第42話 成果発表会

 デビュタントの次の日には、私はアナトリ商会の会頭の地位を引き継いだ。ある程度は携わっていたとはいえ、正式に引き継ぐと予想通り忙しい。立ち上げて一年足らずなので、当たり前と言えば当たり前なのだけれど……それでも最も流通が多くなる秋には何とか形にし、利益を上げれるようになったのだ。私は自分を褒めてあげたい。冬になる頃には何とか余裕もでてきた。

 さてそうなると気になるのが全体の動向だ。一応個別に聞いてはいるが、こういう事は全員がきちんと把握しておくことが大事だ。それに報告の抜けや、私が忘れていることもあるかも知れない。そういうわけで、私はホムンクルス達を集めた。


「というわけで、今回は各員の進捗を報告し合おうと考えてます」


「相変わらずとうとつで、何がというわけか分からないけど、まずはミゼンから話してよ」


 エナが私にツッコミを入れる。いいタイミングださすがは私。


「こほん。では私から。デビュタントが終わって、正式に会頭を引き継いだアナトリ商会だけど、出だしはまあまあというところかしら。今は運べば運ぶほど売れるから、回転率が高いわ。ただ木材や石材に需要が集中しているから、それが一旦落ち着いた後の事を考えないといけないわね。一応石材と木材の領内生産の約60%、流通の80%は押さえたわ。穀物に関しては民間の流通は今までほとんどなかったからほぼ100%に近いわね。もっとも量自体がまだあまり多くはないんだけど。

 そしてこれが重要な事だけど、遂に塩の流通をおさえたわ」


 塩は金や銀などの鉱物と比べると地味だが、食料と同じく生活必需品であり、尚且つ生産できるところが限られている、重要な戦略物資だ。これを抑えることが出来たのは大きかった。やはり、運び手自体がモンスターを退けられる力があると、途中の損耗率が違う為、利益率が違う。この世界は護衛を雇うのも大変なのだ。


「そして、かねてから問題になっていた、騎士団と魔術師団のこちらへの勧誘だけど、こちらはエナの報告と被るから、エナに説明してもらうわ」


 私がエナに話をふると、エナが説明し始める。


「では、話はちょっとそれるけど、私のやってた事の説明から始めるわね。あのエロオヤジが、平民や奴隷にあきたらず、貴族の娘に手を出し始めたのは知ってるわよね。まあ、まともな貴族なら、マスターの成人と共に権力を失う奴の妻になんか娘をやらないんだけど、たまに小狡い奴で、エロオヤジとウィステリア公爵家乗っ取りに協力する奴もいたの。で、そいつらの娘をそいつ等の領内で奪ったわ。騎士団が護衛してた場合は、騎士団を殺さずに、親衛隊が護衛してた場合は独りを残して殺したわ。

 当然ながらエロオヤジは娘を隠したものと勘違いして大激怒。2人の当主を殺され領土を奪われた段階で、さすがにエロオヤジにすりよるウジ虫共も警戒して、関係は悪化。領土を奪おうとするも、物資不足で出来ず、今は緊張状態になってるわ。

 後は、ギルフォード男爵のパターンで立場の弱い貴族に差し出させる場合だけど、これは公爵家領内で保護したわ。ただし、護衛が騎士団の場合は弱いモンスターに襲わせて、騎士団は生かし、令嬢はフレッシュゴーレムとすり替えて、親衛隊の場合はギルフォード男爵の時と同じようにしたわ。

 成果が明確に別れた騎士団と親衛隊は片方は蔑み、片方は不信感を抱き、ただでさえ良くなかった関係は、殺し合ってもおかしくないくらい悪化したわ。また、親衛隊は生き残った護衛を殺したエロオヤジにも不信感を抱き、保身にはしり始めてるわね。エロオヤジは騎士団を取り込もうとしてるけど、かえって警戒されてるわね。ただやはり、騎士団と魔術師団をこちらに取り込むには、もうひと押し何かが必要ね。

