第106話 女王、勝利者になる

 決戦に惨敗したフェーゼノン王国に最早抵抗する力は残っていなかった。私はホムンクルス達と合流し、意気揚々と王都へ入城する。残党狩りはほぼ終了している。あちらこちらにウィステリア王国の旗が掲げられている。基本的に軍人以外は虐げられていたため、王都に住んでいた人々ですら私たちを解放者として歓迎してくれている。

 そんな中私とホムンクルス達は王宮の奥へと足を運ぶ。唯一まだ誰も入れない場所があるのだ。そこはロジーレすらも破れない結界が張られている扉の中だった。王宮の中というより何かを祭っている神殿のような雰囲気の場所のようだ。ロールアンクスを祭っていたユリエナスの騎士団の地下神殿に形は似ているが、醸し出されている雰囲気は全く逆で禍々しい。

 その場所こそフェーゼノン王国の国王の居る場所。最終決戦の場だ。此処に入るには結界を破る力ではなく資格がいるのだ。そしてその資格を持つ者は私だけだった。私だけがこの扉を開ける事ができ、私とその同行者だけがこの結界を潜り抜ける事ができる。

 まあ、要するにラスボスの居る場所だ。来るだけなら最初から来ることが出来たのだが、フェーゼノン王国が崩壊しないことには、トゥルーエンドの条件が揃わないので仕方がない。


「女王陛下。申し訳ございませぬ。どうしても結界を解除できませんのじゃ。この向こうに国王が居はずですがのう」


 ロジーレが申し訳無さそうに頭を下げてくる


「大丈夫ですよ。覚悟して来ましたから」


 私は決意を込めた声で答える。


「ああ、なんというか、それは見ただけで分かりますがのう……」


 今回は最終決戦に相応しく私は古代重騎士の鎧の身を固めている。私固有の特技スキップを使って戦闘を回避するつもりではあるが念のためだ。ホムンクルス達を連れてきているのもそうである。


「じゃあ、行きましょうか」


 そう言って私は扉を開ける。


 扉の中は柱にロウソクの光がわずかに灯るだけの薄暗い部屋だった。中央に祭壇らしきものが有り、そこに黒い炎が燃えていた。その前に男が跪いている。私達が近づくと男はゆっくり立ち上がり、こちらの方を向く。


「まさか儂の代でフェーゼノン王国が終わるとはな。だが、ただでは終わらん。貴様らの命を我が主ローディザイド様に捧げ、フェーゼノン王国再起を願うとしよう」


 国王は横に置いていた巨大な黒い戦斧を持ち上げ、私達に襲ってくる。


(スキップ)


 私は心の中で頭に浮かべたコマンドを押す。するとその瞬間国王は血だらけになり、戦斧を杖代わりにして立っていた。次のイベントシーンに移ったのである。この技能は固有の勝利イベントシーンが有る敵にしか使えないので、使いどころは限られるが、プログラマーにお願いして特別に作って貰っただけの価値はあった。ちなみに、ダークムーンの世界では敗北=死でオープニングに戻るだけなので、敗北イベントシーンというのはない。


「ふふ、さすがに王国を滅ぼしただけは有る。儂の力では及ばぬか。だが終わりではないぞ」


 国王の身体が黒く変色し、膨れ上がり、背中から触手が生え、頭にはねじくれた角が生え、口は大きく裂けもはや人間の顔とは思えなくなる。


(スキップ)


 私は又次のシーンに飛ばす。国王は血だらけで倒れている。


「ぐふっ、これでも勝てぬか……我が主ローディザイド様申し訳ありませぬ。願わくばこの者達に死を……」


 そう言い残して国王はこと切れた。そしてしばらくすると、黒く燃えている炎の中から声がする。


「くくくっ、まさか我が力を分け与えたネルジャストを倒すものが現れようとはな。どうだ、ネルジャストに代わり我の配下にならぬか。我は罰を与えるだけの、ロナゴートは違う。貢物に見合った恵みを与えよう」


 邪神ローディザイドの声だ。


「嫌よ」


 当然私は即答する。


「愚かな。その選択を、身をもって知るが良い」


 炎が大きく燃え上がり、次に段々と人の形になり、固形化する。そして黒く燃える巨人の様な姿になる。


(スキップ)


 再度、次のシーンに飛ばす。巨人は小さく人間大になり、炎も消え去ろうとしている。


「ふっ、ここで我を殺そうとも無駄な事。人の世から憎しみや妬みなど無くすことはできぬ。我は必ず復活する。その時は貴様の子孫を操り、この世界を終わらない地獄へ変えてやろう。くくくっ、ハハハハハ」


 そう言って、消え去ろうとする邪神ローディザイド。このまま放っておけば取り合えず世界が救われるトゥルーエンドで終わるが、私の人生は終わらないし、子孫をそんな目に合わせたくはない。


「それは困るのよね」


 私は慌てて試験管を取り出し、消えかけたローディザイドの一部を切り取り試験官の中に入れる。


「ん?何の真似だ?」


 身体が薄れていくのが止まる。ローディザイドは最後の力を振り絞って私に答えを求めているようだ


「うーん。別に話す必要は無いんだけど、死にかけているのに聞くその根性に免じて教えてあげる。貴方のホムンクルスを作るのよ。そして私に忠誠を捧げてもらうわ。確かに貴方の言う通り人間から憎しみや妬みはなくならない、でもそれを集めるのは貴方のホムンクルス。本物のあなたはもう用なしになるの」


 私はにっこりと笑う。フルフェイスヘルメットなので見えているかどうかは分からないけど。


「そんな馬鹿な。そんな事が出来るはずがない!ま、まさか、貴様は、いや貴方様は……このまま消えるのは嫌だ。助け……」


「最後に命乞いをするなんてなんて無様な邪神なのかしら。フフフ、アハハハ」


 フルフェイスヘルメットなので周りを気にすることなく、私は大笑いし、僅かに残った小さな黒い炎を踏み砕いた。

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