたり、ダラダラとスマホで動画を見たり。アオがいる日はアオと話をしたり、アオの歌を聴いたり。たまにギターを弾いたり。そんな風にして過ごしている。
そうやって二人きりで過ごす時間が増えたから、アオとはかなり打ち解けた。
「アオって子は、毎日部室に来るわけじゃないのか?」
悠治はアオの話題に食いついた。
「あぁ。来たり来なかったり。まぁ、うちの生徒じゃないからな」
「〈ロックミュージック研究会〉の噂について何か話したりはしないのか? アオって子は、〈ロックミュージック研究会〉の会長になれば、どんな願いも叶えることができるって言ったんだろ?」
「そうだけど、あれ以来はなにも。あの日以来、〈ロックミュージック研究会〉の噂については話してない」
アオの方からそのことを話題に出すことはなかったし、俺の方からも訊ねることはなかった。なんとなく訊ねづらかった。
「なるほど。なんか引っかかるな。お前、今日も部室に行くんだよな? 俺もついて行っていいか?」
悠治がこんなことを言うのは、〈ロックミュージック研究会〉に入って以来、初めてのことだった。〈ロックミュージック研究会〉の噂には大いに興味を持つ悠治だったが、〈ロックミュージック研究会〉そのものにはあまり興味がないようだった。
もっとも、それは俺も大差ない。願いが叶って、無事ひよりの声が元に戻ったらお役御免とばかりに退部するつもりでいる。
「珍しいな。別に来てもいいけど、何もない部室だから、することもないぞ? それに今日アオがいるとも限らないし」
「構わない。でも、もしいたら俺からも訊いてみたいことがある。それ以前に確かめたいこともあるしな」
「確かめたいこと? なんだよ、それ」
「それはとりあえず今のところは秘密だ」
悠治は何やら意味深に言って一人頷いていた。
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