 親衛隊にこちらの者を入り込ませる件は残念ながら、親衛隊を新たに雇わないから、できてないわ。ここの人間を信用してないみたいね。ただ、その結果約50名まで親衛隊の人数は減ったわ。

 後、結果として、エロオヤジとオズミラ伯爵、モネナヴァン子爵とは敵対。リビネリア男爵、ケレンパス騎士爵、キッシーゼ騎士爵はこちらに取り込めたわ」


 パチパチパチと私を含め4人が拍手する。素晴らしい成果だ。騎士団と魔術師団については仕方がない。神竜ロールアンクスを倒すという、ウィステリア公爵家の存在意義に関わるような事を計画しているのである。並の事では味方にはなってはくれない事は予想の範囲内だ。


「では、次は私の番かしら」


 そう言ってイスナーンが話始める。


「エロオヤジから救出した女性や不幸に見舞われていた人物に加えて、食料生産に余裕が出来たことにより、新たに兵士になる者を増やしたわ。ただ忠誠度はそんなに高くないから、例のレベリングはしていないわ。それでも、ゴブリンやオークなんかを倒して、2~3レベルまでは上げたかしら。中核を担う兵士ではないけど、人数にして約2000名。この数は馬鹿にできないレベルだと思うの。ゲームが始まると予想される時までには3000名まで増やすつもりよ。数が数だから、ある程度訓練が終わったら周辺部の村に、治安部隊として駐留させているわ。もちろん兵士の風紀の引き締めには気を付けているから、今のところほとんど問題なしよ。公爵令嬢の個人的な兵としてるから、周辺部における公爵令嬢の評判はうなぎのぼりよ」


 パチパチとまた拍手が響く。実に素晴らしい。これで仮に領軍が全部敵に回っても十分対応できる。


「それじゃあ、次は私の番ね。と言っても私の場合そんなに報告する事は無いのだけど」


 今度はトゥリアが話し始める。


「農業改革は順調そのもの。都市部から人が流れてきているけど、元々耕作放棄地が多かったら、その分耕作面積が増えているわ。食料の生産能力は人口増加を上回っているから、イスナーンの報告にあったように、兵士を養う余剰生産能力は十分。強いて不安を言えば肉類が若干不足し始めている事かしら。その辺りは今までほとんど食べていなかった、魚を食べるようにすれば何とかなると思うわ」


 これにも拍手がおこる。地味だが大事な仕事だ。それが滞りなく進んでいるのは素晴らしい。


「じゃあ、最後に私ね。私の場合は一つ一つ攻略したダンジョンを報告すると長くなりすぎるから、結果だけ言うわ。集めたマジックアイテムについてはリストがあるから、後で見てちょうだい」


 最後にテッセラが話し始める。


「今までに攻略したダンジョンは大小含めて45。もちろん公爵領の外のダンジョンのクリアも含まれているわ。重要なアイテムはほぼ回収済み。召喚される勇者を邪神側へと誘導するボスもほぼ排除完了。これでゲームとしたら一本道のシナリオで、更にレベリングの場所が限られるという、かなりつまらない内容になると思うけど、私達に敵対する可能性はまずなくなったと思うわ。後、みんなにも手伝ってもらったおかげで、今の私達のレベルは仲良く70。ミゼンを除けばこの世界最強のはずよ」


 最後の報告にも当然ながら拍手が鳴り響く。改めて聞くと実に素晴らしい。よく頑張った私達。


「みんな、素晴らしい成果だわ。これで、後は騎士団と魔術師団を味方につけ、神竜ロールアンクスを倒して、力の制限を解けば完璧ね。あと少し頑張るわよ!」


「「「「おお!」」」」


 全員が拳を上げ、気合を入れ直す。


「ところで恋愛方面は?」


 誰かが呟いた声を私は無視した。


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