第103話 女公爵、女王になる
さて、思わず王国最強の戦闘集団が消えた事で、戦略的にはかなりやり易くなった。中央軍はエナによる、援軍と称して、戦力を各地に逐次投入させ、間引きしたこと、オーゼ達による殺害、王子の派閥間の争い、給与の未払いによる離反などで、既に20万以下にまで減っている。本来ならば、各地での反乱を抑える抑止力としては足りない数だが、領民の数が減った事で何とかなっているという感じだ。相変わらず王太子は決まらない。国王との連携ももちろんとれていない。国王、各王子、それぞれの動員兵力は各5千が良い所だろう。
周辺諸国の貴族はもう絞っても搾りかすも出ない。そろそろ潮時と言う奴だろう。私は北部の雪が解けるのを待ち、王領への進軍を決めた。
城のバルコニーで私は集まった兵士、そして民衆に語りかける。
「ウィステリア領の皆さん。あなた方は王家の遣わしたバモガンにより、2年目まで苦難を味わいました。自らの苦しみだけでなく、家族や友人を無実の罪で、又は重税による飢えや病で、失った人々も多いでしょう。私はその苦しみから解放すべく努力してきました。その成果は皆様が感じられているのではないでしょうか。ですが、ウィステリア以外の地域の民は未だに王家やそれに与する貴族に虐げられています。私が即位する前の苦しみを思い出してください。その惨劇がいまだに行われているのです。ウィステリアの民よ。今こそ我らがこの王国の民を救う時なのです。そしてこれを聞いているウィステリア領以外の苦しんでる民よ。今こそ立ち上がる時なのです。このままでは貴族に全てを奪われるだけの人生。貴方の子供も同じ人生を歩ませますか。我がウィステリア公爵家はあなた方を支援します。ここに宣言しましょう。我がウィステリア公爵家はフェーゼノン王国より独立し、ウィステリア王国となります。そして私、セシリア・エル・ウィステリアの名において、フェーゼノン王国に正々堂々宣戦布告をいたします。我々にやましい事など一つもありません。正義は我らにあるのです。さあ、猛々しい我が軍の兵よ誇りを胸に、フェーゼノン王国の民を悪政から開放しましょう!勤勉なる我が領民よ。フェーゼノン王国は強大です。直接戦わぬとて、あなた方が作るその麦が、その豆が、その服が、その剣が、フェーゼノン王国を倒す力となるのです。一丸となり悪しきフェーゼノン王国を打倒しましょう!」
「「「おお!女王陛下万歳!ウィストリア王国に勝利を!」」」
兵士が声を出して叫んでいるせいか、2周年記念の時よりも熱狂しているように感じる。ちなみにこれは南部だけでなく、商人を通じて、ほぼフェーゼノン王国全土で放送されている。ちょっとは士気が上がっただろうか。精神論というなかれ、戦闘において士気は重要なものだ。もちろんだからといってそれに頼る気はない。装備、兵站全てが重要なのだ。
「お見事な演説でした。女王陛下」
そうやって頭を下げるのは、後に控えていた騎士団長のキザラートだ。だが素直に褒めているというには少し言い方に棘があった。
「嫌味ですか。騎士団長殿?」
「申し訳ございません。嫌味などではないのですが、事前にフェーゼノン王国軍や、それに与する貴族を散々弱らせておいて、やましいことは一つもないというのがちょっと気になりまして……」
キザラートは言いにくそうに話す。
「あら?何かやましい事でもしたかしら?」
私はとんと心当たりが無かったので聞いてみる。分からない事はすぐに聞くのが一番だ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、ともいうし、何と言っても異世界だ、常識が違っていてもおかしくない。
「戦いの前に貴族達を借金漬けにして、更に戦争させて疲弊させてますよね」
「それはそうでしょう。そのまま戦ったらこちらの被害が大きくなるもの」
私にとっては当たり前の事だが、キザラートは違うらしい。まあ、剣での戦いではなかったわね。
「内乱の準備も既にしてますよね」
「それも当たり前だとおもいますが。準備も無しじゃあ、他の国の民も蜂起しにくいし、困るでしょう」
私はキザラートの真意が分からず、コテリと可愛らしく首をかしげる。
「ええっと。じゃあ、最後に我々騎士団の出番は有るんですかね」
「基本的にありませんよ。あなた方は私を守る最後の砦ではないですか。そんな事になる前に勝利を決めます。ですが万が一という事もありますから気をぬかないでくださいね」
「勝敗は揺るがないと」
「当たり前ではありませんか。私は戦闘狂ではありませんよ。寧ろ戦闘は嫌いなぐらいです。勝てない勝負に自分から挑むつもりはありません。勝てるとしてもギリギリの戦いなどごめんです。できれば一方的な蹂躙戦か殲滅戦をやりたいと思ってます。そうなるようこれまで準備してきたつもりです」
「……承知いたしました。女王陛下のお心のままに」
ここで不満そうな顔をしていたら、私は騎士団長を更迭していたかもしれない。だが彼はニヤリとふてぶてしく笑った。
「本当に惜しいわぁ。貴方が既婚者でなかったら……」
私の独り言はいささか声が大きかったらしく、彼に聞こえたようだ。
「冗談でもそんな事は言わないでくださいよ。私は妻を愛してますし、子供も3人いるんですよ」
キザラートは心底怯えた表情でそう言った。こんな顔などロールアンクル戦でも見たことはない。そんなに私は怖い事を言ったのだろうか?うーん。まあ、深く考えないでおこう、私はそう思った。
その頃、闇が渦巻く暗闇の中で邪神ローディザイドが光り輝く槍に、お尻から口まで串刺しにされもがいていた。身体を貫かれ、口から槍の先端が突き出し、体中から焦げた煙を出しながらローディザイドはまだ生きていた。
やがて、光の槍が消えるとローディザイドは倒れ込む。
「おのれ!一度ならず二度までも……赦すものか、絶対に見つけ出し、終わらない地獄を味合わせてくれる」
ローディザイドはピクピクと痙攣しながらも怨嗟の言葉を吐いた。
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