第101話 女公爵、夜会の支配者となる
昼間は一般大衆に対しての式典だったが、夜は貴族に対しての夜会を行う。ドレスも昼間とは変える。昼間のドレスが白を基調とした、清楚さを演出していたのに比べ、夜のドレスは黒を基調として、妖艶さを演出している。貴族たち相手にはこちらの方が良い。
大広間には南部だけでなく、各地の特産品で作った料理が並び、高級な酒がふるまわれる。もちろん舞踏の時間用に演奏者も待機している。
私は大広間のひな壇の上にある豪華な椅子に腰を降ろす。そしてそのまま大広間に集まった貴族達に挨拶する。本来なら臣下でもない相手に対して失礼な行為だ。実際あからさまに敵意や憎悪を向けてくる相手もいる。だが、ここで上下関係をハッキリさせるのだ。お前達は私と比較すれば陪臣と変わらないのだと。
ここで敵意を集めて意味があるのか。実はない。ただ単に自分が気持ちがいいだけだ。私に借金漬けになった貴族は文句を言いたくても頭が上がらないし、私が気にしてないような貴族はここで騒ぐだけの力がない。それが目に見えるだけでも金を掛けた甲斐がある。
「皆様、今宵は即位2周年記念にお集まりいただき有難うございます。お恥ずかしい事に1周年はこういったパーティーを開く事すらできませんでした。ですがようやく皆様方との交流の場を設けることが出来たのを嬉しく思っています。今宵は私の心ばかりの歓待のしるしとして、できうる限りの料理でおもてなしをさせて頂きます。どうぞ皆様おどりだけでなく、お食事もお楽しみください」
王族にならともかく、主従関係のない貴族に、椅子に座って見下ろされながら、挨拶されるのは高位の貴族にとってさぞ屈辱だろう。だがこの世界の高位の貴族は基本的に屑である。今の私の気持は、ざまぁみろ、文句があるならかかってこいや、である。
予想通りそんな貴族は現れず、私はひな壇に上がってくる貴族から、お祝いの挨拶を受け取る。
そんな中、貴族達が両脇に分かれる。王族の使者がやってきたのだ。
「ウィステリア女公爵閣下、私共は王の代理で来た使者ですが」
使者がひな壇の下まで来て私に言う。要するに椅子から立って、自分達に跪けと言う事だ。誰がするか、ばーか、と内心思うが、私はそれを表情に表わすことなく、ニッコリと微笑んで返答する。
「ええ、存じております。使者殿は代理であり王ではありませんよね。私が頭を垂れるのは王のみ、ここ最近何か勘違いされている方がいらっしゃいましたけれど、ウィステリア公爵家は代々そういう家なのですよ。もしかして使者殿はそんな事も知らずに参られたのですか?それならば大変失礼ながら使者殿のお言葉を聞く気にはなれません、お引き取りを」
使者は言葉に詰まり、顔を真っ赤にする。暫くにらみ合いが続いたが、使者の方が折れた。ひな壇の下から頭を下げ挨拶をしてくる。
「ウィステリア女公爵閣下。就任2周年、誠におめでとうございます」
「ありがとう存じます。王家からの祝福確かにお受け取りしました」
私は天使のように微笑みながらそう返す。私と王からの使者のやり取りに、王族側の人間は落胆し、私に与している側は愉悦を感じているようだった。王族のやり口に辟易している者にとっては、さぞ愉快な見世物だったろう。
ギスギスした緊張が走る中、所々で、おお!これは美味い、との声が上がる。料理を食べた貴族達だ。通常この様な場では配られた酒を飲む程度で、料理にはほとんど口を付けない。だが何人かの貴族が食べ始めたことで、皆の関心が料理に向かう。最初は上品に一口、大抵は目を見開きながらもう一口、そして二口食べたところで、えいままよとばかりに料理を食べ始める。
私は心の中でニヤリと笑う。自分の所の特産品以外を食べたものは、そこのものを欲しがるだろう。我慢ができないのがこの世界の貴族だ。そして特産品が有る貴族も欲しがるものがいれば、他領に売れると喜ぶ。だが、その売買は貴族は直接やらない。アナトリ商会傘下の商会を通じて売買をするしかない。つまり私が儲かる。特産品の無いところは有る所を妬み、場合によっては力で手に入れようとするだろう。戦乱が広がると傭兵の需要が上がる。これも私が儲かる。ちなみに最初に食べ始めた貴族は私に与する貴族で、事前にそうするように打ち合わせた者達だ。つまりさくらである。
デビュタントの時や就任式の時とは違う。この場を支配しているのが私だと実感できる。私はこみ上げる笑いを押さえる事ができず、扇子で顔を隠しニヤリと笑った。
闇の中で穴だらけになった男は荒い息をしていた。だがその穴は毒々しい肉が盛り上がり、段々と塞がれていく。男はようやく立ち上がり、自分をこんな目に合わせた犯人を捜し始める。
「忌々しい、ウィステリアの小娘か……いや違うな。あれにはいまや私に近い波動を感じる」
移された姿は以前に比べ大分ぼやけている。光りを集めているのは確かだが、闇も集めており、何よりも自ら暗い情念を燃やしている。ニヤリと扇子の向こうで笑う姿は、ぼやけているせいか、実物の何倍も邪悪そうに映っていた。
「おのれ、まさか光りの神々の奴らが勇者を送り込んだかもしれぬな。ふむ、下僕に探させるか。うまく取り込めばあの小娘を殺してくれるかもしれぬ。いや、寧ろあの小娘を取り込んだ方が良いか」
男は顎に手を当て邪悪な事を考え始めた。
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