第45話 冒険者?一行

 騎士団長と魔術団長の及び幹部の解任、表向きは解任ではなく特殊作戦をするための一時的な配置替えだが、そのニュースを聞いた時私は思わず小さくガッツポーズをとった。義父が親衛隊の減少と忠誠心の低下に悩み、そして騎士団の掌握をするために、自分の親衛隊を騎士団と魔術師団の幹部に据えたのだ。ハッキリ言って悪手である。そしてこちらにとっては好機だ。

 ユエナ平原の解放など、いくら騎士団、魔術師団の№1〜№3を揃えても成功確率はほぼ皆無と言って良い。それに成功してもらっても困る。あそこは私にとっては貴重なドラゴンの素材の生産地なのだ。


「それでどうやってあの6人を取り込むの?幾ら死地に赴かされたと言っても、それだけじゃマスター個人に忠誠は誓わないと思うけど」


 今日地下室の共同ルームにいるのはテッセラだ。そのテッセラが長い濡れ羽色の黒髪をもてあそびながら私に聞いてくる。


「まあね。一応万に一つの可能性に賭けて、討伐出発前に声を掛けたんだけど、すげなく断られたわ。仕方がないから彼らに選択権を与えたの、義父の命令に従って死ぬか、助けられた命で私個人に忠誠を誓うか。危機に陥った時に私を呼べるマジックアイテムを渡したわ。何とも言えない顔をされたけどね。それを使うかどうかは、それも賭けね。こちらの方は分が悪いとは思ってないけれど。彼らも実際に死に直面すれば、元々は公爵家にゆかりの無い人間の命令で無駄死にするより、直系である私の下に付く方を選ぶと思うのよ。特に私の力を見せつけてやればね。もっとも、アイテムを使う間もなく死んじゃったら元もこうもないんだけど」


「まずは心理的に垣根が低い所を飛び越えさせる。スパイが協力者を作る時の常套手段だったっけ。ロールアンクスを倒すという目的は伏せて置くわけね」


「さっすが、話が早いわ。最初からそんな目的を話してたら、こちらに付きそうも無いもの。忠誠心が高いのは大事だけど、私以外に向いていると困ったものだわ。まあ、そういうわけで、彼らがユエナ平原に着く頃には、私は出動できるよう備えるから、影武者の役目はお願いするわ」


「そもそもの役目が影武者だもの。それは大丈夫よ。うまく行くと良いわね」


「そうね」


 今回の作戦はある程度下準備をしてるとはいえ、運の要素も大きい。後はうまく行くよう祈るしかなかった。


 冒険者?というには些か豪華なメンバーが揃ったパーティーが、ユエナ平原に向かっていた。全員が立派な軍馬に乗っており、服装もそのあたりの雑兵とは一見して違うと分かるものだ。キザラートを始めとする騎士団、魔術師団のトップ集団である。


「なあ、お婆。領主代行が権力をふるうようになってから、領都やその近郊は重税で荒れ、周辺部はモンスターに荒らされてたはすだが、今まで通った村をみる限り、だいぶ復興してたよな。村人はウィステリア公爵令嬢のおかげと言っているが、この間デビュタントを済ませたばかりのご令嬢に、そんな力が有るもんかねえ」


「お婆と言うなと言っておろうが!それはそれとして、これまでの現状をみる限り、単なる噂や願望と、一笑にふせる訳にもいかんのう」


 途中立ち寄った村では直接公爵令嬢に会ったという者も少なくなかった。聞き出した特徴も公爵令嬢と一致している。寂れているのはまだいい方で、廃村があちこちにあると思っていた公爵領周辺部は、人口の増加により逆に賑わっていた。商隊も時々訪れるらしく、硬貨も出回っていた。100人に満たない農村で商人から物を買う時に銀貨を見た時は少し驚いたものだ。

 ただ、話をよく聞くと、商隊の中心は領都から遠く離れた都市タヒネリアを拠点としているらしい。しかも、周辺部と幾つかの他領との交易が主で、一番人口が密集している領都周辺はほとんど行っていないようだ。まるで、公爵家の目を避けているように見える。実際周辺部がこれほど豊かになっているなど、自分の目で見るまでは信じられなかった。

 さらに、村や町の殆どは自警団を持つほどに余裕があり、また時折見かけるスケルトンは村人を襲う事は無く、逆に村に近づくモンスターを倒しているとのこと。自警団は公爵令嬢の親衛隊が訓練をし、スケルトンは公爵令嬢の支配下にあるらしい。

 そしてそういった村は街道沿いだけではなく、街道から外れたところにも多数存在しているそうだ。

 時期的にはデビュタントより随分前から行動している。もしこれが公爵令嬢を語る偽物の仕業であり、公爵家に反乱を企てているならかなり不味い状況だ。領軍も合わせれば表面上は数の優位は公爵軍に有るが、物資の不足により、実際に動かせる数は1000名に満たないだろう。実際にはどうなったものか分かったものじゃない。


 一行はそんな事を話しながら一路東のユエナ平原へと向かっていく。途中街道を外れた辺りからモンスターの出没頻度が高くなるが、そんなところにいるモンスターなど、このパーティーの敵ではなかった。


「ふう。しかし、ユエナ平原に近いとはいえこの辺りでも十分豊かなようじゃのう。モンスターがうようよおるわい」


 そう言うロジーレの近くには、体長2mを超える巨大な狼、ベアウルフの死体が横たわっていた。死体は他にも転がっている。パーティーはベアウルフの集団に襲われたのだ。集団攻撃で凶暴なオーガどころかトロールすらも餌食にするようなモンスターだ。だがその集団をもってしても、前衛の騎士を傷つけるのが精いっぱいで、このパーティーの誰一人として殺すことは叶わなかった。


「そう言われるのでしたら、もうそろそろ変化の魔法を解かれたらどうでしょうか?」

 

 ルーシェズ魔術師団長がキザラートの傷を治しながら、目上の者に接するような態度で言う。副魔術師団長に対してである。公式の場ならず普段でも見られない言動であった。


「おぬしまで、わらわを年寄り扱いか!……とはいえ、モンスターの襲撃が無傷で切り抜けられなかった以上仕方がないかのう。変化はたいして魔力は使わぬが、それが明暗を分けることも有りうるし、何よりもうわらわの正体を知っておるものばかりじゃしのう」


 ロジーレがそういってちょっと肩を落とすと、ロジーレの輪郭が淡く光る。そしてロジーレの体格がやや華奢になり、目鼻立ちもやや大人びたものになる。少しの変化ではあるが、ごく普通?の美女から、神秘的な美女へと変貌する。一番変わったのは耳である。それは人ではあり得ないほど長く、先端が細く尖っていた。ロジーレは既に滅びたと言われて久しいエルフであった。


「この姿を現すのは何十年ぶりかのう。すっかり変化した姿が板についておったわい」


 そうちゃかして言うロジーレは、元の姿よりも遥かに強者の風格を伴っていた。


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