第102話 邪悪な企み
暗い部屋の中、祭壇の上で燃える黒い炎に男が跪いていた。フェーゼノン王国の国王ネルジャスト・ナエリア・フェーゼノンである。
「我が主よ。お呼びにより参上いたしました」
「うむ。お前を呼び出したのは他でもない。この地に光の神どもの下僕が現れたようだ」
「はっ。それはあのウィステリアの小娘の事でしょうか?」
「恐らく違う。別の多くの人間の希望を一身に集めるものだ。それも数十万、いや、あれは100万以上の喝采を一度に浴びた様なもの。そのような者など限られておろう。しかもごく最近にそれだけの人数を一度に集める事ができたものだ。ウィステリアの地にいることは確かだ。それだけの人間が集まったのだ。幾らそなたの権力が及ばぬ地だとて、噂ぐらいは聞いておろう」
邪神ローディザイドはこの世界の悪意、主に過去の神人の悪しき魂の力によって生まれたものだ。なので強大な力を持ってはいるが、全知の存在ではない。早い話がTVなる存在を知らず、馬鹿みたいな金をかけ、離れた場所で同時中継をし、それによって同時に喝采が起きるなど思いもよらなかった。
長い年月において勇者、英雄と呼ばれた者は数多あれど、そんな事をした者も居なかった。ちょっとしたマジックアイテムでも貴重な物だ。ましてや遠くを映すマジックアイテムなど、流す画像は限られたものとはいえ、かなり高価なものであるし、数も限られている。数十人規模の農村に配るようなものではない。
そして重要な事は、セシリアが喝采を帯びて光り輝いた瞬間の姿は、希望の塊の槍に貫かれ、見る事が出来なかったのだ。ローディザイドが見たのは、貴族達の憎悪を集め、邪悪そうに笑うセシリアだった。
一方国王にとっては、情報伝達の遅いこの世界では、領都ユリエナスの様子だけならともかく。ウィステリア女公爵の就任2周年記念の、田舎での様子などまだ伝わっていなかった。
「申し訳ございません。ここ最近謎の病で臥せることが多く。私の耳にはまだ届いておりません」
そういう国王の身体は、年相応の身体、つまり以前と比べれば、比較にならないほど急速に老いていた。
「ふむう。悪い事は重なるものよ」
ローディザイドとしては国王を見限り、王太子を新たに国王にしたかったが、今は争っている最中である。自分の力は先ほどいきなり希望の塊の槍に貫かれ、多くの力を失っている。国王に自分の力を分けあたることはためらわれたが、苦渋の決断で自分の力を分け与える。
「よろしい。貴様に我が力の一部を与えよう。期待を裏切るなよ」
黒い炎がぱっと大きくなったと思うと、一部がこくおうの身体に吸い込まれ、国王は急速に元の身体に戻っていく。
「おお!力が。このネルジャスト必ずや我が主のご期待に応えましょう。その者を探し出し死より苦しい拷問を加え、死んだ後は国中にその無残な姿を晒して回りましょう」
「うむ、頼んだぞ」
そう言って、普段より幾分弱々しく気配がきえる。
国王は邪神ローディザイドからの命令を忠実に実行する。それも今や数少ない信用のおける部隊となった王国軍最強と誉れの高い、国王直属の親衛隊に命令を下した。邪神から聞いた情報100万人規模の集会を開いたものが居るかどうか、そしてそれはだれか。
100万人規模の集会など、もしやろうとしたら、国を挙げてのイベントになる。念の為ウィステリア公爵領以外の所も探させる。情報はすぐに集まると思われた。
エナから念話が入る、どうやら緊急の用事の様だ。
(今まで、国王の警備で出てこなかった親衛隊が、密命を帯びて各地に行くみたい。規模は約1万。殆どはウィステリアに行くみたいよ、まあ軍事行動じゃなく少人数でパーティーを組んで行動するみたいだけど。どうする?放っておく?)
(うーん。せっかく子飼いの兵士なんだし、減らしておきましょうか。こちらに来る分は私が対処するから、それ以外はそれぞれの担当者にお願いするわ)
(分かったわ)
私は雷竜デニュゼストの元に向かう。
「これはこれは女公爵閣下。自らおいでになるとは何事かありましたかな」
「ウィステリア領に、間者というには数も多いし、目立つけど。まあ、そういった目的の者が来るの。うまくこちらに誘導するから殺してくれないかしら。バラバラだけど、数千人規模になるらしいから、必要なら援軍を出すわ」
「それは有難い。数千人分の人間の肉など若い者も喜ぼう。これからも良い関係を持ちたいものですな」
雷竜デニュゼストは邪悪な笑みを浮かべる。
「こちらもそのつもりよ。それではよろしく」
そう言って私は去る。
(後はどうしようか、誘導するのはまあ臨機応変に対応するとして、死者の王国のベシマバルにも声を掛けておこうかしら。彼も生きのいい人間が欲しいわよね。ダウンメロスはレベル的には厳しいから、死体だけ渡してあげましょう)
私は人間だけでなく、私の傘下に入ったモンスターにも利益を与えるべく活動した。
王国の誇る親衛隊、出撃したら7つの領土が滅ぶと言われた王国最強の戦闘集団は、人知れず消え去り、国王の元に戻って来たものは殆どいなかった。
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