第36話 公爵令嬢、会頭(仮)になる
早いもので、前世の記憶を取り戻してもう1年半以上になる。ウィステリア公爵領周辺部とギルフォード男爵領、レヘンシア騎士爵領だけとは言え、収穫も安定してきた。周辺部はまだ徴税官が来ないので、税収は総て私のものだ。
周辺部で人口密度が低いとはいえ、生産性が上がったので馬鹿にはできない収穫量になっている。
また、ギルフォード男爵領は人口約6千人に、レヘンシア騎士爵領も約千5百人に増えていた。
人口が増えるのは良いことばかりではない、急速な人口増加に、住居、衣服を筆頭に色々なものが不足し始めている。
食料は私やホムンクルス達が収納魔法と転移を使ってやりくりしていたが、それにも限界が見えてきた。
「というわけで、第3回円卓会議を始めます。議題は輸送網構築についてです」
飢饉は食料が無くて起きるのではない、運ぶ者が居なくて起こるのだ、と前世の誰か偉い人が言っていたような気がする。真偽はともかく、輸送網の構築は大事だ。
「全部を私達が管理するのはもう難しくなってるわ。いっそうの事商会を設立して、儲ければいいんじゃないかしら。今ならほぼ独占だし、儲けれると思うわ」
エナが真っ先に意見を述べる。
「それは私も考えていたわ。ばらまいたお金も、回収をしないと、無限にあるわけじゃないしね」
私はエナに賛同する。これまでに宝物庫から盗んでばらまいたお金は、日本円にして1000億近くに上っているはずだ。しかも人口の少ないところに集中して投資している。おかげで領内の周辺部は大分景気が良い。
「それは良いんだけど、間に合うかしら?もう後1ヶ月もしたら、冬小麦や、大麦の収穫時期に入るわよ」
イスナーンが少し心配そうに聞く。
「確かに、ちょっと正攻法では難しいわね。今訓練所にいる人たちを使ってどうにかできないかしら?」
イスナーンが言う様に、僅か1ヶ月で商会を設立し、尚且つ運用するというのは時間的に厳しい。だが訓練所には様々な人間がいる。全部をカバーするのは難しいが、最悪自分たちがカバーできない部分をやってくれるだけで良い。
「そうねぇ。確かに元の職業が色々あるから、何とかなるかも。レベルが上がったし訓練もしているから、数人単位で行動しても、その辺の盗賊や、ましてやゴブリンなんかには負けないと思うし。それでも100組ほどかしら。商隊を組むとしたら、20~30ってところじゃないかしら」
イスナーンは考え込んで答える。思ったよりは少ないが、無いよりは良い。
「十分とは言えないけど、幾つかの村は輸送網が組めそうね。それとギルフォード男爵領とレヘンシア騎士爵領は建築用の木材が不足してるわ。人口が増えているけどこのままじゃ、スラムが広がりかねないわ。元々そんなに大きな領土でもないしね。なので優先的に木材を提供することにしましょう」
私が言い終わると、トゥリアが手を挙げて発言する。
「はい。それは良いんだけど、誰が木を切るの?私達?」
痛いところだ、建築用の木を切るには通常だと結構時間がかかる。テッセラが手を挙げて発言する
「訓練から解放される、男爵と騎士爵の兵士を取りあえず使ったらいいんじゃない。初めは訓練がいるだろうけど、何とかなると思うわ。私、丁度いいアイテムを持っているのよ。首切り役人の大斧なんだけど、首切り領主の城をクリアしたときに、結構手に入れたの。攻撃力高めだから、木を切るのにも使えるんじゃないかしら。今の男爵と騎士爵の兵士ってレベルが高いから、扱える人も多いと思うの」
首切り役人の大斧は名前に反して、苦しまずに罪人の首を切れるように造られた、切れ味の鋭い大斧だ。もちろんマジックアイテムである。樵が使う斧とは使い勝手が違うが、あの斧を使いこなせば、下手な木なら2、3回も叩き付ければ切れる程の威力がある。
「いいわね。当面の間そうしましょう。それにしても我が領には足りないものが多すぎるわ……」
私は軽く溜息をつく。
「他の領に比べたら全然ましよ。死人と活きている者の区別がつかないところや、どうやって生活しているのか分からないところもあるわ」
いろんなところを飛び回っているテッセラが慰めるように言う。
「逆に言えばそれだけ漬け込む隙があるって事よ。商会の会頭は別に貴族である必要は無いし、年齢も16歳以上なら成人とみなされるから、変にごまかさなくても大丈夫よ。今は仮の会頭という事で、半年ぐらい別の者に任せて、デビュタントと同時に継げばいいんじゃない。上手くいけば貴族の成人である、18歳までには経済界を牛耳れると思うわ」
エナもそう言って励ましてくれる。
「そうね。そう考えましょう。取りあえず個別に動くのは効率が悪いから、集積地を作らないといけないわね」
個別にどこかに運んでいたら効率も悪いが、管理もしにくい。だが、ある程度人口がないと、その集積物を管理する物が足りない。集積地は軍事上の重要拠点にもなりうる。こればかりは他領には作りたくない。
「じゃあ、ここはどうかしら、大きな川のそばだから船での運搬も視野に入れられるし、人口もそこそこあるわ。主要街道沿いだけど、領都から離れているのも良いわね。代官はエロ爺から派遣された典型的な悪代官よ。最初賄賂を渡しておいて、良いように操った後、用済みになったら消しましょう」
エナは机の上に広げた地図の一点を指す。そこはタヒネリアという人口約5千人の街だった。
「良いわね。後は商会の名前だけど、夜明けということでアナトリ商会で良いかしら」
「「「「良いわよ」」」」
こうしてアナトリ商会が発足した。
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