第41話 デビュタント後の一幕

 次の日、義父に呼び出され、王子との婚約が決まった事を告げられた。内々に進められていたとはいえ早い事だ。私は別邸へと帰り、ベッドに横になり、ひとしきり溜息を吐く。だが今更嘆いていても仕方がない。バッドエンドを迎え無い為の準備は着々と進んでいるのだ。悲観する事は無い。

 私は地下室へと続く階段を開き、降りていく。地下室の共同スペースには珍しくホムンクルス達4人が揃っている。


「珍しいわね。貴方達が全員いるなんて」


 私がそう言うと、ホムンクルス達は顔を見合わせる。


「だって、マスターのデビュタントに始まり、今までイベント盛りだくさんだったでしょう。マスターならこんな時どっかに行ってるの?」


 代表してエナが聞いてくる。確かに自分なら興味津々で待っているだろう。私がそうだと言う事はホムンクルス達もそうだということだ。こんな時は4人が同じ性格だとちょっと困ってしまう。


「そうね。じゃあ何から話そうかしら。取りあえず義父に久し振りに会ったんだけど、あいつ我慢できないぐらい臭かったわ。部屋も臭かったし。あの臭いだけで殺意を覚えたわ」


 ホムンクルス達はみんな、ああ、と妙に納得した顔をする。


「マスターがフレッシュゴーレムを作らなくなって、さらに最近私達も忙しかったでしょう。ちょっと造りが雑になってたのよね。具体的には再利用できそうなものは、ちょっとぐらい腐ってても再利用してたの。それを抱いていたから移っちゃったみたいね。一応消臭の魔法はかけていたんだけど、マスターの方がレベルが高いから効果が無かったんじゃないかしら。後、部屋に関しては地下室の換気が悪いからどうしようもないわ。地下室って寝室を通じて、応接室とつながってるもの。メイド達も頑張ってはいるようだけど、一時的に窓を開けたぐらいじゃどうしてもこもると思うわ。あいつの為に部屋を消臭する気にはなれなかったし、それにあいつあの匂いを臭いと思っていないみたいなのよね」


 今度はイスナーンが答える。だいぶ手抜きをしていてみたいだが、こればかりは私のせいでもあるので責められない。


「そんな事より、あの王子様どうだった?なかなかハンサムだったし、良い感じで踊ってたじゃない」


 トゥリアがその話はお終いとばかりに話題を変える。だがその話題も私にとっては嫌な思い出だった。ウィザードアイのマジックアイテムは広間の様子は映し出せるが、流石に私の耳元でささやかれた声は拾えなかったらしい


「それも最悪。あいつ私の事をペットとしては悪くないとか言ったのよ。しかも見え張って、私の幻術を見破ったふりしてさ。モブキャラのくせに」


 私は吐き出すように言う。ちょっと期待しただけに、落胆も大きかった。流石にそれだけで殺そうとは思わなかったけど、少なくとも死んでも心は痛まなくはなった。


「自分の婚約者ぐらいちゃんと設定を決めておけばよかったのに……」


 誰かがぼそりと呟く。私もそう思うが後の祭りだ。どうせいなくなるキャラだからと軽く見ていた。プレイヤーが私のイベントを始めた時点で、殺されるキャラクターだし、プレイヤーがバモガン側についたら消えるキャラクターだったのだ。


「残念だわ。せっかく甘酸っぱい話の一つぐらい聞けると思ったのに。マスターも含めて、私たちこの歳で働き詰めじゃない。このままだと前世の二の舞よ」


 トゥリアの言葉に言葉が詰まる。この世界では貴族といえど結婚適齢期は短い。デビュタントから成人までには婚約者が決まり、成人とほぼ同時に結婚するのが普通なのだ。別に結婚=女の幸せと考えている訳ではないが、前世で出来なかったのだから、今回はしたいと思うのは当然ではないだろうか。


「そ、それはそうだけど。大丈夫よ。私が女公爵になれば、私のイベントは終わりだし、後は主人公キャラをトゥルーエンドに導けば世界も救われるわ。後は選び放題よ」


 主人公者キャラは、古の善の神々の力でこの世界に転移してくる異世界人で、トゥルーエンドだと邪神を倒し、この世界を再び祝福の溢れた世界にするのだ。ただゲーム通りに本当に現れるとは限らないし、何よりこちら側に付くとは限らないし、場合によっては戦う事もある。

 そうでなければ勇者になる主人公キャラを基本的に待っていればよかったのだ。まあ、そうは言っても悲劇は嫌だから、最低限身の回りの事に関しては動いただろうし、義父もその内殺しただろうけれども。

 ゲーム上では私が女公爵になる大きく分けてパターンは2つ。一つはそのまま王子と結婚して女公爵になるパターン。もう一つは主人公キャラの仲間になり、出奔した後、反乱を起こし地位を奪い取るパターン。

 細かく分ければもっと有るが、私はとにかくどのパターンでも大丈夫になるように行動してきた。そしてそれは今までうまく進んでいる。最悪、自分で邪神と戦うつもりもある。


「そううまくいくかしら?」


 テッセラが疑問を言う。


「いくわよ!女公爵になったあかつきには、力も権力も地位もお金もあるのよ。いっその事領内中の適齢期の男を集めて、オーディションをやっても良いかもね」


「「「「うわっ、最悪。ロマンも何もないわ」」」」


 4人が顔をしかめて言う。私もちょっと無いかなとは思った……


「まあ、そんな感じで別に何も良い事は無かったわ。デビュタントも終わった事だし、お酒でも飲みたい気分ね」


 別にお酒を飲むのに年齢制限があるわけではないが、何となく今までは最低限しか飲んでこなかった。デビュタントをした以上、社交界で飲むことも有るわけで、自分から飲んでも構わないはずだ。


「そう。じゃあ、マスターこちらに来て」


 エナが先頭に立ち、他の3人からも円卓の部屋に行くように促される。なんだろうと思いながら円卓の部屋に行くと、広い円卓に所狭しと豪華な料理が並んでいる。飾りつけも見事だ。真ん中には大きなケーキまである。見ただけで4人が作ったと分かった。


「「「「デビュタントおめでとうマスター」」」」


 4人が笑顔でお祝いを言ってくる。私はちょっと、ウルっとしてしまった。なんて可愛い子達なの。私はこの4人を大切にしようと心に誓った。


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